あらすじ
戦後ドイツの「犠牲者」認識の変遷を追う
日本でも、特攻隊員や被爆者、空襲被害者など、さまざまなカテゴリーの「犠牲者」を通して戦争が記憶されてきたように、戦後の国民意識が形成されてきた。犠牲者言説の変化は戦後ドイツの国民形成と密接な関係にある。
戦後のドイツ人はナチズムの「加害者」としての過去に向き合いながら、戦争の「犠牲者」としての認識も持っていた。特に戦後世代が多数を占めるようになると、この「犠牲者」意識は重要視されるようになった。本書は1980年代以降に「犠牲者」概念が頻繁に用いられるようになった背景を分析し、「犠牲者の歴史政治学」を提唱する。
本書は〈犠牲者・加害者〉という二元論ではなく、〈加害者・能動的犠牲者・受動的犠牲者〉という三分類で過去を理解すべきだとする。「白バラ」やヒトラー暗殺未遂犯、ソ連兵の性暴力被害者、強制追放された者など、多様な犠牲者像の変遷を追う。1980年代以前、暗殺未遂犯は肯定的評価を受けず、性暴力の被害も封印された。一方、ソ連侵攻による追放者は冷戦下で「能動的犠牲者」として語られた。
1980年代以降、ホロコーストが世界史的事件として認識され、「ホロコースト・モデル」が確立すると、受動的犠牲者が歴史の中心となり、性暴力や追放の被害者も語れるようになった。この変化は戦後ドイツの国民形成と密接に関わる。
この問題は日本にも通じる。
日本でも、特攻隊員や被爆者、空襲被害者など、さまざまなカテゴリーの「犠牲者」を通して戦争が記憶され、戦後の国民意識が形成されてきた。本書は、ドイツの「過去の克服」と犠牲者概念の変遷を明らかにする意義深い研究である。
【目次】
序章
1 ナチ時代のドイツ国民=「犠牲者」?
2 犠牲者概念
3 本書の目的
第1章 反ナチ抵抗犠牲者とその戦後
1 ヒトラー暗殺未遂事件の「七月二〇日の男たち」
2 「白バラ」抵抗運動
3 ヒトラー爆殺計画事件の単独犯──G・エルザー
4 反ナチ亡命者
第2章 追放と性暴力
1 終戦期の被追放者
2 非追放者の表象
3 追放の受動的犠牲者から復興の能動的犠牲者へ
4 性暴力犠牲者とその戦後
第3章 反ナチ抵抗犠牲者の記憶
1 「抵抗」範疇の拡大──エーデルヴァイス海賊団とG・エルザー
2 「七月二〇日の男たち」と「白バラ」の記憶の構造転換
3 英雄から救済者へ
第4章 追放の記憶
1 よみがえる記憶とその政治化
2 ポピュラー・カルチャーのなかの被追放者
第5章 性暴力犠牲の語りとトラウマ
1 性暴力犠牲の語り
2 戦争児とトラウマ
終章
1 本書のまとめ
2 〈犠牲者の歴史政治学〉の意味と意義
3 〈犠牲者の歴史政治学〉と「私たち」
あとがき/注
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Posted by ブクログ
ドイツ国民の犠牲とはというテーマで書かれています。
とても重いテーマですが、読むに堪えないほどではありません。
ただ、個別に読んでいくと入り込みすぎてしまうものもありました。
ナチに熱狂した国民ばかりではない、ドイツ国民でもナチの蛮行を知らなかった人もいる、この事を考えるとドイツイコール加担とは言えないと思いますが。
犠牲者というターゲットが女性に及ぶ部分は、悲しみ怒り落胆どの言葉なら…とても堪え難い苦しみがあります。
ドイツに限らず、敗戦国の女性は耐え難きを堪えて、苦しみの中生きている方もいるのだと考えさせられました。
ナチの蛮行から、アウシュビッツのユダヤ人を救ったアメリカ兵。それでさえ、暴力でドイツ女性を…と言うことが起こっていたことが悲しくてたまらない。
国というまとまりではなく、個人であるのだが超えてはいけないものを平気で超える人がいるのだと改めて知った。