あらすじ
〇「滑稽でもあり哀れでもある主人公が、実在の人物に思えるほど描写が自然で的確」(冲方丁/選評)
〇「名作が名作として読者の心に届く瞬間を目の当たりにできた思いで胸が熱くなった。」(辻村深月/選評)
〇「選評を書いているいまも、得がたい余韻がつづいている。」(道尾秀介/選評)
〇「淡々とした、ときにはユーモラスな語り口ながら、最後の一行まで緊張感が失われないのは、主人公の根源的な戦いを、緻密に、正確に、描いているからだ。感銘を受けた。」(森見登美彦/選評)
〇「こういう人の、こういう日々こそを、青春と呼びたい。いや、呼ばせてください。」(尾崎世界観)
心身ともに疲弊して仕事を辞めた30歳の宮田は、唯一の友人である浜野から、期間工は人と接することの少ない「人間だとは思われない、ほとんど透明」な仕事だと聞き、浜野と共に工場で働くことに。
絶え間なく人間性を削り取られるような境遇の中、気付けば人間らしい営みを求めるようになっていく宮田だったが、実はある秘密を抱えており――。
選考委員の胸を打った、第16回小説野性時代新人賞受賞作!
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Posted by ブクログ
まず、何よりも浜野が本当に「いい奴」だった。
友人の宮田を救うために、自分が解雇されるリスクを承知でエレメントを工場に戻そうと決断した場面には胸が熱くなりました。案の定、解雇という結果になってもそれを気に病まない。これほどまでに友人のために行動し、自分を貫ける姿は本当にすごいと思います。
一方で、爆弾を作って心中を図ろうとしていた宮田の気持ちも、分からないではありません。
毎日同じことの繰り返しで、自分が生きている意味を見失ってしまう。そんな閉塞感の中で、彼のように追い詰められてしまう人は、現実の世の中にもたくさんいるのだと思います。
だからこそ、宮田を真っ直ぐに止めてくれた浜野の存在が、あまりに大きかった。
特に作中で浜野が言った「しれっと生きる」という言葉が、妙に印象に残っています。肩肘を張らず、かといって絶望に飲み込まれることもなく、淡々と、図太く生きていく。その潔さが、宮田だけでなく読んでいるこちらの心も軽くしてくれました。
浜野がいてくれて本当によかった。読み終わった後、そんな安堵感と、人と人との繋がりの尊さを強く感じる一冊でした。