あらすじ
平安時代初期、はじめて庶民に仏教を浸透させていく過程で、「善悪とは何か」「因果応報とは」「親子の関係とは」といった仏教思想の基本を物語の形で伝えた『日本霊異記』。語りかけるような言葉で一冊を読み通す!
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
民俗学の勉強する中で、「日本霊異記」で語られる話はよく引用されるので一度原典を読んでみたかった。しかし量的にも読解力的にも口語訳でとにかく何が書かれているのか知りたく(古文は読めないし頭に入ってこない)ので、まさに探していた本と出会ったという感じだった。
実際読んでみてとてもわかりやすく、読めてさえしまえば、現代の自分と1300年前の人の感覚というか、その世界に用意にいくことができる、人って(当時の文化や文明はともかく)大きく変わらないんだと思った。
本書は仏教を広め教化していくために書かれたという認識だが、古代神道のような日本の神様の話で語られる世界やモチーフがかなり出てくる。とても融合している。例えば、黄泉の国で煮炊きした食べ物を食べるともとの生きた世界に還れないという黄泉戸喫のモチーフが地獄の冥界めぐりで出てくる。
また、特徴的に思ったのが借りたものを返す、負債を返すという決まりがとても厳格で、それは家族間でも厳しく取り立てる。親が子に金や物を借りると生まれ変わって牛になってしまう。子が許すと死ぬ(=許される)。キリスト教の世界では税金が払えない人借金のある人の見方、徴税人に厳しいという構図が聖書で印象的だったが、対照的に感じた。人間の世界の人間同士の話であっても仏に罰せられる行いなのだと。この借金で罰せられるモチーフはよく出てくる。
また、都市での生活で核家族としての生活や都に仕えて後に残される親であったりなど、現代の都市生活を似たような生活を送っている。昔は第一次産業に従事する人が多いけど今は・・という流れの印象がなんとなくあったが、当時からサラリーマン的な生活、核家族は多かった。単純に昔か今かではないのだと。
あと力女の話は普通に読み物として面白かった。夫のために力づくで盗られたものを取り返したら怪力に恐れをなして離縁され、別のところで生活しているとき失礼な言動をされので仕返しに船を陸に引き上げるとか。筋肉はすべてを解決する系のギャグの原点では?これが一番面白かった話。
また、口語訳の文章の下には注釈やちょっとした解説が書かれているんだけど、そこではただ仏教の解説をするだけではなく、高僧が(子の姿を借りた悪いものだが)子供を崖に捨てるよう指示してそのとおりにした親についても殺人教唆など宗教のもつ危険性に触れている。新興宗教だから危険、古代からある仏教は平和な宗教だ、という印象を持つ日本人が多いと思うが、その宗教だけ信じた状態で人は簡単に操作することができてしまうし善悪の判断にも手を加えられてしまうという、宗教の本質的なところも考えさせられる。
あと文化的に印象的だったのは、万葉集は母と子の絆が多いけど、霊異記は父と子である。とか。結構全体的に妻と夫だと妻が不利に扱われているからそういうのもあるかも。夫は理不尽に離縁して再婚しても罰せられず、女はそれを恨みに思うだけで地獄で苦しむとか。
あと兄弟の話で弟に嫉妬した兄が弟を殺すモチーフはキリスト教やほかの古典でもみられる。
あと、仏教も当時は修行の妨害されたりかなり迫害されていたことも話の背景からうかがえる。かなりかわいそうな目にあっている。
前世の親と会うという話も出てくるけど、そんな話が江戸時代やもっとあとか、そんな人がいたという実話(前世は証拠ないけど事件としてはあった様子)もあったけどこれが原点なんだろうか。
Posted by ブクログ
日本最古の説話集『日本霊異記』は平安時代初期に成立した。作者は奈良時代の僧、景戒とされる。僧侶が聞き集めた不思議な話や因果応報の教えが庶民の生活や信仰を背景に描かれている。生き方や行いが生む報いを説き仏教の教えを広める目的があった。
例えば善行が招いた幸福や悪行が引き起こした災難が語られる。これらの話は時代を超えて私たちに生きる姿勢を問いかける。『日本霊異記』は信仰と人間の物語を結びつけた歴史の一頁である。
Posted by ブクログ
平安時代初期に奈良薬師寺の僧•景戒(きょうかい)が編纂した仏教説話集。約120話の短い話を口語訳したのが本書。原典は漢文だが、口語訳されているのでサクサク読める。本文の下に註釈も付いているので理解しやすい。巻末には地図•系図•関連年表もある。
内容は、後世に伝承されて昔話や伝説となって広まったような物語が多い。動物をめぐる恩返しや臨死体験を語る冥界訪問譚などはその代表的なものだろう。
『日本霊異記』の価値は、それ以前には日本人の思考に無かった因果とか応報などの"観念"を駆使して語られる仏教的な戒めが、短い物語として大量に記録されている事にある。
正直、全部読み通すと些か食傷感をおぼえるが、日本人が日本人となってきた過程が垣間見えるようで、それはそれとして面白かった。