あらすじ
哺乳類のY染色体は退化する一方だ.そのうち,男はいなくなる!?南の島のトゲネズミに,そのヒントがあるかもしれない.そのネズミたちは,Yがないのにオスがいる.Yがないなら,雌雄のDNAの差はどこに?あの方法もこの遺伝子も,ハズレ,ハズレ,またハズレ……!立ちはだかる数々の壁を乗り越え,「Yなき性」の謎にせまる.
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
2025年刊。ミステリー風のタイトル。その通りに、謎解きが抜群におもしろい。
性染色体のペアがXXならメス、XYならオスになる。ところが日本にいる2種のトゲネズミ(アマミトゲネズミ、トクノシマトゲネズミ)は、メスもオスも、あるのはXだけ、Yがない。ほんまかいな。しかしながら、この2種は希少種、見つけるのも難しい。
これらの近縁種にはオキナワトゲネズミがいる。ところが、このネズミのオスにはYがある(らしい)。しかし、このトゲネズミも希少種、どころか絶滅しているかもしれない。
これが前段。生きている個体の発見と捕獲に始まり、細胞の培養、ゲノム解析、ノックイン実験まで……ほうぼうの協力を得ながら、そしてさまざまなハードルにぶつかりながらも、それを乗り越えてゆく。最終的に、性決定遺伝子(Sry遺伝子)はないが、その配下の性分化関連遺伝子(Sox9遺伝子)があって、それの発現をオンにする重複配列中の調節領域があれば、オスになる、ということを突き止める。
そして最後のハードル。満を持してトップジャーナルに投稿するも、2誌からリジェクト。書き方を改め、PNAS誌に投稿してアクセプト。パブリッシュと同時に世界からスポットライトがあたった。
まさしくサクセスストーリー。しかしそれには20年がかかっている。労なくして、栄光なし。