あらすじ
色に魅せられた染織家・多岐川飛鳥、野生動物のいのちを撮るカメラマン・藤代一馬。ふたりが出会ったのは、ベルリンの壁崩壊の夜。運命的な恋の予感はそのまま、アフリカでの再会へと結びつく。サバンナの大地で燃え上がる愛、官能の炎。しかし、飛鳥の友人で藤代の写真集に携わっている出版者勤務の祥子も一馬に恋をしていて……。想い合っていてもどうにもならないこともある――運命の出会いから慟哭のラストまで胸を揺さぶるストーリー。恋愛小説の名手、村山由佳の初期作品が待望の電子化!
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Posted by ブクログ
なにもかもがツボ。
写真、染織、アフリカの動物、風景、日本での日常、それらに関する描写がきれいで、情景が目に浮かぶ。匂いが想像できる。
ラストも、ありがちなハッピーエンドじゃなくてすきです。
納得いかない、折り合いをつけるしかない、事実と現実と感情がリアルで素敵!
Posted by ブクログ
染織家・飛鳥とカメラマン一馬はベルリンの壁崩壊の前夜に出会い、お互いがお互いの存在を忘れられないまま、二人はアフリカで再会、激しい恋に落ちる。
ところが、飛鳥の同級生であり、感情的にも微妙な関係にある編集者の祥子と藤代の関係が明らかになり、さらに藤代の「子孫を残したい、飛鳥に自分の子供を産んで欲しい」という願望と飛鳥がそれに答えられないことにより、この恋は終幕へと近づいていく・・・という話。
恋愛に関してのストーリーは失礼だがまぁ、ありがちな話。出会った瞬間に「これは運命なんだ、運命の出会いなんだ」と思う恋愛はどこか嘘っぽいと思ってしまったりするので、そのあたりに関しては心ときめかせて読むほどではなく・・・。年と環境のせいかしら^^;
(大体、運命の恋って、出会って、育んで、自分も相手も得るものがあって、成長して初めてそう思えるもんじゃないのか?と思うのだが)
それでもなぜかつい、引き込まれて読んでしまうのですが・・・。
小説の魅力はストーリーもだけど、感情描写、風景描写などがどれだけ魅力があるかが問われるものだとあらためて思います。
というわけで、この小説の読みどころは、恋愛の行方よりも色彩感覚豊かな文章にあると思います。飛鳥がつくり出す織物と織物を作るために染めあげる糸による色彩のハーモニーが特に美しい。文章を読みすすめると、色がまぶたの裏に浮かんできます。
色にはいろんな美しい名前がついています。
自然の樹木や果実からとった名前もあれば、聞いただけでは何色かわからんような名前もありますけど(笑)
「色の名前」とか「色の手帖」を片手に読んでみると、視覚的にも楽しめる作品になるのでは。
また、サバンナの風景も、この作品のタイトル通り「野生の風」を感じさせる描写です。それらを堪能するのもこの作品の楽しみ方かもしれません。
Posted by ブクログ
学生の頃に買った大好きな本。久しぶりに再読。
ストーリーをほとんど覚えていたので新鮮味がなかったし、斜め読みだったけど、飛鳥と一馬がうまくまとまらなかったことがただただ悲しい。運命ってどうしてこんなに残酷なんだろう。
Posted by ブクログ
最後に自分が幸せだと思えたのは飛鳥と祥子、どちらだろう。
ふとそんなことを思いました。祥子は一馬の子(かもしれない子)を産むことで一馬を手に入れることができたけれど、一馬の飛鳥に対するほどの深い愛情を得ることはないだろう。
一方飛鳥はこの上ない愛情を受けて、また自分も心から愛せた運命の相手とも言える人に出会えたけれど、それほど愛し合っていながら祥子の元に行く一馬を止められなかった。これが運命なら、なんて皮肉な運命なのだろう。
私の目には祥子がとても強く映りました。子供を産んでからの彼女は特に。あれが母親の強さなんでしょうか。そんな祥子を見るたびに、飛鳥が傷つくのを見ているのはとても辛かったです。飛鳥が愛する人の子供を産めない自分の体をどれほど呪ったかと思うと胸が痛い。
また一馬の写真で欠けているほんのひとかけらのものとは何だろう、と考えてみました。私は一馬が "一馬" として撮った写真だと思うんです。
というのは、彼は一瞬のシャッターチャンスを逃さないためにインパラなりライオンなりになったつもりで写真を撮っています。そうすることでうまく「いのち」を写真におさめられるのだから、技術的には最高の撮り方かもしれない。けれどシャッターを押す瞬間に対象物と一体になる一馬の写真には対象物への愛情は写りません。
つまり彼の写真欠けているのは一馬の対象物への愛情のようなものではないでしょうか。最後の一色となったあの写真は、シャッターを押す瞬間も対象への愛情で溢れていたからこそ最後の一色になりえたように思います。