あらすじ
光と闇、生と死、絶望と愛・・・・・・この世のすべてを内包する、比類なき劇場【帝国劇場】。2025年2月をもって一時休館となった同劇場の記憶を未来へと繋ぐ、世界でたった一つの“帝国劇場”小説が誕生!
白杖の父が遺した、ミュージカル「屋根の上のヴァイオリン弾き」のパンフレット。そこには新人案内係からの手紙が挟まれていた――「ホタルさんへの手紙」
少年は、劇場2階ロビーのステンドグラスの裏側に寝泊まりしていた。舞台袖、楽屋食堂、馬小屋・・・・・・自在に歩き回る彼は、ある人を永遠に探し続けている――「内緒の少年」
劇場ロビーに一脚あるという“幸運の椅子”。売店で働くたった一人の“担当さん”だけが代々受け継いできたその伝説と、椅子に座った人々の元に訪れる幸運――「こちらへ、お座りください」
劇場の“壁”に深い愛着を抱いてきた税理士の男、観劇後に日傘を差し館内を歩く“パラソル小母さん”と呼ばれる女性・・・・・・。彼らの思いを迎え入れ続けた劇場が、ついに最終公演の日を迎える――「劇場は待っている」ほか全八編を収録。
舞台上でスポットライトを浴びるスター、誰かにとっての特別な一日を支える案内係や売店スタッフ、客席から見えない裏側で上演を支えるエレベーター係や幕内係、そして観客・・・・・・。劇場を愛し、劇場を作り上げてきた人々の密やかな祈りがきらめく豊饒な短編集。
◆著者プロフィール
小川洋子(おがわ・ようこ)1962年岡山市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。88年「揚羽蝶が壊れる時」で海燕新人文学賞を受賞。91年「妊娠カレンダー」で芥川賞受賞。2004年『博士の愛した数式』で読売文学賞と本屋大賞、同年『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞を受賞。06年『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞受賞。07年フランス芸術文化勲章シュバリエ受章。13年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。20年『小箱』で野間文芸賞受賞。21年紫綬褒章受章。26年『サイレントシンガー』で毎日芸術賞受賞。『掌に眠る舞台』『耳に棲むもの』ほか著書多数。
感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
こういう小説が読みたいねん!と感じるくらいにとてもよい小説を読んだ気分です。
全八編の短編集。ほっこりするし、しんみりするし、キャラクターは一生懸命だし、ファンタジックなところもよき。
2年くらい前に観劇を趣味に加えたことと、自分にも大好きで応援している人がいることもあって、解像度が上がった気がする。
小川さんの描いた設計図に従って、それぞれの短編がひっそりと接続されていくさまがとてもよくて、感動的だった。
読み終わったあとには、行ったことも見たこともないのだけれど、ちゃんと自分の帝国劇場が頭の中に出来上がっていた。
特にお気に入りは「一枚の未来を手にする」「スプリングゲイト」「劇場は待っている」かな。でも全部いい。
印象的なフレーズ、表現、余韻もあった。文章そのものが味わい深かったし、わたしの好きな文章だった。
同じところを何度も繰り返し読んでしまって、そういう意味では進みが悪かったかもしれないな。
とてもすばらしい読書体験だった。小川洋子さんの本、もっと読みたいと思った。
Posted by ブクログ
この本、本当に良かった。帝国劇場に関わった様々な人を書く短編集。帝国劇場に行ったことのない私でも、まさにこの本の案内をするかのように「案内係」の世界を描く「ホタルさんへの手紙」から始まる物語の世界にどっぷり浸かるようにして読んでいけた。
小川洋子さんの静謐な世界と観劇への愛、一見風変わりな、スポットの当たらない仕事を誠実に描き出す力が合わさって、素晴らしい短編集になっている。その人個人の物語と、演目の物語と、帝国劇場の持つ歴史が重層的に重なり合うところもすごい。小川洋子さんの物語の持つ一種の不気味さはちょっと影を潜めているけれど、演劇への愛が際立っていていいと思う。
どの物語もとても良いので迷うんだけど、一番好きなのは舞台袖から稽古場、エレベーター、食堂などの舞台の周辺世界をぐるりと見せてくれる「内緒の少年」かな…と書きつつ、やっぱりあの話もすごくいいし、この話も…と決まらない。
ほんとうにどの話も好き。こういう短編集はそんなにない。大事にしたい本。
Posted by ブクログ
小川洋子さんの作品は、3作目です。
相変わらず不思議な世界に連れて行ってくれます。
全体的にゆるく繋がっていて、気に入ったストーリーが幾つがありました。
私自身は小劇場にはよく足を運んだのですが、帝国劇場には行ったことがなく。非常に惜しいことをしたなと思いました。
・ホタルさんへの手紙
盲目になってしまった父と、娘の話。サワコは幼少期名前が言えずチャバコと言っていた。
ある公演のチャヴァと娘を重ねて、盲目の父が1人で観劇をしに行った際に、サポートしてくれた新人案内係さんとの話。
これが一番好きでした。泣いている父に寄り添う案内係さんの素敵な気配りにも泣けました。
・こちらへ、お座り下さい
幸運の椅子の話。椅子にまつわる様々な人のエピソードでしたが、中でも3年間だけ男の子の母親だった女性が印象的。光と影に興味を持つ男の子。ビスケットのかけらに、光の強さを調整しながら観察していました。その子が、照明係としてレミゼに関わっていることを偶然知ります。
私の息子も懐中電灯で遊びたがったけどやらせなかったな・・やらせてあげよう・・と思いました。レミゼは映画見たはずだけど断片的にしか覚えてなくてストーリーは言えない・・もう一度映画を見返したいなと思いました。
・長すぎた幕間
帝国劇場に臨月でローマの休日を観に行き、そこで出産した母と息子のはなしです。
幕間で抜けたから、大好きな俳優による2幕とラストを見られませんでした。
そこで、大学生になりバイトのお金でチケットをプレゼントする息子。観に行った母は、これできちんとパパにお別れできた、と言い、間も無く父の3回忌だったことがわかります。
頭の中で彼に変換すると言っていたけど、それは推しではなくパパのこと?とわかると、急に泣けました。