【感想・ネタバレ】チャーズのレビュー

あらすじ

終戦直後、中国では国民党と共産党の激しい内戦が繰り広げられた。その中で起こった市民30万人が餓死した長春の「チャーズ」事件。尖閣問題によって歴史認識に注目が集まっているいま、中国が封印してきた過去を暴く渾身のノンフィクション。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

[執念の証明]麻薬中毒患者を治す薬で一旗上げた著者の父は、長春(注:満州国時代の新京)で日本国の敗戦を迎える。中国国内における国共内戦の激化に伴う長春の封鎖がその後始まり、電気・ガス・水・食料の配給が停止。命を守るために長春からの脱出を図る家族であったが、そこで著者を待ち受けていたのは、中国現代史が忘れ去ろうとしている「チャーズ」の地獄であった......。渾身という表現が生易しく聞こえるほどのノンフィクションです。著者は、中国社会科学院社会科学研究所客員研究員などを務められた遠藤誉。


十数万単位の餓死者(正確な人数は現在も不明)を出したにもかかわらず、その事実が今日においても広く知られていないということにまず衝撃を覚えました。著者やその家族が直面した地獄とも言える現実の描写には圧倒されるばかりですし、遠藤氏がそれを今生のうちに書き残そうとする意志にも「怨念」にも似た強い思いをひしひしと感じました。また、遠藤氏の逃避行とその後の日本引き上げ前の生活から、戦後間もない頃の中国の歴史が実体感を伴って知ることができるのも本書の魅力の一つ。

〜自分を生み育んだ国への愛と怨念という、アンビバレントな葛藤の中で闘い続けた私は、ふたたび「チャーズ」の事実をここに残したいと思う。中国で公になる日を待たずに、私はこの世から消えていくことになるのかもしれない。それでも私は墓標を建てる。〜

やっぱりこの人の著書は外せない☆5つ

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2016年12月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

・中国建国前夜。かつて満州国の首都であった長春(満州国では「新京」と呼んでいた)を舞台に凄惨な攻防があったことはあまり知られていない。著者はその長春でギフトールというアヘン中毒に効く薬を作っていた「新京製薬」社長の娘。本書は当時7歳の少女だった著者が1953年の引揚げまでに経験した長春での生活、戦争、凄惨な逃避行を綴ったもの。「人民は飯を食わせてくれる者を支持する」「だから、誰が飯を食わせてくれるのか教えてやれ」という毛沢東の言葉から長春は重囲の中、飢餓による死地と化した。今となっては「为了人民服务(人民に奉仕する)」であるはずの共産党がそんなことをするはずがないと黒い歴史になっている事実だが、本書はそんな歴史の闇を告発する為に書かれている。
・「五星紅旗が紅いのは、革命の為に血を流した人民の血に染まっているからだ」というくだりがあるけれども、その人民の血を背負って新中国を建国したはずの中国共産党は、一方でその建前を維持するために多くの民衆の「出血」を強いた。本書に限らず、中国共産党の(文字通りの)黒い歴史に言及する書籍は少なくない。中国文学では紅衛兵世代の作家を中心に「中華民族のルーツを問い直す」潮流を生み、その成果はルーツ文学(寻根文学)という果実を生んだ。その多くは最終的に中国共産党の虚構を暴く方向に筆を進めていくのだが、本書もその系譜に連なると言ってよいかもしれない。冒頭に人民英雄記念碑が出てくるが、英雄を顕彰し、その国家への忠誠を称えるという仕組みはまさしく中国の靖国神社だと思った。英雄と祀り上げる一方で、英雄となることなく国家の犠牲となった人々もいる…。殊に日中戦争や靖国神社参拝の話になると拗れがちな日中関係だが、実は共通点があるものだ。
・余談だが、中国を描くには欠かせないものがあると本書を通じて思った。食、曠野、空。どこまでも続く曠野があり、大地と太陽が育んだ食糧があって初めて中国を語り得る。中国という国の持つ巨視的な視点は大地の・空の広さから生まれるのかもしれないと思った。

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2014年02月02日

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