あらすじ
雨で部活の練習が早めに終わった栗本詩暮は、忘れ物を取りに戻った視聴覚室で、一人の女子生徒・雨森潤奈と出会う。読書や音楽の好みが合致した二人は、互いの時間が重なる雨の日の放課後限定で会うようになり、密かな交流を始める。
「詩暮っていう名前、好き」
「私は独りが好きで、無駄な他人と関わりたくはないけど……詩暮なら、いい」
じめっとした雨の日にだけ会える潤奈は無表情でドライだが、やたらと距離感が近く、甘えたがりな女の子。
さらにある晴れた日、潤奈の「秘密」を知ってしまったことで、詩暮に対する潤奈の距離は吐息がかかるほどにまで近づき、深すぎる愛情がだだ漏れになっていく――。【電子限定!書き下ろし特典つき】
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Posted by ブクログ
著者初読。KU。
水城水城『雨森潤奈は湿度が高い』は、ただの学園ラブコメに収まらない、深い余韻を残す物語である。雨に濡れた校舎を舞台に、感情を隠さず吐露する潤奈と、飄々としながらも確かな芯を持つ詩暮の対話は、どこか詩的な響きを帯び、読者を強く惹きつける。湿度の高さという表現は、彼女の重さではなく、むしろ豊潤な感情の厚みを示しており、そのしっとりとした存在感が物語全体を包み込んでいる。
さらに印象的なのは、心理描写の緻密さだ。潤奈が創作への渇望と恋情の間で揺れ動く場面には、青春特有の痛みと切実さが凝縮され、誰もが心の奥に抱える「諦めきれないもの」への共感を呼び起こす。背景として描かれる音楽や雨の情景は、その葛藤に一層の深みを与え、物語を単なる恋愛譚から人生の断片を切り取った文学へと昇華させている。
本作は、潤奈という湿度を帯びたヒロインの存在を通じて、人間関係の濃密さ、そして生きることの重みを描き出した佳作である。ページを閉じた後もなお、胸の奥にしっとりと残る感触が、この作品の真価を物語っている。