あらすじ
何ものにも縛られない自由な娘・遊と将軍家斉の息子・斉道の運命の恋――。
江戸から西へ、三日ほど歩いたところにある瀬田村。そこの庄屋の愛娘・遊は、乳飲み子の頃にさらわれた。15年の時を経て、遊は狼女となって帰還する。一方、家斉の息子・斉道は、身体も弱く、癇癪持ちということもあり、気難しい性格をしていた。ある日、転地療養ということで瀬田村が選ばれ、斉道一行が訪れる。庄屋を訪ねていた斉道が出会ったのは、自由に生きる遊だった。やがて、二人は惹かれ合っていくが――。数奇な運命を辿った遊の凛とした生涯を描く、時代劇版ロミオとジュリエット。
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Posted by ブクログ
すごく面白くて読み応えがあって、切なくて悲しい物語だった。主人公?の遊のさっぱりした素直な物言いが素敵で、話し方が好き。嘘も言わない、自分の気持ちをはっきりと相手に伝えるし、案外相手のことも気遣う優しさがあるし。自分の道を行くのもかっこいいと思う。遊が実母と梅を付けている時に、実母に対して思ってる好意を言うシーンが何度読んでも泣ける。良い子なのに、別に連れ去られて山育ちで狼女みたいな姿、言動なのは遊のせいじゃないのに。育ての親が遊を思っていたというのが出てくるシーンも泣ける。殿とのシーンも切なくて泣ける。2人一緒に暮らせたら幸せだったろうに。でも、不幸せでもないんだろうけど。遊がどう過ごして死んでいくのか気になる。どうか笑って死んでいますように。本当に久しぶり読んだ心に残る本。語りたくなる本。
Posted by ブクログ
随分前に映画化されていたのは知っていたが、未視聴。
2人の恋の話が主かと思いきや、後半まで2人は出会わなく、ほぼそれぞれの生い立ちや生活を描いていた。2人の恋の時間はほんのひと時。それでもずっと心は添い遂げたんだと、そういう人と出会えたのは凄いと思う。
Posted by ブクログ
合縁奇縁という言葉あるが、気心が合わない環境にいるなかで気持ちの合う人と結ばれるのは微笑ましい。そしてそれが淡く哀しいラストになるのが好きな自分としては本作はとても良かったです…!
本作のメインは山育ちの平民である遊と将軍の御子である斉道のラブストーリー。
遊も斉道も尋常の男女ではないが、それ以上にどちらも環境に対して不服を抱いてる点でも共通している。
遊は赤子の頃に誘拐され、自由奔放な山暮らしをしていた。そこから実の親のいる人里に戻り、山暮らしとは違う環境で周囲から浮き、社会の習わしや周りからの奇異の視線に窮屈さを感じている。
その一方、将軍十七男で将軍の実子であることを証明しようとするプレッシャーを抱いている。また、幼いうちに母親から離されたことや将軍の御子であるために無償の愛を得られず、現状に不満を抱いている。
本来の自分を受け入れられない環境に不満を感じていた二人。そんな二人が出会い、素の自分が受け入れられる関係に居心地の良さを感じ惹かれ合う。
そして2人が運命に翻弄されていく終盤は心をキュッとされる思いになる。
さらに遊の人情描写がより哀しさを引き立てる。
タイトルの雷桜は遊が誘拐されたときに雷で折れた銀杏の木から芽を出した桜のことです。
その雷桜はしばしば遊そのものとして語られる。
遊は身分を気にしない態度やあけすけな態度をする。その中に敵意や挑発的なものは無く、ちょうど自然の前ではどんな人間も只の人間となるようなものに近い。
読んでいると宇佐江さんの文章力もあって、木に向かい合うようなイメージを遊から受ける。
そんな遊の人物評をするシーンがあり、身分や地位の高さによる窮屈さを感じる榎戸や鹿内のような武士ほどそれを心地よく感じているのが見受けられる。
自分もそんな雷桜の化身である遊を読んでいると、読者という存在であることを忘れ心地よさに浸っていた。
つまり、気付くと遊に惚れてしまっている。そんな遊の幸せを願えば願うほど切なさが募る。
清々しさがありながらどこか物哀しい秋の青空のような作品でした!
お気に入りフレーズ
「殿は遊に癒されたのだ。見よ、瀬田。殿の幸せそうなお顔を」