あらすじ
「破綻」や「国債暴落」という警告の言葉に脅え、財政を「再建」することが、本当に社会に共通の善なのか。尊厳と信頼の社会を構築するための財政の条件とは何か。赤字の原因を日本社会の構造から解き明かし、「ユニバーサリズム」の視点から、受益と負担の望ましいあり方、そして新しい財政のグランドデザインを提言する。
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Posted by ブクログ
一刻も早い財政再建が望まれる日本。なぜ財政再建ができないのか。本書は、政府債務が対GDP比で200%を超えている日本の財政構造を明らかにする。
我が国民は痛税感が強い。なぜか。税が債務の返済や低所得者ばかりに費やされているからである。そのため、多くの中間層は、受益なき負担を強いられている。ここに日本が増税をできない理由がある。
日本は「公共投資偏重型財政システム」であり、ここに減税による中間層への所得配分が加わった、いわゆる土建国家であった。公共投資が雇用を生み出し、一定の生活保障の役割を果たしたほか、中間層への減税によって受益感を与えていた。しかし、この土建国家のフレームワークが今や破たんしていると著者は説く。少子高齢化や不景気に伴い、財政ニーズが公共投資から社会保障へシフトされたからである。
とは言え、著者は北欧型の高負担・高福祉を目指すスタンスではない。救済すべき人の割合を減少させ、中間層への受益感を増大させることが大事であると説く。そのための手法として、高所得者や企業の課税強化を挙げている。法人税の税率アップなどは企業の海外移転に結び付きそうだが、企業の海外移転の主な理由は人件費や販路拡大にあり、税はあまり影響しないと分析している。
著者は、生活保護制度に代表される「ターゲッティズム」の領域を最小限にし、広くサービスを行き渡らせる「ユニバーサリズム」の重要性を説いている。しかし、そのためには財政構造の転換や政府の強いリーダシップなど、多くの難題が残されており、相当の歳月を要することは間違いないだろう。喫緊の財政赤字を解消する手法ではない。我が国の目指すべき1つの方向性程度に受け止めておいた方が良いかも知れない。