あらすじ
〇「滑稽でもあり哀れでもある主人公が、実在の人物に思えるほど描写が自然で的確」(冲方丁/選評)
〇「名作が名作として読者の心に届く瞬間を目の当たりにできた思いで胸が熱くなった。」(辻村深月/選評)
〇「選評を書いているいまも、得がたい余韻がつづいている。」(道尾秀介/選評)
〇「淡々とした、ときにはユーモラスな語り口ながら、最後の一行まで緊張感が失われないのは、主人公の根源的な戦いを、緻密に、正確に、描いているからだ。感銘を受けた。」(森見登美彦/選評)
〇「こういう人の、こういう日々こそを、青春と呼びたい。いや、呼ばせてください。」(尾崎世界観)
心身ともに疲弊して仕事を辞めた30歳の宮田は、唯一の友人である浜野から、期間工は人と接することの少ない「人間だとは思われない、ほとんど透明」な仕事だと聞き、浜野と共に工場で働くことに。
絶え間なく人間性を削り取られるような境遇の中、気付けば人間らしい営みを求めるようになっていく宮田だったが、実はある秘密を抱えており――。
選考委員の胸を打った、第16回小説野性時代新人賞受賞作!
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すごくよかった。工場で何かのパーツを作っている期間工の男性の話。社員から見下され、機械の一部のように人間扱いされない労働の日々。大卒であり、愛読書であるニーチェや好きな映画のラインナップも渋く、文化人であることが伺われるが、仕事では単に頭を空っぽにして手先を動かす単純作業マシンとなることが求められる。アダルトビデオ愛好家の友人との会話やエピソードも最高。読むのが辛くなる一歩手前の低いテンションで進んでいく雰囲気もよかった。この作家さんの本、もっと読みたい。
小説野生時代新人賞受賞作とのこと。巻末に受賞の言葉と選評あり。冲方丁、辻村深月、道尾秀介、森見登美彦!!超豪華メンバー!各作家さんたちの着眼点も興味深い。
Posted by ブクログ
いつの間にか惹き込まれ読み終えていました。ハイタッチでスイッチが入り、後半は浜野がしゃべるたんびに笑えました。はじめはどうも主人公のことがよく分からなかったのですが、というのも序盤浜野としゃべる時とその他の人物としゃべる時で主人公が違う人物のような違和感があったからです。でもそれは物語が進むにつれてなるほどと腑に落ちていきました。田中さんが言うように、宮田は浜野と一緒にいたほうがいい、もっと2人の会話を聞いていたいと思いました。
Posted by ブクログ
とても好きなタイプ。映画『PERFECT DAYS』のようなそうでないような、と感じながら読んでいたので道尾さんの選評におおっ、となりました。次作タノチミ。
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まず、何よりも浜野が本当に「いい奴」だった。
友人の宮田を救うために、自分が解雇されるリスクを承知でエレメントを工場に戻そうと決断した場面には胸が熱くなりました。案の定、解雇という結果になってもそれを気に病まない。これほどまでに友人のために行動し、自分を貫ける姿は本当にすごいと思います。
一方で、爆弾を作って心中を図ろうとしていた宮田の気持ちも、分からないではありません。
毎日同じことの繰り返しで、自分が生きている意味を見失ってしまう。そんな閉塞感の中で、彼のように追い詰められてしまう人は、現実の世の中にもたくさんいるのだと思います。
だからこそ、宮田を真っ直ぐに止めてくれた浜野の存在が、あまりに大きかった。
特に作中で浜野が言った「しれっと生きる」という言葉が、妙に印象に残っています。肩肘を張らず、かといって絶望に飲み込まれることもなく、淡々と、図太く生きていく。その潔さが、宮田だけでなく読んでいるこちらの心も軽くしてくれました。
浜野がいてくれて本当によかった。読み終わった後、そんな安堵感と、人と人との繋がりの尊さを強く感じる一冊でした。
Posted by ブクログ
言葉にできないと思った。この小説を。
押し付けるような感じがないのに、風にページがめくられていって、読み終わるころには私は全くちがうものになっていた。
この小説に漂っているものを感じとれる人間でよかった。でもきっと、一般的には、こういうものを知らずに送る人生のほうが幸福なのかもしれない。私は主人公のような人生を送るつもりはないし、もっと晴々しいかんじに生きてやろうと思っている。でも私は彼を忘れない。この本に出会えてよかったと思っているのはほんとうだ。
年の瀬に良いものに出会えました。著者の木野寿彦さんに大きな感謝を伝えたいです。ほんとうにありがとうございました。
Posted by ブクログ
派遣の期間工社員の宮田と浜野。
機械に追われて高い湿度と騒音の中で毎日を過ごす過酷さを、夜食のパン騒動や、盗まれた自転車や、アダルトDVDを集める浜野、自転車小屋の彼女、男女問題に不思議な感性を持つな田中、機械の作業速度が増し疲弊していく宮田の姿で描いているのだが…。
暗い職場環境であり、工場では虐げられている人間関係でありながら、この小説の2人は悲壮感を感じさせず、特に浜野は淡々と工場の作業を受け入れていく。
ある事で派遣工場をクビになった2人のこれから…を様々に想像してしまう余韻溢れた結末は、宮田と浜野の世界観を見事に締め括っていた。
不思議な面白さがあった。
Posted by ブクログ
期間工として働く宮田と浜野、二人を主人公にした物語です。どこか歪で不条理、居心地の悪いエピソードが次々と提示されていきます。そしてふと気づけば、それらは日本の古城で見られる野面積みの石垣のように、周囲を取り囲んでいます。
インカの石垣のような、剃刀の刃すら入らない精緻さではありません。大小の石が不揃いに積まれているにもかかわらず、がっちりと嚙み合って、確かな重みと存在感をもって迫ってくる――そのような印象です。
非人間的な期間工の職場と、その外の世界。そのあいだでかろうじて均衡を保つ二人の姿が見事に描かれて行きます。不思議で、どこかざらついた、妙に後を引く読後感を残す作品です。
しかし。。。。次作はどうなるのでしょうか。書くべきことはすでに書き尽くされたようにも見えます。それとも、また違うテーマがあるのでしょうか。
Posted by ブクログ
【降りる人】
どういう意味だろう?
タイトルに惹かれて読んだ一冊だが、とても面白かった。
地方の工場で期間工として働く主人公とその友人の毎日が、低めのテンションで淡々と綴られていく。
まるで機械の一部のように繰り返される作業。
こういう仕事は私も短期バイトで経験した事があるけど、キツかったなぁ。
休憩時間が待ち遠しくてね( ´д`ll)
そんな単調な日々にも小さな事件が起きる。
残業前に配布される菓子パンを巡る順列や暗黙のルールは、まさに社会の縮図という感じ。
友人の浜野はニーチェとアダルトビデオが好きだったり、週末は二人で小津安二郎の映画を観たりと、無機質な生活に人間臭さがうまく混ざり合う。
大きな変化のない毎日だが彼等の内面にある悲しみや狂気も感じられるから、ユーモアの中にある少しの緊張感も良い。
私たち人間はきっと危うさと隣り合わせで、なんとかバランスを取りながら生きているのかなぁ、と思った。
そしてバランスを失った時、一線を越えてしまうのかも。
自分の中にもそれがあると考えると、ちょっと怖いな。
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正直、前半はだるい。一度は放り出したのだが、レビューで高評価が散見されたので気を取り直して再開した。
高評価のコメントにも、前半は退屈だが後半から面白くなるとの趣旨の発言が多く、それを頼りに読み進める。
たいした事件は起きない。ただ、キャラクターがそれぞれに個性的で、ページが進むにつれ各人の異常性が露見していく構成だ。それぞれの視点、こだわりから発せられるセリフには含蓄も多く、会話劇として楽しめる。
工場での何気ない会話、「人生やリ直せてもじわじわと俺になるだけだろ」が忘れられない。誰かにとっては絶望的な世界観でも、別の誰かにとっては当然の事実でしかない。
世界のどうしようもなさを風景として描いた秀作かもしれない。
Posted by ブクログ
【あらすじ】
心身ともに疲弊して仕事を辞めた30歳の宮田は、唯一の友人である浜野から、期間工は人と接することの少ない「人間だとは思われない、ほとんど透明」な仕事だと聞き、浜野と共に工場で働くことに。
絶え間なく人間性を削り取られるような境遇の中、気付けば人間らしい営みを求めるようになっていく宮田だったが、実はある秘密を抱えており――。
選考委員の胸を打った、第16回小説野性時代新人賞受賞作!
【個人的な感想】
話の全体的に穏やかだけど、読んでいて気が抜けない。不思議な話だった。人におすすめはしづらいかも。
『俺は疑問なんだ。同衾すれば、家族を作れば、孤独は埋まるのか。もちろん、そういう人もいるだろう。でも、そうでない人もいる。孤独にも、いろんな埋め方がある』
『俺は、あんたの言葉を持って帰ろうと思う。批判とか賛同のためじゃなく、ただ持って帰る。そして、日々生活する。俺は、それを選択する。そうしたら、いつか、あんたの言葉が俺の内側から響くかもしれない』
→相手の意見について、すぐに批判したり賛同せずに持って帰るというのがい新しいと思った。
『世界が浜野に対し優しくあってほしかった。』
→究極の愛な気がする。
『浜野は、僕が切々と積み上げる悩みや考えをあっさりと更地にしてしまう。それが正しいことなのかは分からない。とにかく、今、悲しみは粉々だった。』
→私が彼に感じる思いと同じだった。彼に悩みを相談するとあっさりそれを気にしないマインドにすり替えてくれる感じが言語化されていると思った。
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何者にもなれなかった主人公。でも大部分の人たちはそうじゃないかな。そんな宮田の期間工としての日々が淡々とすぎていく。その小さな世界でも争い事や淡い恋心などが起こる。その中で間違えないように生きていこうとする宮田がもどかしい。
友人の浜野とのやりとりがとてもいい。身のない話ばかりと最初は苦笑いだったが、物語が進めば進むほどその会話に引き込まれた。笑っちゃうし真理だとも思わされる。
そして後半。どちらにも進んでしまいそうな宮田を浜田はそう意図していないだろうけど見事に引き留めた。本人無自覚なのがまたいい。この2人がこの距離感で過ごしていってほしいと切実に願う。
「降りる人」タイトルが秀逸。読み終わった余韻に浸れました。読み終わったからこそ浜野の存在なくてはならないとしみじみ感じました。
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心身ともに疲弊して仕事を辞めた後、唯一の友人の誘いにより期間工として働くこととなるが、人間として疎外されているような生活を送る30歳の男が主人公の小説。
主人公のキャラクターがどうもつかみきれなかったこともあり、そこまではまらなかったが、純文学らしさがあり、独特の味わいはあった。主人公の唯一の友人である浜野のキャラクターと主人公との関係性がなかなかよかった。
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浜野さんが面白い
ニーチェ読んでんだ、すごいなあ
期間工で、先が見えない生活ってどんなんだろうと思ってた
昔派遣とか、期間工とか、何も考えなくていい仕事したいと思ってたけど、長期になると確かに辛いだろうと思った
でも正社員でも先が見えないし、何も考えずに目先の仕事してるだけなんだけどね
所属先があるかは大事なんだな
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主人公の友人、浜野の言葉。
「降りるってことを肯定的選択肢として持ち続けたい。」「降人」と「選人」の違い。どちらも責任が伴ってはいるんだけどどうにも息苦しい。この前、積読チャンネルで紹介していた「自己決定の落とし穴」でも言っていたけど個人化する社会において「選択しない決定」「決定しない決定」も社会から強く責任を求められてしまう。自分で決めたはずなのになんだかとっても疲れちゃう。もっと世界が優しさに包まれていたらいいなと思う。
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ある事情で仕事を辞めて今は期間工として働いている宮田、そんな彼の日々を語った内容でした。底辺とも思える日々でありながら、へりくだることなくある意味高いプライドを感じさせるストーリーで好印象でした。「降りる人」とは、高みは目指さないのだけれども、しかし堂々として不条理な世界で「降りる」ということなのか、そう思うに至り、私としては感銘を受けました。
星4つの評価としました。
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期間工として働く宮田と、その友人・浜野が主な登場人物。
決して明るいストーリーではないけど最後まで文章に引き込まれて一気に読んだ。
淡々と過ぎる日々の中で、静かな抵抗が描かれる。またこの人の作品が読みたいと思った。
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バスに乗り工場に行き単純作業をこなし期間工として働く。
P9
〈手元に何かが流れてきて、何かを作り、何かを手放している〉
ミスをすればチェックを行う正社員の
「見逃しですよー」の声が届く。
休憩時間に配られるパン。
取る順番にも序列がある。
主人公・宮田の友人、浜野の飄々としたところがいい。
掴みどころがないような
それでいて、ハッとするようなことを言ったりする。
パンのエピソードも妙に惹かれる。
こう書くと失礼かもしれないが
吉田修一さんの初期の頃の作品を思い出した。
一読者としてお願いをするなら
この先も、変に捻らず素直な気持ちのまま書いてほしい。
(偉そうに言ってみました)
何か面白いことが起こりそうな
そんな予感のする作家さん。
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「映画「PERFECT DAYS』に対して「IMPERFECT DAYS』」と選評で書かれている方がいたが、まさにそんな感じ。これがデビュー作とは凄い。2作目以降も楽しみ。
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期間工である宮田と浜野の友情と一年を描いた小説、というと何だか爽やかなイメージをされそうだけれど、アダルトビデオだとか変なオナホだとか自慰指南書といったものがストーリーの歯車として使われていて、全体の空気感は猥雑でじっとりと湿っている。ただその部分と淡々と書かれる文章ががっちりと噛み合っていて読み心地は不思議と良い。粗雑な職場環境で作業をこなしていく陰鬱な日々の中で、ふと垣間見る浜野のとぼけ具合やおかしみが、意図以上のものに増幅されることなく受け取れるサイズで宮田に届いているのがしみじみとした余韻を読後に残す。まったくタイプが違う小説ではあるけれど、私は読んでいて『成瀬』シリーズの成瀬のことを思い出しました。真っ直ぐで、嘘がなく、大切な友人の為に行動できる、そんな得がたい存在が宮田と小説を最後までギリギリのところで崩れないように支えているように感じました。次にどんな文章で、どんな小説を書くのか本当に楽しみです。
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静かに魂を揺さぶられる、生の哲学が凝縮された一冊。
この物語は、社会の競争から疲れ果て、「他に生きられる場所がない」と諦観した宮田の内面を、極めて繊細に描き出します。華やかな展開は一切ありません。あるのは、単調な工場の流れ作業と、絶望と「まだやれる」という抗いが、静かに終わりと始まりを繰り返す主人公の心の声だけです。
心身を「透明な存在」にすることで安息を得ようとしたはずが、友人・浜野のユーモアと哲学は、逃げ込んだはずの場所で、かえって「生きることの責任」を強く突きつけます。最も困難な選択、それは「自らの生を能動的に選ぶ」こと。彼の心は常に、自己の罪悪感と、凡庸な日常に潜む「大したことのない理由」こそが、次に繋ぐ唯一の力だと気づかされる間で揺れ動きます。
この小説は、孤独と痛みを抱え、社会の周縁で生きる人々の「内なる姿」を克明に捉えています。派手な救済や奇跡はありませんが、だからこそ、小さな希望を積み重ねて生を肯定しようとする切実な決意が、心にも深く響きます。静かな筆致の裏に隠された、人間の根源的な強さを感じたい人に、そっと手渡したい作品です。
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一貫して変わらない筆者の温度感と主人公・宮田の温度感。36℃を下回ることも上回ることもなく、それが心地よい。期間工として働く宮田に起こる事象を、レッテルという名の囲いで限定するのでなく、付箋を貼ったまま読者の手に委ねる書き方は計算された巧さだなと感じた。ただ同時に、冲方丁が選評に書く通り、食器棚の上に置かれた煙草などの小道具の必然性が煮詰まりきっていないというのは全体を通して思うところ。これからの作品を楽しみにしたい。
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淡々とした工員の日常が描かれる。大きな事件も起こらず、アパートと工場を行き来し、休日が終わればまたその繰り返し。それなのに読むことをやめられないのは、時折キラリと光が見えそうになるからか。実家での母とコロッケを作る場面やアパートの駐輪場での女性とのやり取り、病気の友人を見舞うために粥を作るときに見える彼の気持ち。見えそうで見えないものを見つけたいと読んでしまったのだろうか。余韻の残る作品。彼に寄り添ってくれる人がどうかこの先いてくれますようにと祈らずにいられない。
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心身ともに疲弊して仕事を辞め、山の中の工場にて期間工として働く30歳。つくっているのはベルトの部品。一日中同じところに立ち、流れて来る製品を同じ手順でチェックするというだけの、圧倒的流れ作業の単純労働。現状に満足している人は社員を含め誰もおらず、だから、社員と期間工の間で、残業前に支給されるパンを巡る、本当にクソほどどうでもいい小競り合いが勃発する。自転車が盗まれたり、それがきっかけで女の人と知り合ったり、ほのかな恋心を抱いたり、それがずたずたに引き裂かれたり、寄ってくる期間工がいたりの一年。あることがきっかけで、退職に追い込まれる。
哀しみしかない期間工の生活を、淡々と描写している。ただただ暗い話にならないのは、浜野という、映画と自慰の話ばかりする同郷の友人のおかげだ。「降りる人」という生き方を体現する浜野は、達観した存在。「働いて家に帰ったら好きな飯を食える。それから気持ちのいい射精をして、八時間ぐっすり眠れる。これで十分だろ」生きる意味を求める主人公は、彼が頼もしく羨ましい。「一日五回の自慰」を進められ、大量のアダルトDVDを渡される。五回の自慰はしなかったが、何かが開ける。最終、道を誤りかけた主人公を救うのも、浜野である。
以下、いいなと思った文の抜き書き。
「自動掃除機が僕の前で止まった。僕がゴミなのか考えているみたいだった。」
「クソみたいな昼夜逆転シフトに耐えるためには、目の前に見下せる人間がいないと正気を保てないんだよ。要するに、俺たちはあいつらの正気のためにいるんだ」
「小学校の後輩なんかを触媒にして、ありもしない過去へ帰りたいほど、この人は悲しいのだろうと思った。」
「お前も、他の奴がニ、三年で習得することが何もできなかったからここにいるんだろ。ここでお前は、毎日毎日何も習熟しない自分を作ってんだよ」
帯に書かれた担当編集者の言葉、「この小説に救われる人が、必ずいる。そう強く思えた作品です。」の通りの、青い、いい作品だった。
Posted by ブクログ
作者が同郷と知り読んでみた
年齢は10歳ほど私より若い
工場勤務の二人
社員ではなく淡々とこなすだけの仕事
大きな事件はそれほど起こらず
終始淡々としている
にも関わらず退屈せずに読めたのは不思議だ
作者氏の筆力だろう
男性の自慰にまつわる表現が
たびたびというか全編にわたって出てきて
げんなりはしたが
それすら湿度が低く
そういったサラッとした感じが
この二人の物語には合っているように思えた
Posted by ブクログ
心身ともに疲弊し前職を辞めて山奥の工場の期間工になった宮田と、同じ期間工で唯一の友人である浜野のなんでもない毎日。
スキルアップなど望めず、いくらでも取り替えがきき、もはや人間での扱いですらない工場での労働の日々。不満エネルギーの解消のために他人を消費する者たち。考えることをやめ、ただ刹那的に日々を生きる姿は閉塞感しかない。
これもプロレタリア文学と呼べるのだろうか。かつて読んだプロレタリア作品は、もっと怒りややるせなさに満ちていて、それでも必死に這いあがろうとするエネルギーを感じて胸が熱くなったものだけど、この作品は登場人物にそんな熱量を感じなかった。これも時代なのかな。
自らを「降人」と呼び、強いられたのではなく自ら選択して降りたのだと嘯く浜野。戦う前からリングを降りる姿に共感はできない。
最後、すんでのところで死を回避した宮田が、人生を降りないでいてほしいな。
Posted by ブクログ
なんだろうか
特になにも大きなことは起こらないが
二人のやりとりが
ゆるく面白い
浜野みたいな隣人は
伊坂幸太郎作品に出てきそうな感じで
リアルな友達だったら
面倒なやつだが
誘われたら飲みに行くだろうなと
思える作品だった