あらすじ
哺乳類のY染色体は退化する一方だ.そのうち,男はいなくなる!?南の島のトゲネズミに,そのヒントがあるかもしれない.そのネズミたちは,Yがないのにオスがいる.Yがないなら,雌雄のDNAの差はどこに?あの方法もこの遺伝子も,ハズレ,ハズレ,またハズレ……!立ちはだかる数々の壁を乗り越え,「Yなき性」の謎にせまる.
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Posted by ブクログ
女なの? 男なの? どっちなの? という「性決定」の研究分野があるんですね。知りませんでした。とってもおもしろいです。
学校の理科で教わる生物学的な性は、一対の性染色体の、X染色体とY染色体があり、受精卵での組合せが「XX型」だと女性に、「XY型」だと男性になる、ということみたいです。
でもでも、日本固有の幻のネズミ(絶滅しそう!)「アマミトゲネズミ」や「トクノシマトゲネズミ」だとY染色体がない!
たとえばアマミトゲネズミの場合、すべての染色体は25本、それでもって、そのうち性染色体は「X染色体」ひとつのみです。
それなのに「オス」がいる! どないなってますの?
ここでトゲネズミについてちょと説明。トゲネズミは背中に鋭い針状毛を持っていて、大きさ10~15㎝くらいだそうです。
サブタイトルに「性の進化の謎」という、どうにでも受け取れることが書いてありますが、本書は、Y染色体がないのにオスが生まれる疑問にチャレンジした内容です。
チャレンジしたのは宝塚歌劇団風?ファーストネームの、黒岩麻里(クロイワ アサト)先生です。このアサトさまは、京都で文学少女だったかたです。
この本は、京都の文学少女が、生物学の性決定分野で大成功する物語でもあります。
もうひとつ付け加えるなら、アサトさまとそのお仲間たちが書かれ、世界の一流科学雑誌『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に掲載された論文を読むためのガイドにもなっています(たぶん)。
おそらく、アサトさまの研究室に配属となる学生さんたちは、アサトさまの研究人生とそのご苦労を知るため、必ずやこの本をよまれていることでしょう。(笑)
ざっくり、卵子と精子が受精した瞬間、一対の性染色体がXX型で女性に、あるいは、XY型で男性に「はい、決定!」とおもっておりました。
違いました・・・
実際には、受精後に細胞分裂が始まり、体ができていく過程で決まるのです。
細胞分裂がはじまって8週目くらいに分化するのが「生殖腺」。その生殖腺が、卵巣(女性)になるのか、あるいは、精巣(男性)になるのか、ここがほんとうの運命の別れ道だそうです。
ふつう哺乳類だと、精巣づくりをスタートさせるのに必要な遺伝情報が、Y染色体にあるんです。でも、アマミトゲネズミはY染色体がない、それなのに、オスが生まれてきます。
だから、その遺伝情報=性決定遺伝子は、細胞の染色体のどこかにあるはず。どこにいったの? どうやってオスになるのよ!
どんどん沼るアサトさまです。
あるはずのものが見つからないのは苦しいです。アサトさま、がんばられましたよ。
本書のメインではありませんが、ヒトを含めた哺乳類のY染色体のトピックスもおもしろいです。
哺乳類のY染色体は、現在進行形で、どんどん小さくなっているそうです。アサトさまは、アマミトゲネズミとか、哺乳類の最先端をいってるとおっしゃるわけです。
どんどん小さくなって、将来にはY染色体がなくなって、哺乳類のオスはいなくなり、絶滅する予測もあるとか。
ほんとうにY染色体はなくなってしまうのでしょうか? アサトさまの研究は、まだまだ続きそうです。
わたしがY染色体の消失で、ちょっとおもったのは、日本の象徴であらされるおかたの行く末でした。でも、だいぶ先みたいなので、いまから心配してもしょうがないかな。
Posted by ブクログ
性決定の不思議とY染色体の謎に迫る
哺乳類では厳格かつ厳密に、Y染色体とそこに存在する性決定遺伝子によって性が決定される。ところがアマミトゲネズミとトクノシマトゲネズミにはY染色体が存在しない。しかもYのないネズミでもオスとメスが存在する。哺乳類の例外をもとにY染色体の謎に迫る研究のダイジェスト版が1冊の本に。研究の悲喜交交を含んだ自伝小説のような理系本で、肩の力を抜いて最新研究に触れることができるおもしろい本だった。
Posted by ブクログ
2025年刊。ミステリー風のタイトル。その通りに、謎解きが抜群におもしろい。
性染色体のペアがXXならメス、XYならオスになる。ところが日本にいる2種のトゲネズミ(アマミトゲネズミ、トクノシマトゲネズミ)は、メスもオスも、あるのはXだけ、Yがない。ほんまかいな。しかしながら、この2種は希少種、見つけるのも難しい。
これらの近縁種にはオキナワトゲネズミがいる。ところが、このネズミのオスにはYがある(らしい)。しかし、このトゲネズミも希少種、どころか絶滅しているかもしれない。
これが前段。生きている個体の発見と捕獲に始まり、細胞の培養、ゲノム解析、ノックイン実験まで……ほうぼうの協力を得ながら、そしてさまざまなハードルにぶつかりながらも、それを乗り越えてゆく。最終的に、性決定遺伝子(Sry遺伝子)はないが、その配下の性分化関連遺伝子(Sox9遺伝子)があって、それの発現をオンにする重複配列中の調節領域があれば、オスになる、ということを突き止める。
そして最後のハードル。満を持してトップジャーナルに投稿するも、2誌からリジェクト。書き方を改め、PNAS誌に投稿してアクセプト。パブリッシュと同時に世界からスポットライトがあたった。
まさしくサクセスストーリー。しかしそれには20年がかかっている。労なくして、栄光なし。