あらすじ
『貸本屋おせん』で日本歴史時代作家協会賞新人賞受賞、
『梅の実るまで』で山本周五郎賞候補となった注目の新鋭が満を持して放つ感涙の長編時代小説!
南部藩の村に生まれたリュウは馬と心を通わせる10歳の少女。厳しい自然のなかで名馬「奥馬」を育てる村では、時に人よりも馬が大切にされていた。リュウの家にも母馬が一頭いるが、毛並みの良い馬ではない。優れた馬乗りだった兄が二年前に亡くなり、家族は失意のなかにあった。祖父は孫娘に厳しく、母は小言ばかり。行き場のない言葉を抱えたリュウが馬の世話の合間に通うのは「柳の穴」と呼ばれる隠れ家だった。姉のようにリュウを見守る隣村の美少女セツ。村の有力者の優しくてドジな次男坊チカラ。「穴」に住む家無しのスミ。そこでは藩境を隔てて隣り合う村の子どもが集まり、自由な時を過ごしていた。
ある日、片腕のない見知らぬ男が「穴」に現れる。「仔は天下の御召馬になる」。馬喰(馬の目利き)の与一を名乗る男はリュウの育てる母馬を見て囁いた。将軍様の乗る御馬、即ち「天馬」。しかし天馬は天馬から生まれるのが世の道理。生まれにとらわれず、違う何かになることなどできるのだろうか? リュウは「育たない」と見捨てられた貧弱な仔馬を育て始める。
村を襲う獣、飢饉、「穴」の仲間や馬たちとの惜別。次第に明らかになる村の大人たちの隠しごと。与一との出会いから大きくうねり始めるリュウと仔馬、仲間たちの運命。なぜ人の命も馬の命も、その重さがこんなにも違うのか。馬も人も、生まれや見た目がすべてなんだろうか。いつか大人になったら、すべてわかる日が来るのだろうか?
生きることの痛みも悔しさも皆、その小さな体に引き受けながら、兄の遺したたくさんの言葉を胸に、少女と仔馬は生きる道を切り拓いていく。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
★5 リュウも氷室もずっと幸せであってほしい… 馬と共に辛い環境で生き抜く少女の成長譚 #天馬の子
■あらすじ
青森県南部地方、名馬(南部馬)を育てることで生業を得ている村。そこで暮らしている10歳の少女リュウは、家族と共に慎ましい日々をおくっていた。そして彼女は生築という馬を大切に世話をしている。馬の目利きである男が言うには「生築の子どもは天下の馬となる」とのことだが…
■きっと読みたくなるレビュー
★5 何とも胸が締め付けられる物語だわ…
江戸時代、田舎の貧乏村。ひもじい生活をしている少女リュウの視点で物語は描かれてゆく。彼女の家庭は貧乏で不幸ながらも、村の仲間と共に暮らしている。さらに心を通わせる馬「生築」といつも一緒だった。そんな彼女が村でおこる様々な出来事をきっかけに、少しずつ世の中の仕組みや人間関係を学んでいく成長の物語です。
まず読んでると痛感するのは、生まれの違いによる運命って奴すね… リュウはひもじい生活環境ではあるのですが、実はもっと辛辣な境遇の女の子たちがいる。
姉のような友人のセツ、いつも穴ぐらで生活しているスミ、そして赤ん坊時代に間引きにあってしまうセイ。彼女たちの過去や背景、そしてどのような運命をたどっていくことになるのか… 少女リュウは、そんな彼女たちにどう向き合っていくのか。現実ってのは非情ですが、それを知るってのも残酷です。
そして家族の大切さ、解像度高く描かれています。生きるか死ぬかの環境、ひとりではなくチームで助け合いながら生き抜いていくのです。特に母が子をどのように思っているか、そのためにどんなことをしてきたのか。慎ましい生活を守ることの大切さを学びましたね…
馬への愛情も豊潤に描かれています。馬も人間も同じ生き物、リュウは本当に馬と語り合っているように見えますね。
そして春風と氷室の出産シーンですよ… 神をも恐れぬ人間たちの行動に震えてしまい、もういろんな感情がこみ上げてきて、自然に涙が出てしまう。生命ってのは神秘で、生きるってことはパワーですね。
そして本作イチバンの読みどころは、少女リュウの成長です。馬のことを無邪気に可愛がっていた彼女でしたが、大人になるにつれ社会の現実を知ることになる。自身が大切と思っているものを守るために、どんなことを犠牲にしているのかということを… 特に物語の後半、ひとり立ちに挑戦する彼女を見てると、もう応援せずにはいられませんでしたね。
装画のリュウと氷室の絵を見てると、心が癒されちゃいますよね… 彼女たちがずっと幸せであってほしい。なかなか厳しい物語ではありますが胸に深く刻まれる、そしてぽっと心が暖かくなる時代小説でした。
■ぜっさん推しポイント
私は「運命」って言葉があまり好きではない。何故なら本人の努力など関係なく、生まれもった道筋は変わらないという意味をもつから。
リュウが終盤に感じた衝動は、その「運命」という意味に初めて気づいたのだろう。知らないほうが幸せなのかもしれない、ひとりでは何も変わらないかもしれない、でも… この小さい気づきから、人生っのは変わってもの。
たとえどんな環境で生まれたとしても、希望を胸に抱き、前向きに生きてほしい。
Posted by ブクログ
馬と生活する東北の村。飢饉で暮らしが厳しく、産まれてきた子を間引くこともある。馬の気持ちがわかるリュウが一生懸命生きる。優しい語り口だけど、厳しい現実が書かれているのがいい。
Posted by ブクログ
人と種族の価値観の違いを認識させられて小説。
時代小説は、読むと現代はいかに自由であるか再認識させられます。
やはり、たまに読むことが大切だと感じました。
天馬の子は、馬で成り立っている村で生活している少女の話です。
生きるために何をするのか?、周りは同様に生きようともがいているのか?
生まれの家系で扱いが違う。あまりにも理不尽さを感じました。
でも、昔はそれが当たり前で常識だった。
僕らは現代に生まれていかに恵まれているのか。どんだけ贅沢の暮らしをしているのか。
「足るを知る」心が大切だと改めて感じますね。
傲慢になっている時には時代小説はいい教訓になりました。
Posted by ブクログ
南部藩の忍野村という寒村で生まれ育ち、馬の世話をすることを生きがいとする少女リュウの成長譚。日々の暮らしに精一杯で、天候に生死が左右される貧困、生まれ落ちた瞬間に生涯の道筋が決まってしまうという身分制、時に男性のもとで虐げられる女性という性……さまざまな理不尽をひとつひとつ見つめてゆく彼女の視線はどこまでも真っすぐだ。
その日その日を生きていく厳しさが切々と語られるからこそ、人も馬も、一つひとつの命の重さが光っている。そこでは日々、”命のやり取り”ともいうべきものが行われている。それは生きる者と死ぬ者という単なる二元論ではない。命をつないでゆくために、尊厳や、プライドや、信念を時には差し出さねばならない場面があり、その生々しさから目を背けることなくここまでむき出しにできる高瀬さんがすごいと思った。
私自身がいま生きている環境はリュウのそれとはまったく違うが、理不尽なことを吞み込まねばならない苦しさは痛いほどわかるし、それでもおかしいことにはおかしいと声をあげることの勇気をもらった。時代小説をここまで自分事として読めた経験ってあまりないように思う。現代の日本にこそ響いてほしい一冊だった。
前半がどうしても説明がちなので読み進めるのにやや苦労した。その割に、馬まわりの用語や制度はわかるようなわからないようなという感じで時々引っかかった。