あらすじ
考古学会の新進として注目されていたZ大助教授・江村宗三は、松山の老舗商店に嫁いだ元兄嫁の美奈子と度々逢瀬を重ねていた。しかし、2 人で計画した瀬戸内海旅行の中で、美奈子は宗三に妊娠を告げる。「もう松山には戻れないわ。あなたなしには生きてゆかれなくなったわ」……子を産む決意だというが、それは宗三の学界からの追放を意味した。宗三は美奈子の殺害を計画するが――。男女の愛憎心理を鋭くえぐる松本清張の傑作長編推理。ほか一遍収録。
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Posted by ブクログ
松本清張『内海の輪 新装版』角川文庫。
50年前の1973年に刊行された作品。表題作の『内海の輪』と『死んだ馬』の2編を収録。2編とも、男女の爛れた不倫関係が凶悪犯罪を生み出し、完全犯罪が僅かな綻びから破綻していくプロセスが描かれる。
『内海の輪』。
さすがに時代を感じる描写が多い。スマホも無いこの時代、秘密裏に不倫関係を続けるというのは相当の苦労があったことだろう。しかし、50年前も今も男女の不倫が生み出す凶悪犯罪という構図は変わらない。
読み所は、犯人の江村宗三の完全犯罪が破綻する最終盤のプロセスである。まさか、そんなことからということが現実でも起こり得るのだろう。
14年前。当時、大学院生だった江村宗三の兄の寿夫は美奈子という女性と結婚するが、兄はキャバレーで働く女性との関係が止められず、実家を出て、その女性と新潟に暮らす。
宗三は両親から頼まれ、美奈子と兄の元に女性と別れるように説得に行くが、説得には応じず、美奈子と離婚することになる。その帰途、宗三は美奈子と同じ宿に泊まり、求められるままに美奈子と肉体関係を結ぶ。
その後、美奈子は実家に戻り、その後、20歳上の松山の老舗商店の主人と再婚し、商店を切り盛りしていた。
14年後、考古学の助教授である宗三は銀座で、偶然、美奈子と再会し、再び肉体関係を結び、ただならぬ関係になり、度々の逢瀬を重ねる。
しかし、2人で計画した瀬戸内旅行の最中、宗三は美奈子から妊娠したことを告げられる。このことが大学で発覚したら教授への道が絶たれると危惧した宗三は美奈子を蓬来峡に連れ出して殺害し、その死体を山中に遺棄する。
2年後、何時、警察が尋ねて来るかと怯えながらも教授に昇格した宗三だったが……
★★★★
『死んだ馬』。
『内海の輪』と同様に男女の不倫関係が凶悪犯罪を生み出し、僅かな綻びを切っ掛けに完全犯罪が破綻していくプロセスが描かれる。
和風建築の第一人者、63歳の池野典也は、30歳下のバーのマダムの石上三沙子と再婚する。2年後、池野の衰えは明らかになり、三沙子は池野の建築会社を我が物にしようと従業員で最もセンスのある秋岡辰夫を誘惑する。三沙子は逢瀬を重ねる中で、秋岡に池野の殺害を仄めかしたのだ。
そんな時、池野の自宅に強盗が入り、三沙子は無事だったが、池野は強盗に殺害される。警察は捜査本部を立ち上げ、大がかりな捜査をするが、犯人の手掛かりが無く、事件は迷宮入りする。
しかし……
★★★★
本体価格720円
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