あらすじ
生成AIが爆発的な進化を遂げるなか、人間の存在意義や学問・教育の意味が問われつつある。長年大学教育の現場に携わり続けている社会学者・吉見俊哉は、自らの著作・論文をすべてAIに学習させ、「AI吉見くん」を制作。人工知能の「もうひとりの自分」と、「社会学」「大学」「日本の都市」「世界情勢」をめぐる対話を敢行し、現代社会の構造的な課題を考察する。そこから見えてきた、人間にしかできないこととは何か? 前代未聞の試みを通して、AI時代に人間が身に着けるべき知性を明らかにする。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
AIに、自分の著作、論文、公開していないノートなどを学習させ、できるだけ、社会学者としての自分に近づけるように訓練して、社会学や社会問題について議論する。AIがどこまで社会学者の自分の分身になっているか、有意義な議論ができるのかを検証した本。
全体の印象として、AIに対して「戦う」というスタンスで、カッカしているのは吉見氏の方だけで、AIは、淡々と、極めてクールである。AIは、自分の間違いや一貫性のなさをつかれて、恥ずかしいとか嫌だという感情のないことの表れだろう。結局、AI の間違いは、吉見氏の学習のさせ方が足りないからであって、機械に罪はない。とはいえ、ハレーション(幻想、でっち上げ)は困るけど。読んでいるこちら側としては、感情的になっている吉見氏の方が子供っぽいと思ってしまう。
最終章で、吉見氏は、AIを叩きのめすくらいに知性を磨けと述べている。
「AIが提示してくるさまざまな提案や回答に懐疑のまなざしを向け、その真偽を問い、それをより広く長い視野のなかで相対化できる知性こそが、大学において育成されなければならない」
その通りだと思うけど、目の前に提示されたことを、まず疑ってみることは当たり前に思えるが、それは理系の考え方なんだろうか。
ともかく、そんなにAIを目の敵にしなくても、少なくても現在は、AIは完璧なものではないのだから、自分の足りないところを指摘してくれる補助と見ればいいのではないか。ただし、AIが指摘したものが、本当に足りないところなのか、AIのでっちあげなのか吟味しないといけないけれど。
AIと戦うというスタンスはあまり理解できないものの、最近の社会問題で気になるトピックスを取りあげて、対談の形で解説してくれているのは面白いし、読みやすかった。
第三章 東京一極集中はなぜ止まらないのか?
一 人口減少社会の地方と東京
二 東京という幻想
三 東京の幻想性をめぐる社会学
四 東京の「右半分」と「左半分」
吉見氏は、私と同学年で、育った社会的背景が同じなので、親近感が湧く。
東京一極集中は、高度成長期以降、1960年代以降に進んできたとのこと。たしかに、子ども時代、東京は日本を代表する大都市だと思っていたが、大阪に比べて圧倒的に優位な存在だとは思っていなかった。
AIによる日本の都市の分類
東京圏
大阪、名古屋=地域中核都市
札幌、仙台、新潟、金沢、広島、福岡=地方都市
若者が東京に集まる理由
- 情報や機会が集中している。
- 多様な文化、価値観、先進性、国際的な視野に富んでいる
→新しい考えや変化を起こしやすく、それを受け入れる柔軟性がある。
→若者の自分探しや自己実現の欲求に応えてくれる。
反対に、地方の伝統や変化の少ない地域社会のつながりが、土着的な拘束として感じられる。
自己実現やアイデンティティへの欲望が、抑圧された無意識の衝動(エロスとしての衝動)となり、都市への幻想を生み出す。
東京には、競走や孤独感、経済的な格差や負担といった面もあるが、見えづらい。
非土着的な幻想=「海外へのあこがれ」、「グローバルな存在との結びつき」
経済的な不安の高まり→ 社会全体が内向きになり、成長や発展よりも持続可能性が重視される。より保守的になる。
東京がアメリカのポップカルチャーやファッション、新しいライフスタイルの発信地となり得たのは、戦後、米軍基地が都心にあったからである。六本木、原宿、青山、渋谷は、米軍基地と関連施設の街だった。米軍関係者や家族が住み、バーやクラブ、ファッションショップが栄えた。その後、基地は日本に返還されたが、そういう下地があったので、グローバル化が進む中、国際的なトレンドや文化の発信地としての地位が強化された。
←もともと、これらの地域は戦前から日本の軍事施設(練兵場や陸軍大学校)があったところで、戦後、アメリカの軍用施設として転用された。
東京は物価が高く、地域のコミュニティも希薄で、若いカップルが子供を産み育てる場所として適していない。東京の出生率は、全国平均を大きく下回る(2024年で、0.96)。全国で唯一、1を下回った。2025年に出生者数が増加したと言って喜ぶのは早い。出生率は、2026年3月現在で、予想値も出ていない。
第四章 二一世紀は、なぜうまくいかないのか?
一 ドナルド・トランプと混迷する世界
二 拡張する「偉大なアメリカ」
三 反転するグローバリゼーション
四 成長の限界、未来へのヴィジョン
トランプの「偉大なアメリカ」のイメージは、50〜60年代の白人男性最上主義(白人男性が支配的地位を保っていて、人種差別あり)と、80〜90年代の冷戦時代(ソビエトと二大大国として、世界を牛耳っていた時代)を混合したもの、かつ1900年ごろのマッキンリー大統領の米西戦争の時代。西への領土拡張のイメージ。
プーチンの「偉大なロシア」のイメージは、冷戦時代を理想化したもの(アフガニスタン侵攻の失敗はなかったことに)。プラス18世紀末から19世紀初めにかけたニコライ一世時代。東方へ領土拡張していた時代。
グローバリゼーションの進展で、国家のアイデンティティが脅かされる。経済格差、不安定さが、一般市民の不満を呼ぶ。国家の拡張で、もっとリッチになりたいという欲望が、偉大な〇〇の支持につながる。
コロナパンデミックは、グローバル化の臨海的効果である。
ー臨海的効果=不可逆的な効果、元には戻れない。グローバル化によって、人モノの移動が増え、感染症の世界的な拡大をもたらした。
←14世紀のペストパンデミック←モンゴルのユーラシア制覇
←16世紀の天然痘パンデミック。大航海時代。スペインから南北アメリカへ。
感染症の拡大は、グローバリゼーションと表裏一体で、避けられない。
AIに、未来のヴィジョンは描けない。それは人間の仕事だ。
Posted by ブクログ
現在のAIがこんなにも、人間味あふれる存在だとは思いもよりませんでした。
小賢しさがあったかと思えば、謙虚さもあり、でも一番驚いたのはその変わり身の早さ、人間にもこんな人いるなあ、と感じながら読みました。
AIがポジティブ思考というか、楽観主義者であるのはなぜなんでしょうか?
でも、トランプ大統領をAIがこき下ろしていのには、爆笑しました。その慧眼にまた驚きました。
Posted by ブクログ
社会学者が自分の論文などをすべて読み込んだ“自分の”AIと対話を進めながら、大学の定義や今後、東京一極集中などについて議論、AIの限界を同時に探る試み。AIに案外間違いが多いこと、間違いを指摘すると素直に認めて節操がないと言いたくなるほど簡単に修正すること、時には回答に固執して反論を試みることなど、議論の中身そのものより議論の仕方を楽しめる。AIだから感情的になることはもちろんなく、ひたすら丁寧に論筋を修正していく。本筋とはずれる感想だが、「確かに」「おっしゃる通り」など、相手の言葉にいったん同意しつつ異なる主張をするディベートは、人間同士の議論にも応用できると同時に、あまりに丁寧に同意と修正を繰り返すと、相手をイライラさせるというのがよく分かるのも面白い。
議論の中身は、例えば日本の大学と西欧のuniversityの根本的な違い、現代の大学に必須の多様性を真っ向から否定するトランプの批判、トランプが言う「偉大なアメリカ」の背景、東京一極集中についての歴史的考察など、AIの間違いを著者が一つ一つ指摘し、なぜ間違ったのか問い詰めつつ話が進行する。
これだけ曖昧な“知識”を振り回すAIをたたき台に、AIの間違いを指摘できるような知性を磨くならAIをアカデミックな世界で一つのツールとして活用する意味があるという視点は面白い。空間的に自らを位置付ける物理的な体を持たず、時間的に限定づける誕生と死も経験しない、データは読んで処理できるけれど、「読書」はできないAI。著者の指摘で、この根本的な違いがAIが回答を間違う要因にもなっていることが少しずつ理解できた。