【感想・ネタバレ】適者はいかに作られる――DNAで読み解く進化の仕組みのレビュー

あらすじ

南氷洋でも凍らない無血魚、熱泉に生息するアーキア(古細菌)、三色型色覚を持ち反芻するサル、生きた化石シーラカンス、単純な眼から複雑な眼までさまざまな眼の進化……それらの適応はみなDNAに残されている進化の痕跡で説明できると、進化発生生物学(エボデボ)の第一人者キャロルは語る。ダーウィンにとって見ることのかなわなかった自然淘汰(「適者生存」)の中間段階は、DNAに刻印されているというのだ。〈私はさまざまな読者を想定して本書を執筆した。自然史学に大きな関心を持つ読者のためには、熱泉や洞窟、密林、溶岩、深海といった過酷な環境に魅惑的な生物種がいかに適応しているかをお見せする旅に誘おう(…)学生と教師のみなさんのためには、進化の鍵を握る要素を説明するうえで最高の事例にして、生命の刮目すべき多様性と適応力に対する畏怖の念を喚起するはずの事例に焦点をあてた(…)そして反進化論者が掲げるレトリックと偽科学を篩い分けたいとお考えの方々のためには(…)〉(「はじめに」)〈進化を操っているのは、主に偶然、淘汰、時間という要素である(…)進化発生生物学の新知見を導入することで進化の総合説を拡張できるというのがキャロルの立ち位置である〉(「訳者あとがき」)写真・図版多数、カラー口絵8頁。

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Posted by ブクログ

 タイトルの「適者」って、「適者生存」の適者です。進化のお話です。わたしには難しく感じられましたが、楽しく読めました。

 生物進化の具合がポケモンみたいに、見て色や形の違いですぐにわかればよいのですが、現実は微妙です。
 それでも、ダーウィンさんが進化論を発表したころと違い、現代ではDNA情報を読み解く技術が進歩しています。
 その技術でガンガンに溜まったDNA情報、よくみるとそこには進化の足跡が残っているそうです。

 例えば、ある生物種が昔はよく使っていた遺伝子が、夜行性に変化しただの、ライフスタイルの変化で使わなくなり、遺伝子が壊れるに任せた状態でDNAのなかに放置?されていることがあるようです。「遺伝子化石」と言うらしいです。
 そんな「遺伝子化石」を読み解くと、その生物がたどった進化の過程が明らかになるとか。
 有名な事例なのかな、視覚や嗅覚の遺伝子たちの進化の過程について詳しく説明されています。


 著者のショーン・B・キャロル先生は、ダーウィンさんの進化論について「合理的
な疑いの余地なし」と断言されています。
 まったくその通りだと思いますが、なぜわざわざ本書で断言されているんでしょうか?
 実はこの本、反科学や反進化論に対抗する目的でも書かれているのです。21世紀になっても、そんな本を書かなければならないのが、アメリカの現状のようです。

 犯罪捜査にDNA鑑定を使うのはアメリカでも常識だそうです。アメリカの人もほとんどが、DNA鑑定の有効性を認めているそうです。
 一方、DNA鑑定と同じ技術でDNAを調べて、進化の確かな証拠がみつかっているのに、アメリカの50%以上の人が進化論を否定しているそうです。キャロル先生、そんな矛盾だらけのアメリカに「Oh My God!」・・・とは言わないか。
 本書では、全十章のうち、一章分を使って反ワクチン運動と反進化論の論法、計12点について紹介・解説されています。
 もう文化の問題だよねとちょっとあきらめ気味のキャロル先生、本当にお疲れさまです。


 勉強になったのが、進化の過程の三要素です。「変異」「淘汰」「時間」です。そこで適者が作られます。
 適者とは優れているものと思ってしまいますが、違うようです。絶対的なものではなく一過的、そのときの条件に合ってるだけの、はかない存在だそうです。
 適者を三要素でみると、偶然に変異が起きて、そのときの条件で淘汰され、十分に長い時間で作られていくもののようです。これを、確率の視点で「複利」として説明されていたのがおもしろいですね。
 個体間のわずかな違い(利率?)でも、その違いを自然淘汰が長い時間かけて複利で増やしていけば、なんと目で見て分る違いになっていくそうです。
 長い時間ってどれくらい? 万年単位なんです!
 例えば「眼の進化」をシミュレーションすると、ほんとに単純なものから複雑な眼になるのに、50万年、2000ステップだったそうです。


 そんなに長い時間をかけて進化した「適者」ですが、環境条件が変わってしまい、合わなくなれば衰退・絶滅するしかありません。
 キャロル先生は警告します。わずか数百年の人間の乱獲・環境汚染・人間活動による気候変動のために、適者が作られるよりも早く環境が変わることで、生物に危機をもたらしていると。

 自然淘汰による進化は最強です。しかし、それには十分な時間が必要なのです。その「時間」がいったいどれほどなのかを、この本でイメージすることができました。

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2026年06月21日

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