あらすじ
謎の男・ロンホワンと、訳あり美女の水鳥川亜沙美が営む〈殺し屋商会〉には、怒りと哀しみを抱えた依頼人がやってくる。高級官僚の起こした暴走事故により家族を亡くした遺族、歌手の娘が恋人から激しいDVを受けて自殺してしまった俳優の父親、外道プロダクションに搾取され続けるセクシー女優など、法で裁かれなかった悪党への復讐をロンホワンは代行する。傑作ハードボイルドの連作小説が文庫オリジナルで登場!
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第一部の「復讐代行相談所」の物語は、小気味いい。著者の実際起こった事件に基づいて、それを飛躍させる編集力はなんとも言えない。
老人に言い寄る美人がいた。「殺し屋商会 復讐代行相談所 水鳥川亜沙美」と名刺を差し出す。老人は、娘の結衣と四歳になったばかりの孫を無謀な運転によって轢き殺されたのだ。その高齢の運転手トクダヨシマサは車が悪いのだと無罪を主張する。「人生なんて、そんなもんだ」とつぶやいていた老人に光がともる。水鳥川亜沙美は、依頼を受けて、愛人であり殺し屋のロンホワンに仕事を受けたことをつたえる。
ロンホワンは、その88歳の高級国民をなぜ殺すか?を考える。「謝らないのは良くない」「神に罪を認めないこともよくない」ロンホワンは「レクス タリオニス」(目には目を、歯には歯を)という。
「人が誰かを傷つけた場合には、その罰は同程度のものでなければならない」
神はすべての罪を大罪と小罪に二分する。ヨハネの手紙にある「死に至る罪」と「死に至らぬ罪」である。大罪は、「重大なことがらについて、はっきり意識し、意図的に行われた」の3つの条件が揃うことであり、重大なことがらとは、「殺してはならない、姦淫してはならない、偽証してはならない、父母を敬和なくてはならないなど十戒」に示される教義。さらにカトリックの教理での七つの大罪、傲慢、強欲、嫉妬、憤怒、淫蕩、貧食、怠惰にある。
ロンホワンは、正体不明の男であるが宗教はある。トクダヨシマサは、傲慢であり、頑なに無知を装って嘘をつきとおしている。それは、大罪であり、死に至る罪だと断定し、殺すことを決める。
ロンホワンの使う武器は、M36リボルバー。38口径5連発、銃身長2インチ、重量550gの小さなダブルアクションリボルバー、なるべく証拠を残したくないからM36 を選んでいる。ロンホワンは巧みにトクダヨシマサを銃殺する。第1話だ。そして、第2話は、高層ビルから落ちた女優の両親からの依頼。
「言葉による暴力は、時には物理的な暴力以上に人を傷つける。」それも大罪である。
ロンホワンの父親は、ロシア人で殺し屋だった。銃は父親から受け継いだ。母親は日本人である。
ロンホワンは、ロシアのCBP(ロシア対外情報庁)のエージェントで、ウクライナにいたこともある。ロシアがクリミアに侵攻した2014年頃。
AV女優が逃げ出して、匿われたところに、亜沙美が呼ばれ、AV女優を無理やり犯した男たちをロンホワンは、殺す。最初は、高級国民を成敗したが、その後は依頼された案件に対処して、人を殺していくロンホワン。中国語では、狼貛と呼ばれる。そして、中華街のドンに立ち向かう。香港の新義安のボス、謝炎基と対決する。中華街の勢力争いに巻き込まれる。そして、ロンホワンは。続編がありそうな気配で終わる。
人を殺すには、やはり理由がいる。悪人であるほど殺す標的になる。悪を描くとは筆力がいる。簡単に正義の殺し屋は作れないものだと思った。
Posted by ブクログ
柴田哲孝『殺し屋商会』双葉文庫。
最愛の家族を失ったり、騙されたりして、悲しみにうちひしがれる被害者に成り代わり、法で裁かれなかった悪党に鉄槌を下す殺し屋商会の活躍を描いた連作短編集。
味はあるが、物語としては曖昧な決着で、消化不良というのが正直な感想だ。
『殺し屋商会 復讐代行相談所』の水鳥川亜沙美と殺し屋のロンホワンのコンビが主人公で、極めて淡々と復讐の殺しを実行する様子が描かれるが、少しずつ水鳥川亜沙美とロンホワンの過去が明らかになる。
『第一話 復讐代行相談所』。上級国民なる言葉が話題となった元役人の老人による悲惨な交通事故がモデルだろう。一人娘と孫を交通事故で失い、一年後には妻までも心労の余り自殺し、たった一人この世に取り残された田中信浩。運転していたのは元通産省の徳田敬正で、逮捕されることもなく、裁判では車の不具合を理由に無実を主張していた。ある日、田中が行き付けの居酒屋で飲んでいると『殺し屋商会 復讐代行相談所』の水鳥川亜沙美という女性が声を掛けて来た。
『第二話 歌姫の死に赤い薔薇の花束を』。こちらも、あのタレントの自殺をモデルにしているなとすぐに解る。ベテラン俳優の築地幸太郎と妻で歌手の山口美音子
の娘で、歌手やミュージカル俳優として活躍していた築地真衣子が自殺を図る。真衣子は森村達也という売れない芸能人に弄ばれ、棄てられたのだ。水鳥川亜沙美は殺し屋のロンホワンと共に森村達也に鉄槌を下す。
『第三話 鬼母の胸に銀のナイフを』。これもよく耳にする話がモデル。いつの頃からか子供への虐待事件が世間を賑わすようになった。親子の絆はこれ程弱くなったのだろうか。子供の虐待死で罪を問われた森本綾香と愛人の田中亮介。亮介が懲役7年を求刑されたのに対し、綾香は反省する気持ちもないのに執行猶予付きの判決を受ける。そんな中、亜沙美のもとにサンソンと名乗る人物から綾香を殺害して欲しいと依頼のメールが入る。果たして、サンソンの正体は綾香と別れた夫の江藤真樹なのか。
『第四話 性の堕天使に血の復讐を』。先頃AV新法なる法律が国会を通過した。AV女優の工藤美咲が裏AVの撮影現場から逃走し、BAR牛鬼という怪しげな飲み屋に逃げ込む。裏社会の顔役というBAR牛鬼のマスターは亜沙美に連絡を取り、裏AV関係者である半グレたちの抹殺を依頼する。ところが……
『第五話 狐は川を流れて何処に行くのか』。この話だけは書き下ろしのようだ。これまでの四話を締めくくる意図で書かれたと思うのだが、曖昧な結末でお茶を濁したような形で決着する。水鳥川亜沙美とロンホワンの二人のキャラクターを失うことへの躊躇いか。大量の麻薬と共に発見された中国人貿易商、張偉の死体。范偉志大人から依頼されたロンホワンの仕事だった。さらに彼は大人から中国黒社会の大物であるヤング・シャーの殺害を依頼される。
本体価格650円
★★★★
Posted by ブクログ
あの事件かと連想させる事件、ありそうな事件をネタに、殺し屋による復讐劇を描き、読者の溜飲を下げさせている。退屈はしないが、品が良いとは言えない。
Posted by ブクログ
ここで、クズリの名が出てきたか。
上級国民である元官僚による交通事故。
一時、テレビでも取り沙汰された件だ。
当時、この時間を見ていて本当に腐っていると思ったものだ。
胸のすく内容でした。
AV新法。
これについても、かなりのデモが大々的に行われた。
多様性と権利が大義名分となり、国が暴走した結果。
この章については、したたかな女に天晴れとすら言いたくなる。
次作に続く終わり方だけに期待大。