あらすじ
いま必要な「社会を生き抜くための武器」とは何か。
我々は何を、どのように後輩たちに継承するべきか。
「教える」ということの本質と課題を多角的に考察。
会社員、ベンチャー企業の創業者、大学学長という立場から考え続け、
実践してきた著者の結論を示す。
【各界専門家との特別対談も収録】
「学校教育」久野信之氏(学校法人立命館常務理事(一貫教育担当))
「生物心理学」岡ノ谷一夫氏(帝京大学先端総合研究機構教授)
「教育社会学」松岡亮二氏(龍谷大学社会学部社会学科准教授)
【本書の構成】
第1章 後輩たちに「社会を生き抜く武器」を与える
特別対談 久野信之×出口治明
第2章 根拠にもとづいて話す。選択肢を与える
特別対談 岡ノ谷一夫×出口治明
第3章 「尖った人」を生み出すための高等教育
特別対談 松岡亮二×出口治明
第4章 正しい「人間洞察」を前提にした社会人教育
※本書は、2020年5月に小社より刊行された同名の単行本を、加筆修正・再編集したものです。
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Posted by ブクログ
立命館アジア太平洋大学の学長として教育現場に身を置く出口氏が「教えること」の本質に迫る。出口氏によると、子どもへの教育のポイントは2つ。一つはお金の使い方や税金の考え方、社会保障など「生きるための武器」を身に付けさせること、もう一つはどこでもいつでも自分の頭で考え、自分の言葉で言えるように育てること。
もともと博覧強記の達人であり、物事を「数字・ファクト・ロジック」のエビデンスベースで考えるクセをつける、人・本・旅で学びアウトプットを生み出すという持論をお持ちだということ存じ上げていた。
本書では、それらも読み取れるが、一番インパクトがあったのが第3章の「尖った人」を生み出すための高等教育。
日本経済の低迷を脱するには、製造工場モデルからサービス産業モデルの新産業を生み出すことが必要。そのためには①ゼネラリストよりスペシャリストを育成する②「女性」、「ダイバーシティ」、「高学歴」がキーワード③考える力を養うには仲間(ピア)同士が力を発揮しあって学ぶ「ピア・ラーニング」が有効といった示唆が印象的だった。
しかし、それ以上に考えさせられたのが、同章にあった教育学博士の松岡亮二氏との対談。松岡氏は日本が〝生まれ〟によって最終学歴が異なる「教育格差」社会であることを憂慮する。教師は社会経済的に比較的恵まれた家庭出身者が多く、恵まれていない家庭に育った子どもの背景を理解しにくい。勉強や学ぶことの大切さを伝えても異なる環境に生まれ育った子どもたちにはなかなか響かない。
できる子はAIに任せて、先生はできない子どもに力を注ぐという考え方もあるが、日本の教育では差別感の温床になるという形式的平等主義がまかり通り、それができない。
だが、「生まれ」によるスタートラインの格差は「同じ処遇」では解消できない。また、社会経済的に恵まれない家庭では親は単に「これをしなさい」と指示するだけで、子どもが何を考えているのか言語化して説明することを求めない傾向にある。恵まれた家庭環境の子は大人相手に言語訓練を積み重ね、自分の考えを口に出すことができる。
社会経済的に恵まれない子どもにどう支援するか、どのようにして小さな成功体験を積み重ねて学習することの楽しさを実感させるか難しい問題であると認識した。
この他、第2章に示されている①最初に結論②次にエビデンス③相手のレベルに合わせるという伝え方も参考になった。