あらすじ
「マーケティング、戦略、DX・・・そんなものを超えたマンガへの異常な愛がここにある。
時代を変えた仕事人たちの熱いドキュメント!
読み始めたらもう終わり。仕事のやる気が出まくるヤバい本」
――佐久間宣行(テレビプロデューサー)さん激賞ッ!
2014年9月22日創刊。昨年、2024年9月で10周年を迎えたマンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」。その10年の間に、『SPY×FAMILY』『怪獣8号』『ルックバック』『タコピーの原罪』『ダンダダン』など、ヒットマンガや新人作家も続々誕生。多くの読者を獲得し、人気マンガ誌アプリとなった。そんな「少年ジャンプ+」は、どのようにして生まれ、どのようにして進化し、そして今後どこを目指していくのか?
著者は『タモリ学』『笑福亭鶴瓶論』『全部やれ。日本テレビ えげつない勝ち方』など、テレビを中心に「エンタメ」とその制作者たちを愛する戸部田誠(てれびのスキマ)氏。
戸部田氏が編集者・社内外スタッフ・外部会社・作家など多くの関係者に徹底取材し、「少年ジャンプ+」の秘密に迫るノンフィクション。
「本書は、僕から見た「ジャンプ+」の“物語”だ。
別の人から見ればまた違ったものになるに違いない。
僕が見た『ジャンプ+』の10年は、挫折を味わった者たちが、奇妙な縁で支え合いながら、あがき戦う姿だ」(本書の「はじめに」より)
【著者プロフィール】
戸部田誠(てれびのスキマ)/1978年生まれ。ライター。ペンネームは「てれびのスキマ」。
『タモリ学』『1989年のテレビっ子』『笑福亭鶴瓶論』『全部やれ。日本テレビ えげつない勝ち方』『売れるには理由がある』『芸能界誕生』など著書多数。公式X@u5u
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Posted by ブクログ
林と藤本タツキが出会ったのは「SQ.」の月例新人漫画賞「クラウン新人漫画賞」への投稿がきっかけだった。藤本の父親は「SQ.」やその前身の「月刊ジャンプ」の愛読者。その影響で藤本にはマンガ雑誌といえば「SQ。」という思いがあった。林は藤本の投稿作を読んで、その若々しさとトガりに惹かれた。描きたいという初期衝動をそのままぶつけたような作品だったのだ。
「最終候補になったときに、担当に就きました。絵は結構粗かったけど、面白い人間も描く。構成も言語感覚もなんか独特で不思議な感じがしました。でも、電話したら、めっちゃ常識的だったし、作品に対する創作意欲がすごく強い方でした。出会えて運が良かったですね」
その頃、藤本は秋田に住む17歳の高校生だった。しばらく電話やメールでやりとりをして、1年ほど経った頃、初めて対面した。〝情報〟として年齢は知っていたが実際に会ってみると改めて「若いな」と実感した。
「とにかく画力を上げてほしい」
林は藤本にそんな要求を繰り返した。加えて物語をつくる脳を鍛えるため、オススメのマンガやDVDを段ボールに詰め込んで送り、感想を求めた。しっかりそれを言語化することがアイデアを生むために大事だという考えからだった。藤本はデッサンやクロッキーを集中しておこない、同時に何かを思いついたらすぐにネームを描いた。多いときは毎日のように林にネームを送り意見を求めたという。林もそれに根気強く応えた。ボツが続いた頃、林は直接会って話したいと思い上京してもらったことがあった。久々に会った藤本は奇妙なことを口走った。
「連載が終わりました」
もちろんまだ実際にはどこの媒体にも連載はしていない。藤本は常に自分の頭のなかだけで〝連載〟しているのだという。そのうちのひとつが〝完結〟したというのだ。あふれるようにアイデアが湧き出てくるタイプの作家だった。
「SQ.」で何本か読み切りを掲載し、いよいよ連載ができるネームが仕上がった。それが『ファイアパンチ』だった。『ファイアパンチ』は「祝福者」と呼ばれる能力者が存在する世界を舞台にしたダークファンタジー。主人公は消えない炎に身を包まれており、飢餓に苦しむ村人のため、自身の肉体を食料として提供している。やなせたかしの「アンパンマン」に着想を得て生まれたものだという。
「林さんは天才だから」
そんな声が若い編集者からあがることがあるという。つまり、林は特別だから、彼と同じようにはできないというのだ。けれど、そうではないと、細野は言う。
「林のスゴさは、誰にも真似できない部分ではないんです。たとえば『まめに連絡を取る』ということをルーティンにしている。連絡するって一見当たり前で簡単そうですが、ちゃんとできなかったり、先方から返事がないとやらなくなったりするんですよね。自分の仕事を完全に理解しているんです。そして試行回数が全然違う。僕が知る限り一番たくさん読み切りを載せ、新連載を立ち上げています。編集者としての能力もスゴいんですが、たくさんマンガをつくって、作家さんとより良いものをつくっていく、それがスゴさだと思います」
紙の雑誌は厳格にページ数が決まっている。そこがウェブマンガとは大きく違う。実は紙の編集者の最大の腕の見せどころのひとつが「削る」作業なのだ。長く「ジャンプ」でキャリアを積んだ中路は言う。
「『ジャンプ』の場合、1話19ページと、ページ数が限られています。だから、その回の中で、目立たせる部分、山場と次回への引きをつくるために、余分なところを削る作業が必要で、自然と取捨選択する技術が身についていきます。逆に『ジャンプ+』だと、ページ数の制限がないので、いいアイデアを残したいと思うとどんどんページ数は長くなり、一つひとつのネタは面白いけど、全部足した結果、ぼやけてしまう可能性がある。だから後輩たちにはそこを注意するように口酸っぱく言っています。読者に受け取ってもらえるものには限りがある。『ここがこのマンガのいいいところですよ』というものを絞って出さないと、理解されないし、なかなか広がっていかないですから」