【感想・ネタバレ】誘拐された西欧、あるいは中欧の悲劇のレビュー

あらすじ

中欧のチェコに生まれたミラン・クンデラは20世紀後半の歴史と文学を「中欧」という視点から体現した作家。2023年の没後、作品の再検証を試みる機運が高まるなか、クンデラが生涯をかけて探求した概念「中欧」と「小民族」を巡る両論考は作家の世界観を理解するための貴重な証言と言える。また、主体的な関与がないまま自国の運命が一変するという「小民族」の置かれている状況は、現在のウクライナやパレスチナの情勢にも援用可能な視点であり、その警鐘は鳴りやむどころか世界中に響き渡っている。

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ

1967年チェコスロバキア第二回作家大会の冒頭で演説された「文学と小民族」、および1983年フランスの『ジュルナール・デバ』誌に掲載された標題評論の2編と、訳者阿部賢一の長めの解説が収録されている。
1つ目の講演では、19世紀初頭のユングマンらによる「民族再生」運動から語り起こされ、チェコ民族の非自明性や、それが絶えず東のロシア、西のドイツという「大民族」への同化の危機に晒されていた「小民族」であることが語られ、自分たち「小民族」が存立する理由を文化の多様性、その特殊性に求め、文化を破壊する「破壊者」たる政治的な検閲を暗に批判している。この背景には、60年代に演劇や映画、文学の領域で起きた文化発展(映画では「チェコ・ヌーヴェルヴァーグ」と呼ばれた。講演ではヴィェラ・ヒチロヴァー監督『ひなぎく』が言及されている))というチェコの文化が国際的に評価された事実があった。自身作家として確立し始めたクンデラの決意が読み取れ、チェコ民族の位置付けはのちの「誘拐された西欧」につながる。
2つ目の評論「誘拐された西欧」では、パリに亡命した著者が自らの作品を「東欧の」作品、「スラヴ魂」の溢れた作品と評されたことに対する違和感から、チェコスロバキアやハンガリー、ポーランドをスラヴ文化圏としての「東欧」とは別の、かつてオーストリア帝国の一部であり絶えず大国に翻弄された「中欧」として、文化的には西欧でありながら政治的には東欧と見做される小国の悲運を描いている。
印象に残ったのは、チェコの文筆家カレル・ハヴリーチェクのロシアからの手紙の次の引用文だ。
ロシア人はことあるごとにロシア語ではなく、スラヴ語で話し、書いていると述べているが、それは、のちにスラヴ的なものをことごとく、ロシア的と呼ぶためである。

0
2026年07月19日

Posted by ブクログ

「存在の耐えられない軽さ」の著者ミラン・クンデルによる。
ローマ帝国の時代から東西冷戦など、ヨーロッパの中心にあるがゆえ翻弄された中欧。
日本にいるせいか、アイデンティティはなかなか意識しにくい。

0
2026年01月04日

Posted by ブクログ

読むべきとされた本である。150ページの薄い新書のなかで、クンデラの講演はわずか50ページである。ソビエトとハンガリーの関係を中心として、ポーランドやチェコの話もある。現在のウクライナ侵入にも通じる話である。

0
2025年12月23日

Posted by ブクログ

戦前まで西欧の一員でありながらスラブ世界としてどこか別扱いされ、戦後ワルシャワ条約機構に組み込まれたが、ソ連崩壊後はNATOに加盟。でも国境を接するロシアの脅威からは逃げられない。それでも独立国家として生きていかなければならない。これってまさしく中欧のアイデンティティの問題と言える。

0
2025年09月21日

「ノンフィクション」ランキング