あらすじ
余命1年の宣告を受けた高校2年の月島誠は、想いを寄せる美波翼に気持ちを伝えられない日々を送っていた。でも、それでいい。そう思っていたある日、誠は翼から映画制作部に誘われ、事態は思わぬ方向に転がり始める。
活動を重ね互いに惹かれ合う二人だったが、残酷にも命の刻限は確実に迫っていた。そこで誠は、余命のことを知らない翼が悲しまないよう、ある作戦を実行するが――。
映画を通じて心を通わせる少年少女たちを描いた、感涙必至の青春ラブストーリー。
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Posted by ブクログ
物語の幕開けは、月島誠が映画制作部に誘われる場面から始まります。部活動を通じて、誠と美波翼、そして仲間たちが少しずつ心を通わせていく様子が、静かで温かな筆致で描かれています。青春のきらめきと、何気ない日常の中にある小さな幸せが、読者の心を優しく包み込んでくれました。
中盤では、登場人物たちがそれぞれの想いを胸に、少しずつ変化していく姿が印象的です。誠の病気という重い現実が物語に影を落とし始める中で、彼の選択や仲間たちの支えが、成長と葛藤を浮き彫りにします。特に、速水葵の視点から描かれるエピソードは、友情と恋愛の狭間で揺れる心情が痛いほど伝わってきて、胸が締めつけられました。
終盤、誠の病気が明らかになるも、彼の願いを尊重して周囲はその事実を翼に伝えません。誰かを守るための“嘘”が、時に真実以上の優しさを持つことを教えてくれます。読後、タイトルの意味が心に深く染みわたり、「嘘の世界」が決して冷たいものではなく、温もりに満ちた“優しい嘘”であったことに気づかされました。
本作の魅力のひとつは、登場人物それぞれの視点で物語が語られる構成にあります。誠、葵、翼といったキャラクターの内面に深く入り込むことで、読者はまるで彼らの心を追体験しているかのような感覚を味わえます。特に、男性と女性それぞれの視点から描かれる恋愛や友情の機微は、読者に多面的な感情の揺れを伝え、物語への没入感を高めてくれました。