あらすじ
ある家の二階に小さな書庫がありました。薄暗い廊下に面したその部屋は、その家の他のどの部屋よりも、物静かな一角でした。古めかしい漢文の本、外国の本が並ぶ小部屋。そしてこの静かな部屋の天井近くに、小人が住んでいたのです……。暗い戦争の影が日本をおおう冬の時代、外国生まれの小人を愛し続ける少女ゆり。いまわしい現実と不安な日々が不思議な魅力を持って描かれる、日本のファンタジーの記念碑的作品です。
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Posted by ブクログ
子供の頃に読んだ本を再読。
明治の頃に日本に渡ってきたイギリスの小人夫婦と日本で生まれた子供たちのお話。
小人たちは人間たちが空いろのコップにそそぐ一日一杯のミルクで生きている。
戦争が始まって、ただの食糧ではなく小人たちが大切にされていることの証でもあるそのミルクを確保し続けることが難しくなっていく。
大事なのに、大事にすることが難しい。
日本の、しかも大戦期を舞台にして戦争について描きながら、しっかりファンタジーとして面白い。
「物語の前に」は全然覚えていなかった。きっと大人視点だから。
大人が読ませたい部分と子供が読みたい部分は違うんだろうな。
(作者の意図は別として、この本を大人が子供に推薦すると、「おもしろいよ」より先に「知りなさい」と言ってしまいそう)
"――おとうさまがわるいんだよ。自由主義者なんだもの。ぼくは前から知っていたんだ。おとうさまはね、外国のことばっかり尊敬して、日本の戦争なんてまちがいだっていうんだ。そんなこというのは、非国民じゃないか。だから警察につれてかれたって、しかたがないのさ!"p34
信のこのセリフを、子供の頃は他人事として読めた。
あの頃読んだ圧迫感は怖いものではあったけれど、「異常な時代の異常な状況」であって自分の世界にはないはずのものだった。
自分が物知らずな子供だったせいかもしれないけれど、それだけとは思えない。
今は現実の中でよく見かけるセリフに見える。それが恐ろしかった。
昔読んだ時のイメージとしては、小人・冒険・物語のワクワクと、戦争・飢えの怖い印象が残っていた。
読み返してみたら、怖がらせるタイプの話じゃなかった。
子供の頃に手放しで好きといえなかったのは、怖かったからだけじゃなくてハッピーエンドに見えなかったからというのもあるかもしれない。
子供の頃にのぞんでいた「みんなで末永く仲良く暮らしました」ではないから。
今は、全部をもてないならどれかを選ばなきゃいけないってことなんだろうと思う。
登場人物がみんな自分なりにがんばっている。
投げやりな部分のなさが良い古さ。
今の本でよくみかけるやる気のない子には同調するけど、共感しちゃってもなあと思うから、このまっとうさは快い。