あらすじ
お骨でできた仏像、人とのつながりの希薄さが生む孤独死の問題、ハイテクを組み合わせた最新葬祭業界の実情……。作家、ときどき写真家がカメラを抱えて迷い込んだ“エンディングノート”をめぐる17の旅。「死とその周辺」がテーマの取材は、かつて経験した九死に一生の出来事、異国で出合った変わった葬送、鬼籍に入った友人たちの思い出などと重なり、やがて真剣に「自分の仕舞い方」と向き合うことになる。そしてシーナが見出した新たな命の風景とは? 巻末に朋友、北上次郎の死についての想いを書いた「さらば友よ~文庫版のためのあとがき」を収録。
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Posted by ブクログ
脳梗塞をきっかけに、40代にして死を意識し始めました。
もちろん、死に対する意識は長らく持っていました。小学生で飼っていた猫が死んだとき、大学生で友人を亡くしたとき、30前後に立て続けに3回ほど入院をしたとき。
そしてこの度、脳の血管のバイパス手術ということでまあ死んでも何らおかしくない、と勝手に考え、当地でWillを書いたり、銀行口座・保険等を減らす、また一覧にしてPCのデスクトップに置き、妻や息子に何かあったらこれをあけろと指示したり。つまり、マジで死ぬことを意識したということです。
無駄なものを減らし、無駄なことに時間も使いたくない、大切な人と時間を過ごしたい、と思うようになりました。
結局バイパス手術はあれ?というくらいスンナリ終わり、当地に戻ってきて、あっという間に周囲にも心配されなくなり、嬉しいのか嬉しくないのか良く分かりませんが、とりあえずBAU(Business As Usual)になりました。
そんな時に、会社を辞めてしまった姉さん的な人に快気祝いランチをしていただいたときに借りたのが本作。
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椎名誠さんというとエッセイストと旅人の良いとこどりみたいな飄々としたおじさん、という印象でした。
で、彼ももう80ですよ。そりゃあ死について考えますわな。
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本作、椎名氏による死にまつわるエッセイ集であります。
これがまたとても幅広い内容。
墓にまつわる話、より詳細に言えば墓に骨ツボを保存するのってどうなの?という疑問。また骨を砕いて仏様の像を作っている寺院の話。古来の亡骸の処分方法と地名、キリスト教の埋葬やムスリムの埋葬、自然葬、海外の葬送方法(鳥葬とか)などなど。
年齢からすれば私なぞよりもぐっと死に近いわけで、ある意味真摯な言葉で死の周辺を捉えています。でも飄々とした表現は拭うべくもなく、椎名節とでも言うような何とも言えないリズムの筆致であります。
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その中で河合雅司氏の「未来の年表」に言及されている部分が幾つかあり、やはりかの本のインパクトは大きかったかと実感。
火葬場が増えない、火葬待ち〇日みたいな未来がくる、という将来です。それを見越して遺体安置サービスみたいな業ができるのだろうとか。
また地方から檀家制度が崩壊し、墓が維持できないという将来が見える中、もう墓とか持つのも、そして盛大に葬式をやるのもやめたいという椎名氏の気持ち。まあそうですよね。
私も自然葬みたいにサクっと海に散骨をしてほしいなあとか思います。
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ちょっと足らないなあと思ったのは、財産処分については殆ど触れていないこと(北海道の別荘を処分した話はありましたが)。
おそらく子さん方も立派に出世されているのだとは思います。でも、椎名氏も都心に不動産をもっていることを想定しますと、加えて動産なども相応あることを想定しますと(著作権なんぞも相続税の対象になるのかな?)、それらを相続するのにとてつもない税金がかかることが想定されます。
きっとイニシャルで数百万から、下手すると数千万の税金がかかります。
加えて晩婚化が進む昨今、場合によっては相続を受ける当の子供たちは、相続税の支払い時がまさに孫(子の子)の教育資金で首が回らない時期、という可能性もあります。
旅・自然・自由みたいなイメージと全くかけ離れますが、お金や財産のことにまで踏み込んで共有いただけたらもう一段椎名氏的にエポックメイキングな作品になったかも、とふと思いました。
自分の親の痴呆症が進むにつれ、財産の処分(それがたとえ少なくても)については本人が家族の前でコンセンサスを取るのが一番良いなあというのが今の私の感情であります。
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ということで椎名氏の死にまつわるエッセイでした。
お葬式、お墓、死について考えるきっかけとなるような一冊でありました。重たくない作品なので気になる方はまずは手に取って読んでみると良いかとは思います。