あらすじ
第四柱の魔人「万鏡の七椿」により、一〇七年前の帝都へ飛ばされたヒイロ。三条緋路という少年に憑依したヒイロが出会ったのは、現代のマージライン家で見た肖像写真の女性、ロザリー・フォン・マージラインだった。
不治の病に侵された彼女の願いは、迫害される半人半魔と人間との融和。そして、命が尽きる前に「恋」をすること――。
療養のためカルイザワに転居したロザリーの求めに応じ、仮初の恋人役を演じるヒイロだったが、平穏な日々は長く続かない。
歴史から消された裏切者、魔導書強奪の大罪人、若き日の師匠、最凶の封印執行者、人命を弄ぶ魔人……それぞれの思惑がぶつかり、カルイザワ決戦の火蓋が切られる!【電子限定!書き下ろし特典つき】
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Posted by ブクログ
第4巻にてフェアレディの異界に囚われた時もクリスとほぼ二人きりでクリスだけがヒロインみたいな構図が展開されたけど、あの時だって一巻丸々がそうした構図というわけではなかった
でも、こちらは冒頭から大正時代に突入している為にロザリーがメインヒロイン且つ唯一のヒロインである構図が徹底されているね
ただし、終わり方が悲恋で在る点がこれまで登場したヒロイン達と一線を画す要素ともなっているんだけど
これまでも魔神退治は容易ならざる難行だったが燈色は無理を通すようにして魔神を踏み潰してきた
けれど今回は色々と事情が異なるね。まず肉体が燈色のものではないし、アルスハリヤの援護も望めない。戦闘面で頼りになる仲間もいないし、手に馴染んだ武器もない
まあ、その程度の壁があるからと止まらないのが燈色なんだけどね
というか、今回の話で第一の驚きとなったのは彼の戦う理由か。これまでは基本的に百合の雰囲気がある女の子を守る為に燈色は戦ってきた。むしろそれ以外の理由で戦う事など珍しいと言うほど。だというのに今回は話した事もなく既に死んでしまっている男の為に命を懸けるとは思わなんだ
書き下ろし短編にて燈色と緋路が親友のように意気投合していく描写があるけれど、この百合世界にて燈色が仲良くなった男性って本当に彼一人じゃないっけ。そう考えると、本編では会話も出来ず擦れ違った関係だけど、そんなの関係ないと言える程に燈色は緋路に共感できたし、彼の味方をしたいと思えたのだろうなと感じられたよ
そんな緋路が守りたかったロザリーは矢鱈自己主張が強い点が子孫のオフィーリアを思い起こさせるけど、それ以外の様々が異なるね
まず魔力欠乏症により死にかけているという点が異なるなら、その短い命を燃やして他者の為に難事を成そうとしている点はより大きく異なる。「命のために命を懸けましょう」という彼女の信念を表した台詞は、無力な彼女が命という掛け替えのないものを燃やして命を輝かせ多くの命を救おうとしているのだと判る
そのような在り方はきっと燈色が緋路の事を知らなかったとしても、魅せられていただろうと容易に想像できるもの
それだけに彼女が「恋」を望んだ事は意表を突かれるような想いがしたな
宥和派としての活動は他者のため。他方で恋は己のため。特にいずれ死んでしまう自分を好きにならないけど親切にしてくれる相手として燈色を選んだ点に彼女なりのこの人になら無理を言っても良いという少しの我が儘が見える
きっとロザリーとしては燈色を通して表面的な恋の一部でも知れれば御の字だった筈。でも、ここでロザリーに恋愛的な意味でなく本気になった上で「俺のために生きろ」とか「俺だけを見てろ」と言えてしまう燈色はロザリーに対して中途半端なんて許さないんだよなぁ
だからロザリーも知る為という浅い動機によるものではなく、本能的な恋へと本気に成っていけたのだろうね
やっぱり燈色はどんな状況でもどんな時代でも女性を虜にしてしまうんだなぁ(笑)
そのような情景と成っていったからこそ、疑似結婚式の中で燈色が本気よりも本気な誓いを心の中で立てていた点には目を見張るものがある
燈色は百合の守護者で百合が咲き誇りそうな相手に対して好きになる己を許さない。ロザリーにそうした相手は居ないけれど、過去の人物である以上は添い遂げるなんて出来やしない。そうした覆しようのない運命の下にいても、『ヒイロ』の名で真正の愛を誓うなんてね
燈色って時折背負うには重たすぎる枷を自ら背負ってしまうけれど、今回のは特大だった気がするよ……
ロザリーへの恋愛指導は終わりを迎えた。ならば後は彼女の命を永らえさせる為に世に蔓延る魔神を討ち倒すだけ
その過程の激闘は本当に凄まじいものだったね。そもそもあの時代において超常的な戦闘を行える者が少ないのに魔神は超常的な力を使用する。彼我の戦力は覆せない。けれど、その程度の理由で戦いはやめられないのだという点は燈色が戦場での檄文において充分に示してみせたね
誰も彼も守りたいものが有る。その為であれば己の命を懸けられる。ロザリーが示した生き様が戦場の全てへと乗り移ったかのようだったよ…
多くの犠牲が出た。それでも守れたものは有った。特にルミナティが生存した事は大きいね
それだけに緋路としても燈色としても生き残れなかった点は哀しいね…。ロザリーを好いた緋路も、ロザリーが好いた燈色も命を燃やし尽くしてしまった
けれど、それでも緋路がロザリーの傍へと帰り着き、ロザリーが彼を受け止められたのはせめてもの幸福だったのではないかと、そう願わずにいられないラストでしたよ……
物語としては悲恋ながらも綺麗に終わった。それだけに気になってしまうのはこの過去での遣り取りがどう現代へと繋がっていくのかという点か
歴史の大筋は変わらなかったようだから七椿討伐は問題なく遂行できそうな気がするのは安心要素か。
他方で緋路という存在が登場した事により、オフィーリアが婚約者の名前を「ヒロ」と呼んだ点に意味深なものを感じてしまう
また、過去世界での遣り取りとはいえ、ロザリーに愛を誓った燈色が今後ヒロイン達とどう接していくのかも少し気になる
あと、こんな事を気にするのは無粋だとは判っているんだけど、流石にロザリーが何かしらの形で現代にやってきて燈色に対して改めて愛を誓うとかそういう展開は無いという認識で良いんだよね…?流石に天寿を全うした人物が未来にやって来るなんて有り得ないよね…
常識では有り得ないと判っているんだけど、あらゆるハッピーエンドを目指そうとするかのような本作って時折とんでもない予想外を放ってくるからなぁ……