あらすじ
私が言いたいのは、今や脳と心に関する見方にも、コペルニクス的転回が必要とされているということだ。脳も心も無時間的なものではない。私は本書で、いかに脳が脳内時間を構築し、それによって意識や自己などの心的機能が生じているのかを論じてきた。(本書「コーダ」より)
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
心身問題を「時間」で解決するという、なかなか刺激的な主張を展開する本だ。脳は内的・外的な時間をスケールフリーで調整し、その結果として自己を認識する意識が発生するという。内的な時間とは、脳自体の処理や思考、臓器との連携など、脳波のことを示す。脳波は神経細胞が発生する微弱な電気信号がもとで、持続時間や周期速度は様々ある。外的な時間をここでは「世界」と表現しており、物理的な時間とは何かが定義されていないため、脳を主軸に考えたとして外からの情報(音や触感、視界など)を示すと想定して読み進めていく。すると脳自身と、外的な時間が違うのは当然ながら、内的な時間(信号)も様々なスケールで周波数が混ざっていることになる。それをうまく調整する脳はうまく機能し、遅いと鬱状態に、速いと躁状態になる。自己について考える課題を与えると、ヒトの脳波は周波の長い形態に入る。周波が長いとエネルギーが弱く感じられるが、脳波においては逆で持続時間が長く強い影響があり、それが自己を一生継続させる効果を生む(5歳でも80歳でもワタシはワタシ) そして他の動物でも同じようにタイムスケールの存在が脳波などの研究で確認されているが、残念ながら一部の哺乳類に今のところ限定されている。コウモリは超音波を頼りに外界を認識し、空を飛ぶことまでできるためヒトとは大きく違った、短い波長をベースにしているようだ。脳が外界に対して時間を合わせることで、なぜ自己や意識のような心的機能が形成されるのか?この点については、原文のイタリア語では記載あるが難解で、英語版では省かれ、そして日本語版では医学博士が最後に解説をしてくれている。それを直感的に理解するには臨界現象をイメージするのがよい。臨界現象とはある条件で物質の状態が突然変わる相転移のような、特定のスケールを持たない状態で、完全な秩序と無秩序の間にあることを示し、それが脳の活動でも見られることから、相転移の結果として意識が生じるという流れになっている。ところでAIやプログラムは心を持つことができるか、に対しては、脳と同様にタイムスケールや環境との確率的な整合性を持たせれば可能かもしれないと指摘されている。
非常に面白いテーマで、なかなか一般人には思いつきもしないような発想がとても興味深いのだが、読み物としてはあまり面白みがなく淡々としているのが残念、万人受けも決してしないだろう。うまくアナロジーを組み合わせてロヴェッリ博士のように情熱的に語れば最高クラスに楽しい本となり得るポテンシャルを感じた。時間とは脳が生み出した幻想だという説もある、本書はその逆で時間が存在し、その結果として意識が生じるという。実際のところはどうなのか…