あらすじ
食糧危機から人肉食が合法化された近未来。食肉処理工場の重役マルコスは、日々「頭」と呼ばれるヒトを屠畜していたが――全世界で100万部突破の、究極の超問題ディストピアホラーSF。
世界100万部突破 30カ国翻訳 TikTokで話題の超問題作
人肉食が合法化した社会を冷徹に描き切った、究極のディストピア食人ホラーSF!
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◆クラリン文学賞(2017)受賞
◆レディース・オブ・ホラーフィクション賞長編部門最優秀賞(2020)受賞
◆ワシントン・ポスト紙ベストSF(2020)選出
◆フィナンシャル・タイムズ ブックオブザイヤーSF部門(2020)選出
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動物感染症のパンデミックにより畜肉が食べられなくなり、かつてない食糧危機が人類を襲った近未来の世界。たんぱく源を求め続けた人々の間で、移民・貧民を狙った人肉の闇取引が横行。食肉需要を満たそうとする企業の圧力に政府が屈し、ヒトの飼育・繁殖・屠畜・加工が合法化された。この出来事は〈移行〉と呼ばれ、家畜化されたヒトは〈頭〉、それを加工して作られた人肉は〈特級肉〉と言い換えられた。「クレイグ食肉処理工場」の重役マルコスは、〈頭〉を解体し、〈特級肉〉として出荷する日々を送っていた。ある時、一頭の家庭飼育用の最高級の〈頭〉のメスをなりゆきで譲り受けるが、非合法とされる「人間扱い」をはじめてしまい……。
世界中で話題沸騰〈スパニッシュ・ホラー文芸〉超問題作!
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Posted by ブクログ
おもしろかった。
とんでもなかった。
ラストがとんでもなかった。
ここからは個人的な考察になるが、主人公はジャスミンに服を着せたり、テレビを見せたりして一見、本物の人間のように扱っているが、それと並行してかれがペットに少し異常とも言えるような愛情を持っていたことが描かれている。
彼は、彼女を最初からペットとして、いや、もしかしたら自分の子供を産ませるだけの道具としてしかみていなかったかもしれない。
私たちは、常に動物などに対してひどいことをしているので、もしいきなり宇宙人とかに家畜にされてもなんも言えない気がしました。
妹との会話が印象に残りました。
また読みたいです。
Posted by ブクログ
動物福祉「アニマルウェルフェア」という言葉を最近目にすることが増えた。
命を殺して食べる生き物である人間は、苦痛のない飼育や屠殺を実践する責任があると私は思う。
この本は、人肉食が常識となったディストピアが舞台。畜産国であり、肉食がどの国よりも盛んなアルゼンチンという設定も説得力がある。友達とのバーベキューで、羊一頭丸ごとをベランダで焼いて平らげる国だ。翻訳者もあとがきに書いているが、アルゼンチン人にとって肉が食べられないことは日本人にとって米が食べられないことと近いだろう。
主人公は人肉食産業を生業としながら人間を肉ととらえる社会に苦しんでいる、私たち読者寄りの立場だ。彼の目を通して、食肉の現実を見せつけられる。苦痛のない屠殺については、倫理ではなく商業の価値観から語られる。
屠殺現場は何度も出てくる。終盤、私は麻痺し、冷静にとらえる。読者の私にとって、主人公は救いに近いが最後に裏切られた。このディストピアでは正解なのだろう。(ただし、主人公の行為はディストピアでも犯罪で、この倫理観がまた考えさせられるのだが。)
さて、私が読んでいて気に入った一文は91ページの最後の非常に長い一文。
これは翻訳の妙もあるのかも?主人公の回想が文字通り頭のなかをぐるぐるとし、回りながら暗黒に落ちていくようなテンポ感。
同じ作者の別の作品も読んでみたい。
Posted by ブクログ
パンデミックにより動物がほぼ淘汰され、人間を食肉用として家畜化することが合法化された近未来、食肉処理会社で働く男の姿を通して描かれたディストピアSFホラー。常識、倫理観、感情を激しく揺さぶられる一作。
動物感染症の蔓延によって畜肉の食用が不可能となってかつてない食糧危機が世界を襲う。動物性蛋白質を求めた一部の間で移民や貧民を狙う人肉の闇取引が横行する。食肉需要を充たそうとする圧力に押され、食肉用としてヒトを飼育・繁殖・屠畜することが合法化され、それらのヒトは〈頭〉と呼ばれていた。主人公マルコスは〈頭〉を解体し加工した〈特級肉〉を卸す食肉処理工場の重役だったが、待望の赤ん坊を喪い、妻とは距離が生れ、父親は認知症を患うなど私生活で鬱屈したものを抱えていた。ある日マルコスは最高級のメスの〈頭〉を家庭飼育用として譲り受けるが、彼はそのメスをジャスミンと名付け“人間扱い”するようになる。それはこの世界に於いて非合法であり禁忌であった……。
マルコスが働く様子を描く中で、〈頭〉が屠畜され、解体されて食用肉として加工されていく描写が詳細に描写される。〈頭〉は声帯を切除され、人間とのコミュニケーションは不可能とされており、また遺伝子操作と成長促進剤を投与を受けているものが多いが、それらを受けずに飼育されたものは〈純粋第一世代(PGP)〉としてその肉は〈特級肉〉として高値が付けられる。後半では〈頭〉を動物実験に用いる医学研究所や、〈頭〉ではない人間(負債など訳アリ)を狩りの対象にする狩猟場やハンターが登場する。人間が人間に対して行うから残虐行為でありホラーと捉えられるのだが、考えてみればそれらは現在の世界において人間が家畜その他の動物に対して普通に行っていることであり、今日自分達が口にした肉はそれと同じ過程で生産、加工されて食卓に上ったものなのだ。
また人間として生活している者であっても、法に触れれば最悪の場合自身も処理場に送られる―即ち食用肉とされる社会であり、さらには信徒の中から希望者を自ら食肉用に提供しようとする〈生贄教会〉や、流通させられない質の肉や非合法な肉を漁るアウトサイダーな集団〈腐肉業者〉なども描かれる。
マルコスは子どもを喪った後肉が食べられなくなったこと、人肉食そのものに批判的な思いを抱えている等が記されているが、彼が〈頭〉であったジャスミンと出会ったことで、そのような諦観と絶望に覆われた世界にどのように対峙していくのかと思いきや……描かれるラストはかなり衝撃的なもの。
作者A・バステリカはヴィーガンだという訳者あとがきを読んで腑に落ちたが、コロナ禍前の2017年発表というのはやや意外でもあった。何れにしてもエンターテインメント作品として愉しめるSFホラー作品というよりも、現代社会―就中消費と飽食が蔓延する資本主義社会に真正面から強烈な皮肉と警句を突き付けた現代文学、という印象を持った。