あらすじ
高崎市内の川土手で私立高校に通う女生徒の扼殺死体が発見される。その二日後、今度は同校の女性教師が謎めいた遺書を残して自殺する。そして行方不明だった野球部監督の毒殺死体が発見されるに及んで、俄然事件の背後に甲子園行を目指して熾烈な闘いをくり展げている学校同士の醜い争いが炙り出されてくる……。「模倣の殺意」「天啓の殺意」のトリック・メーカーが、密かな自信をもって読者に仕掛ける巧妙なワナ。改稿決定版。
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Posted by ブクログ
作者あとがきで、「『皇帝のかぎ煙草入れ』のような作品」と書かれていたので、共通項を探しながら読んだが、心理的なトリックが用いられていることを指しているのだろうか。「皇帝のかぎ煙草入れ」で使われている、あのトリックが形を変えて使われているのかと思ったが、そうでもなく、騙し方としては叙述系と感じた。トリックよりも、第9章で百世が気付いたことの方が類似性があるように思った。
推理の鍵となる重要な事実が後の方で明らかとなるため、読者が推理する余地は少ないが、犯人のアリバイトリックの手法、冒頭部分の記述における錯誤、絵里子の遺書と日記帳に関する真相、伏線の忍ばせ方など、数々のアイデアが盛り込まれていて、ミステリーとして、充実した内容を持っていると感じた。ただし、真相の衝撃度は少なく、あっさりとしているので、あまり騙された感じはしない。
選手や監督の不祥事ならいざ知らず、後援会の会長の不祥事ぐらいで謹慎処分になったりするだろうかと疑問に思った。
(ネタバレ)
「皇帝のかぎ煙草入れ」との類似点として、犯人が本来知らないはずのこと(日記帳の赤いカバーのこと)を証言し、発覚したことが挙げられると思う。
Posted by ブクログ
お気に入りのミステリ作家の一人,中町信の代表作の一つ。もともとは,1980年に「高校野球殺人事件」として発表された作品。2006年に創元推理文庫から「空白の殺意」と改題されて出版されている。
先に,折原一などによる最近の叙述ミステリを読んでいるので,それらを読んだ上での評価になるが,中町信の作品は,叙述トリックがシンプルにかつ丁寧に使われていて非常に好感が持てる。驚愕というほど驚けないが,よくできていると感心できる作品ぞろいだ。
「空白の殺意」では,プロローグで,さらっと読むと死体を発見したシーンとしか思えない場面が描かれている。しかし,実際は,犯人が殺人を犯すより前に,被害者の家を訪れたシーンであり,エピローグまで読んでから,改めてプロローグを読むと,「この死んでいるというつぶやきは,被害者ではなく,被害者の飼い猫が死んでいるというつぶやきだったのか…」と感心できる秀逸なプロローグである。
あとがきで,中町信は,カーの「皇帝の嗅ぎ煙草入れ」のような,心理的なだましのトリックをメインに据えたサスペンスを書きたかったと書いているが,正統派の叙述トリックというか,見事な心理トリックである。
殺人の動機は,犯人が息子の甲子園出場という夢を果たすために,高校の不祥事を隠蔽するために殺人を犯すというもの。この動機は,昭和っぽいなとも思うが,今でも似たようなものかもしれない。
中町信の作品のような,正統派の叙述トリックはとても好み。この作品の評価の★4で。