【感想・ネタバレ】乱歩心象作品集のレビュー

あらすじ

乱歩の心に映る執着と愛着、強迫的な思念、どこかへと惹かれてゆく心の有様……。
江戸川乱歩没後60年。その作品から、詩人のように一瞬の輝きを掬い取った、名場面をピックアップ。
「夢遊」「恐怖」「人形」「残虐」「身体」「錯視」「浅草」の七つの切り口で、作品を精選。乱歩の神髄・魅力を凝縮した一冊。

*編者より――
「心象」は宮沢賢治が『春と修羅』を「心象スケッチ」と呼んだその「心象」です。乱歩の心に映るもやもやした執着の数々が、ときに見事な短篇小説としてときに長篇小説の一場面としてあるいは随筆として具象化され語られたもの、という意味で考えました。
それら自体は詩ではありませんが敢えて詩を読むように非物語的高潮に焦点をあててみるという意味でもあります。

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Posted by ブクログ

江戸川乱歩、高原英理・編『乱歩心象作品集』中公文庫。

江戸川乱歩の没後60年。江戸川乱歩の長中短編から「夢遊」「恐怖」「人形」「残虐」「身体」「錯視」「浅草」の7つの切り口で分類、セレクトした作品集。

恐らく大半の作品は既読であるが、小学校時代にポプラ社のの『少年探偵団シリーズ』を読み、中学校時代に江戸川乱歩の魅力にハマり、高校時代には春陽堂文庫の『江戸川乱歩全集』全9冊を読んでいることもあり、定期的に読み返したくなる。ちなみに高校1年の時の読書感想文では『陰獣』の感想文を書いて、高校生感想文コンクールの応募作に選ばれている。

また、序文の中で高原英理が述べている通り、江戸川乱歩は短編にこそその魅力があると思う。勿論、長編も面白いのだが、短編に凝縮されたトリックや世界観の描写は見事である。

7つの切口のうちから「夢遊」「恐怖」「人形」「残虐」「身体」「錯視」は解るが、「浅草」だけは異質である。また、長中編作からの抜粋が多く、江戸川乱歩の真の魅力が伝わらなかった。そういう意味では、作品集としては失敗の部類に入るだろう。


「夢遊」

『白日夢』。日常の白昼に浮かび上がる悪夢の光景。一種の死体隠しのトリックとも言える。後の作品にも同様のトリックが描かれる。

『大魔術「魔術師」より』。明智小五郎が魔術師の復讐を阻止しようとする探偵小説。魔術師による残虐な殺戮ショーは嘘か真か。『白日夢』にも通じる世界観。

『火星の運河』。漆黒の闇の中を彷徨ううちに突然出会った豊満な裸体の女性を殺戮する血に塗られた記憶。流れる血のりの様は火星の運河の如く。


「恐怖」

『底なし沼「影男」より』。明智小五郎が活躍する探偵小説。畑の真ん中に造られた囲い。その中に入って来た女性が何者かに造られたと思しき底なし沼にじわじわと飲み込まれていく。

『ある恐怖』。江戸川乱歩による様々な恐怖についてのエッセイ。

『暗黒世界「白髪鬼」より』。明智小五郎が活躍する探偵小説。棺桶の中に閉じ込められた男が必死の思いで棺桶の外に出るが、そこは閉ざされた空間。窒息の恐怖から餓死の恐怖が男を襲う。

『断頭台「魔術師」より』。再び『魔術師』より。巨大なお猫時計が断頭台と化し、今まさに首を切断されようとする恐怖。

『お勢登場』。江戸川乱歩は閉所恐怖症だったのだろうか。度々、棺桶や長持ちの中に閉じ込められるという恐怖が描かれる。そう言えば、『人間椅子』という作品では、自ら椅子という閉所に収まるという話が描かれていた。もっとも実際には椅子の中には入っていなかったのだが。病弱の夫を尻目に不倫に明け暮れるおせい。ある日、おせいが不倫相手の元にいそいそと出掛けた後、夫は息子と息子が連れてきた友だちとかくれんぼをするが、隠れた長持ちのかけ金が閉まり、中に閉じ込められてしまう。夫が藻掻き苦しむ中、帰宅したおせいが取った行動は。


「人形」

『人でなしの恋』。フェティシズムを描いた1編。様々な性癖が容認される今日にしても異様な男の趣味。非の打ちどころの無い美男子と見合いで結婚した女性が夫に対する疑惑を持ち始める。やがて、夫の秘密を知った時……

『人形』。人形にまつわる怖い話や不思議な話、トリックなどを交えたエッセイ。

『魔法人形(抄)』。『少年探偵団シリーズ』から。『少年探偵団シリーズ』もほぼ全巻読んでいるのだと思う。腹話術師の老人が少女を拐かし、誘拐しようとするシーンは記憶にある。腹話術の人形が自ら歩き出すという恐怖。

『悪霊物語』。江戸川乱歩、角田喜久雄、山田風太郎の3人によるリレー小説。これは初めて読んだ。怪奇小説を執筆する作家が人形作家の伴天連爺さんの屋敷を訪れ、様々な奇怪な人形を目にする。


「残虐」

『残虐への郷愁』。江戸川乱歩が古今東西の残虐性に言及したエッセイ。

『情痴の極「盲獣」より』。このこの作品の中でのも最も残虐なシーンが描写される。盲目の夫とその妻が互いに傷付け合う、まさに盲獣といったシーンだ。

『恐ろしきランニング「地獄風景」より』。年齢も様々な男女による千メートル競争は最後に血飛沫飛び散る地獄のスプラッターへと変わる。

『句』。江戸川乱歩らしい残虐性を凝縮した一句。一種のお遊びか。


「身体」

『飛行する悪魔「緑衣の鬼」より』。ほんの触りだけが収録されている。電灯を失い、暗闇の中で触れた何者かの気持ち悪い手。

『芋虫』。戦争で手足を全て失い、耳も聞こえず、話も出来なくなった状態で妻の元に帰った夫。忌まわしくもエロティックな描写と衝撃の結末。江戸川乱歩の傑作の1つ。

『ペテン師と空気男(抄)』。義眼にかつら、総入れ歯に左手は義手、両足義足の男が若い女性を恐怖のどん底に突き落とす冗句を見せるという場面。全体的にはどんな話だったか忘れた。

『芋虫ゴロゴロ「盲獣」より』。再び『盲獣』より。先に掲載された『情痴の極』の続き。随分とまどろっこしいことをするものだ。一挙掲載してしまえば良いのに。

『水族館の人魚「蜘蛛男」より』。水族館の水槽の中に展示された美しい女性の死体。

『闇に蠢く(抄)』。友人の胃痛を治すための御馳走とは。


「錯視」

『レンズ嗜好症』。レンズの不思議に魅せられた江戸川乱歩のエッセイ。

『映画の恐怖』。映画の不可思議と恐怖について書いた江戸川乱歩のエッセイ。

『恐ろしき前兆「暗黒星」より』。『映画の恐怖』に書かれたことが小説の中にも描かれる。

『鏡地獄』。鏡の不可思議、鏡を使ったトリックに魅せられた男が造り上げた鏡の仕掛け。

『目羅博士の不思議な犯罪』。江戸川乱歩の幻想小説。

『パノラマ島綺譚(抄)』。錯視を使って造り上げられた奇妙な島に広がるおぞましい光景。


「浅草」

『死人の腕「一寸法師」より』。一寸法師という畸形を登場させ、浅草の夜の怪しい風景を演出する。

『浅草趣味』。江戸川乱歩がつづる当時の浅草の風景。

『木馬は廻る』。浅草の木馬館で働く初老のラッパ吹きに訪れたささやかな幸福。

本体価格1,300円
★★★★

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2025年11月03日

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