あらすじ
◆労働省vs法務省の権限闘争と、
特殊な日本型雇用システムにあった!
労働政策研究の第一人者が解き明かす、驚きの真実
「開国論」vs「鎖国論」という知識人たちの浅薄な議論の陰で
起きていたこととは……
◎内容紹介
日本は外国人労働者に極めて差別的、技能実習制度は「現代版奴隷制度」など、国内外から批判されてきた日本の外国人労働政策。
80年代には、「開国論」対「鎖国論」が論壇を賑わせたが、日本の制度が歪んだのは、排外主義的な政治家や狭量な国民のせいとは言い難い。
本当の原因は、霞が関の権限争いと、日本型雇用慣行の特殊性にあった。
労働政策研究の第一人者で、元労働省職員でもあった濱口桂一郎が、驚きの史実を解き明かす。
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Posted by ブクログ
本書は、日本の外国人労働政策がなぜ長期にわたり混迷したのかを、主に1980年代後半以降の政策形成過程から分析するものである。著者は、その根本原因を単なる移民政策の是非ではなく、日本型雇用システムと官庁間の政策対立に求めている。
1980年代後半、バブル期の労働力不足と不法就労の増加を背景に外国人労働問題が顕在化した。当初、法務省は在留期間や家族帯同を制限した形での単純労働者受け入れ、すなわち正面からの受け入れ(フロントドア)を検討していた。一方、労働省は外国人労働者個人ではなく雇用主に許可を与える「雇用許可制」を提案し、単純労働者の受け入れには慎重な姿勢を示した。この制度設計をめぐり、入国管理権限を握る法務省と雇用政策を所管する労働省との間で激しい対立が生じた。さらに、外国人雇用規制が在日韓国・朝鮮人の雇用に影響を与えるとの批判も加わり、労働省案は撤回されることになる。
その結果、ブルーカラー外国人労働者の正規受け入れ制度は整備されないまま、日本は「フロントドア」を持たない状態に入る。代わりに、日系人の受け入れ、研修制度、技能実習制度、留学生のアルバイトなど、労働者受け入れを直接の目的としない「サイドドア」的制度が拡大し、外国人労働力は事実上これらの枠組みを通じて供給されるようになった。このような迂回的制度は、労働者保護の不十分さや制度の目的と実態の乖離など、多くの問題を抱えることとなる。
著者は、この政策の歪みの背景に、日本型雇用システムの影響を指摘する。終身雇用や企業内育成を前提とする日本型雇用では、外部から単純労働者を柔軟に受け入れる制度が制度的に想定されておらず、そのため外国人労働政策も一貫した労働市場政策として設計されなかったとされる。こうした構造的要因により、日本ではブルーカラー外国人労働者の正面受け入れが約30年にわたり回避され続けた。
2018年の入管法改正により「特定技能」制度が創設され、日本はようやく限定的ながらブルーカラー外国人労働者のフロントドアを制度化した。しかし著者は、依然として労働市場テストや受け入れ上限の明確な枠組み、外国人労働者を包括的に規定する法制度などが十分に整備されていないと指摘する。したがって、日本の外国人労働政策は依然として過渡期にあり、今後は労働市場政策と一体となった包括的な外国人労働者法制の構築が求められると結論づけている。
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本書を通じて、日本の外国人労働政策は単純な受け入れ是非の問題ではなく、日本型雇用システムや官庁間の権限争いなど複雑な要因の中で形成されてきたことが理解できた。特に1980年代の政策検討段階では、法務省と労働省の制度設計の違いが強く対立し、その結果として正面からの受け入れ制度が整備されないまま、技能実習などの迂回的な制度が長く続いたという指摘は印象的である。一方で、雇用許可制など当時検討された制度には企業側の権限が強くなりすぎる懸念も感じた。また2018年の制度改革によって一定の前進はあったものの、依然として包括的な外国人労働法制が十分とは言えないという著者の問題提起には考えさせられる部分が多かった。