あらすじ
93年に発表された「文明の衝突」理論は、その後のコソボ紛争、さらに東ティモール紛争でその予見性の確かさを証明した。アメリカ合衆国の「21世紀外交政策の本音」を示して世界的ベストセラーとなった「原著」の後継版として、本書は理論の真髄を豊富なCG図版、概念図で表現。難解だったハンチントン理論の本質が、一目のもとに理解できる構成とした。その後99年に発表された二論文を収録、とくに日本版読者向けに加えた「21世紀日本の選択」は必読の論文。2000年に刊行された名著を電子版で復刻! 解題・中西輝政。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
「尖鋭化する文明・宗教の対立」と本書の帯にありますが、15年も前に、2016年現在の状況をここまで見通していたのかと唸らされる、そういう一冊でした。
Posted by ブクログ
<新たなファクターとしての文明>
93年に世界的ベストセラーになった『文明の衝突』の後継版として位置づけられる本書は、衰退する西欧文明がもたらす世界認識を知る事が出来る。筆者によると、冷戦後の世界は(7〜8の文明で分けられた)多極化へ向かい、従来のパワーという概念に加え、文化•文明が民族(国家)の行動を動機付けるものとなりうるという。そして文化文明の差異が分裂を招く危険性を指摘しており、もっとも紛争をもたらしそうな分裂線を西欧文明と中国及びイスラームの間に引いている。本書から、相対的に衰退する西欧文明の代表者たるアメリカの、多文明化した世界における一つの提言を見ることが出きよう。
<アメリカのアジアへの眼差し>
本書の一番主要な主張は、国家の行動様式がパワーを巡るものから、伝統的に自らを基礎付ける文化文明に基づくものになり、そこから異文明間の断層部における紛争の可能性を指摘するものである。しかしより興味深い認識は、西欧文明の衰退というものであり、他の文明(中華、イスラーム)の台頭に直面しているという認識である。アメリカは、国内において多文化主義が「国民の団結よりも、むしろ多様性を熱心に奨励」(p179)する事で西欧文明の遺産を危機に曝し、アメリカを「引き裂かれた国」にしてしまう可能性を抱えており、事によると異文明間戦争よりアメリカにとって危機になりうると主張する。そのため対外関係において来るべき多文明化した世界に備え、アメリカが一極支配者たる振る舞いをやめ、自国の価値の普遍性を前提に行動するのではなく、自らが西欧文明の代表として他国の協調を促し自国の利益にかなうように振る舞うべきだという。そこから引き出される提言は、アメリカ外交は「一つの文明の中核国はその文明圏の国々の秩序を、文明圏外の国がするよりもうまく維持できる」(p89)という前提の下「その地域の大国が第一に責任を負うように」治安維持に努めるべきであるというものだ。
筆者は来るべき多文明化した(多極化)世界で「潜在的に最も危険な紛争」がアメリカと中国の間で生じうるという。「異なった文明間の新興中核国と没落する中核国家の間の紛争に、勢力バランスという要因がどの程度まで影響するだろうか?」と問い、日中間の文明の差異とパワーシフトの相互作用に関心を向ける。筆者はアジアでは中国(中華文明)の台頭とアメリカ(西欧文明)の衰退、日本(日本文明)の停滞があり、文明の差異とパワーバランスの著しい変化があり、日米中の関係は文化文明の断層線に隣接する国家同士であることから協調は難しいという。アメリカの対アジア関与はこれまで、パワーの観点から中国の域内大国化を日米同盟で押さえ込む戦略がとられて来たが、今後もこの関係は続けられるのか?中国の台頭の前に、「揺れる国家」たる日本はいかなる戦略をとるのか?
すべて明示的に答えられている訳ではないが、衰退し挑戦を受ける西欧文明という世界観を前提に、アジアにおけるアメリカがとりうる戦略を考えるにあたって、重要な土台となりうる議論が展開される。
<本書の功績と問題>
この本及び「文明の衝突」議論の最大の功績は、従来の国家の行動要因であるパワーに加え文化文明という概念を新たに加え、両者の相互関係から紛争の要因を探っている点である。特に文明の盛衰からとりうる戦略を考えるという発想は、旧来の国際関係学にはない新しい視点である。
もっとも「文明の衝突」の議論に問題は少なくない。筆者が「文明の衝突」として挙げる旧ユーゴ紛争においては民族別の経済格差の問題があり、さらにボスニア紛争やコソボ紛争ではイスラム文明を西欧が(直接間接の)援助をしている事実から、文明の親近性だけで国家の行動を説明出来ない。だが、筆者の主張では、その点の考慮が無い。しかし、より重要なのことはアメリカの価値を普遍だとの前提で行動をとらないことや、異文明への不干渉を主張する世界観がどのようにして生まれ、どこまでアメリカ国内で支持を受けるのかであろう。さらに私たちに関わるところでは、アメリカと日本の関係にその世界観がどのような影響を与えうるのかを本書で考えることが出来る。