あらすじ
キャリアの絶頂にある画家のアレックスはこれまでの集大成となるロンドンでの展覧会を前に、幼少期を過ごした自宅を売却するため、数十年ぶりにイタリアの小さな町を再訪する。彼は幼き日に、この自然豊かな田園地帯を親友のジェイミーと年上の少女アンナとともに探検した。アレックスの記憶の断片は、三人を理解不能なまでに深く結びつけた輝かしい日々をよみがえらせる──そしてすべてを決定づけた、廃教会で傷ついた“隠者”と出会った運命の日のことも。追憶と現在が交錯し、そのあわいに息を呑むほど美しく残酷な物語が浮かびあがる。きらめくような愛惜と心震わせる郷愁が描き出す、早熟の天才と謳われた著者が小説の構造美を磨きあげて贈る円熟の傑作。/解説=川出正樹
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Posted by ブクログ
すんごい分厚い本で、気合を入れて読んだけれど、とても良かった。
美しい風景描写、不穏な雰囲気、子供時代の全能感無力感等々。
アンナの義父からの性的虐待からのテロリストへの傾倒だとか、ジェイミーの同性への愛とか、主人公が自分の選択を悔やんでいるところは感じたけれど、希望の持てるラストだった。
3人で入江で泳いだ時、ただ楽しい気持ちは共通点していて、3人ともあの時に戻りたかったんじゃないかなあ。
Posted by ブクログ
「ソフィー」で有名なイギリスの作家、ガイ・バートの大作。「ソフィー」は昨年復刊してたけど、新作としては十数年ぶりの邦訳。
画家として大成したアレックスは、数十年ぶりに故郷のイタリアを訪れる。集大成の個展を開く前に、子供の頃、隣家のジェイミー、その従兄弟のアンナとの三人で過ごした記憶と向き合い、今の自分に何が欠けているかを探すためで…
雰囲気としては、トマス・H・クックやケイト・モートン。クックほどの悔恨はなくて、モートンほど綺麗に過去パートと現代パートがあるわけではないが、この二人が好きなら、今作は非常に刺さるはず。
「ソフィー」は未読のため、この作家の作風なのかはわからないけど、全編に漂う愛惜、郷愁が非常に心地よく、また四つの年代が途切れなく挟み込まれるため、幻想的な雰囲気を醸し出している(年代が途切れなく続くのは、タンポポ時計の由来と合わせるためかもしれないけど。。。)。
個人的には年間ベスト級なのだけど、いかんせん長い。訳が良くて読みやすいが、流石に700ページ近くあり、読み終えるのにはそこそこ時間が必要。これでもう少し短かったら、それこそ各賞総ナメだと思うけど…
あとは、ミステリかどうかと言われると、うーん…若干違う様な気がする。ところどころ想像にお任せなところもあり。もちろん、三人に何があったか、隠者とは何か等、読み進めたい謎はあるし、その結末も切なく感情を揺さぶられるものではあるけど。
間違いなく素晴らしい作品で、おすすめできるのだけど、長さとミステリとしての薄さはわかった上で読んでもらいたい。
Posted by ブクログ
読み終えて最初に残ったのは、アレックス、ジェイミー、アンナの三人は、最後まですれ違ったままだったのかな、という感覚。三人それぞれの気持ちが一方通行で切ない。
全体がアレックスの視点から語られることで、二人の内心や、語られなかった出来事が読者の想像に委ねられているのがいい余韻になった。
両親を戸惑わせないように顔色をうかがっていた幼少期のアレックスに、そのままの自分を受け入れてくれた親友との出会いがあり、さらに強烈な印象を放つアンナが現れる。隠者を匿うよう押し切られて、忘れられない夏を過ごした。それがアンナの誕生日に終わり、三人は同じ秘密を抱えたままバラバラになる。
少年期にジェイミーと再会するけれど、彼の素っ気なさの理由がわからず戸惑いながら、アレックスは絵の才能に目覚めていく。アンナへの恋心を育てつつ、ジェイミーとの友情が戻った(と勝手に思い込んでいる)ことにウキウキして、ジェイミーを悪意なく傷つけていくアレックスがしんどかった。
結果的に、ジェイミーもアンナもアレックスが殺したようなものだと思ってしまうけど、同時に、アレックスにとって二人がどれほどかけがえのない存在だったかも痛いほど伝わってくるから、単純に責める気持ちにはなれない。その苦さが読んでいて一番こたえた部分かもしれない。
三人の中では、ジェイミーが一番繊細で、傷つきやすい人だったように感じる。
アンナについては、「アナ」という自認の芯が(時代背景による解説を読んだ後では)彼女自身の一貫性として描かれていたのが良かった。
ギフテッドと言えるような才能を持つ主人公が、大人たちにどう映っていたか、そしてジェイミーの目にはどう映っていたかという視点の違いも良かった。アレックスはジェイミーとレーナに出会えて本当に良かったよ。
隠者については、アレックス視点だったこともあってそれほど思い入れが生じなかった。重要人物ではあるけれど。
架空の町アルテサの空気感も良かった。行ってみたくなる。
三人がずっとアルテサにいられたら、悲劇は起きなかったかもしれないけど、それだと、アレックスもジェイミーもアンナも、それぞれが夢中になれるものと出会えなかったかもしれないから、どちらが良かったかは分からない。
長い作品だったけど、その分、アレックスの半生と一緒に生きたような没入感があって、読見応えがすごかった。
経験した場面を完璧に再現できる才能、ちょっとだけ羨ましい。