あらすじ
(章立て)
文庫版によせて
望月新一教授からの寄稿
第1章 IUTショック
第2章 数学者の仕事
第3章 宇宙際幾何学者
第4章 たし算とかけ算
第5章 パズルのピース
第6章 対称性通信
第7章 「行為」の計算
第8章 伝達・復元・ひずみ
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Posted by ブクログ
ABC予想の証明などに関連する、宇宙際タイヒミュラー(=IUT)理論の一般向け解説書。「国際」という言葉が複数の国の間という意味なのと同じように、「宇宙際」とは、複数の宇宙(!)にまたがる理論という意味。書名の宇宙と宇宙をつなぐ、とはここから来ている。
ここでいう宇宙というのはある種の比喩だと理解しているが、それにしても、まるでSFのようだ。そう思うのは私のような素人だけではないらしく、一流の数学者たちからも、そのような理由からIUT理論は忌避したり批判したりされてきたらしい。数学はこれまでも虚数や4次元以上の空間など直観に反する概念を考えてきたのだから、宇宙が2つあると言ってもそんなに突飛じゃないような気がするが、どうやらそうでもないらしい。
そういうわけで、本書の序盤は、IUT理論のある種の擁護から始まる。理論が作られた経緯や発表された後の顛末、また提唱者である望月教授の人となりなど。
中盤以降で、ABC予想の紹介や、対称性や群の考え方の導入などを行い、準備を整える。そして、最終章(8章)でIUT理論の紹介を行う。
…とはいえ、(本書の中でも再三言われていることだが、)プロの数学者ですら理解を諦める人も多いような理論だから、この最終章を読んだだけでは全く理解できた気がしない。著者もその点は織り込み済みというか、どんなことをしている理論なのか、その”さわり”を紹介できれば良いと考えているようだ。
理論は難解だが、本書を読むうえで難しさはほとんど感じない。分かっている人にむけて厳密な説明への配慮もあるが、基本的には高校数学すら前提としないような、とにかく平易にという内容になっていると思う。「一応紹介しておくけど、この辺りは分からなくても気にせずに次に進んでいいよ」といったことを随所で言ってくれるのはありがたい。なんだか、学者らしからぬ、という気さえする。
所々で、「そもそも数学で研究するとはどういうことか」とか、「研究における応用とは」といった、著者の研究者としての考えが垣間見えて面白い。
特に、「本当に大きなインパクトをもたらす研究は、最先端の部分で起こるのではなく、ごく基本的な部分で起こる」というようなことを言っている記述が興味深かった。IUT理論は、数という根幹の概念をひっくり返すようなものだということで、だからこそ破壊的イノベーションをもたらすのだと。これは、数学だけでなく他の研究分野でも同じかもしれない。
数学者コミュニティの在り方も興味深かった。ふつう、研究者は、研究成果が固まって然るべきところで発表するまでは、その内容を秘密にするものだと思っていた。構想段階で他人に知られたら、そのアイデアを横取りされる可能性があるからだ。数学のように、実験データなどを必要としない、理論だけで勝負する研究なら尚更のように思われる。
ところが、IUT理論は、発表前から身近な人にはその骨子が共有され、著者とはセミナーまで行っていたとのこと。そして周囲は、そのように知り得た情報を悪用することもなく、理論構築に協力していた。これが特別なことなのか、数学の世界で普通なのかは分からないが…。途中で他人に知られても追い付かれるわけがない、という自信からなのだろうか?
数学がいまや日常の多くの場面で使われているという主張というか、アピールもたくさんされている。数学が役に立たない学問などというのは、もはや見当違いも甚だしい。
コンピュータの発展をみると、そりゃそうだろうという気もするし、勉強しないといけないという気もする。あとがきでドワンゴの代表の方が数学者からレクチャーを受けて勉強しているとも書いているし…。なかなか、腰が重いわけではあるのだけど。
IUT理論は、NHKの番組で特集を見た記憶があるが、そこでは望月教授はある種の「偏屈な人」として描かれていたような印象がある。そういった取り上げられ方への反論という意図も本書にはあったのだろう。
著者と望月教授が深い仲ということや、この本が書かれた経緯、あとがきに何故か庵野秀明監督が登場することなど、所々に意外なエピソードもあり、面白かった。…IUT理論を理解できた気は、やっぱりしないけれども。
Posted by ブクログ
・望月教授のこれまでの業績の積み重ねの上にIUT理論がある。
・IUT理論を学ぶには、遠アーベル幾何学、テータ関数を学ぶ必要がある。
わからなかったこと:
・対称性を使った通信とは?そのアイデアはガロワ理論に近い?それは不変量みたいなもの?
・テータリンクとは?
Posted by ブクログ
この証明が認められない論点も知りたかった
望月さんのABC予想の証明を一般向けに書いた本.出だしの部分は望月さんのABC予想証明の経過や,それがいかに革新的であるかが思い入れ満載で綴られている.その次は,ABC予想の問題そのものと,群論とかの簡単な予備的なお話が続き,最後に宇宙際タイヒミューラー理論の片鱗に触れるという構成.
普通は,本書では舞台に例えられている宇宙というものが違うと証明に使えないというのが私の理解だ.互いに相反する公理を含んだ公理系という認識でいる.それが,十分に複雑で群の対称性が一致していれば,宇宙をまたいで対応付けができるというのが宇宙際タイヒミューラ理論というものだと思った.著者は,多くの前提知識を必要とする話を,それらをすっ飛ばして,例え話で工夫して要点を伝えようとされてるので,十分に理解できかどうかはだいぶ不安ではあるのだが…
以上の理解の下で,この理論は,ヒルベルトが数学の証明が正しいということを,公理系から導出できることと定義して以来の,数学のルールの変更の提案なのではないかと思った.普通は変数記号が等しいと同じものと見なすけど,それを分岐して分かれた公理系間で同じ性質のものを同じものと見なすというふうに拡張しているのではないかと.現状のルールではなく,ルール変更の提案なので,受け入れられるかどうかが分かれているように思えた.これがその論点かどうかは分からないのだが,学会で論点になっている部分がきっとあるはずなのだけど,そのあたりについても知りたかった.この点で★を一つ差し引く.
上に書いたような私の理解が正しければ,現状のヒルベルト以降のルールの下では認められるのは難しいという印象をもった.一つは,同一性という一階述語論理の枠組みに対する変更であること.もう一つの基本の集合の公理は カントール→ZF→ZFC と変更があったが論理の部分に手をつけたことはないように思う.二つ目は,同じ対称性だったら同じとみなすとかは,ものの類似性を扱う位相とか距離とかの概念と関連するように思う.私はろくに開集合・閉集合も分かっているとはいえないへっぽこではあるのだが,別枠で考えられているそういう考えを,根本の論理のところで変えるというのも,受け入れるのが難しそうな気がする.
数学は純粋に数や量の学問というだけでなく,科学のリンガフランカとう側面もある.ヒルベルトのルール変更は,物理から生じた微積分を問題なく扱うという要請が背景の一つにあると思っている.科学の言語として使ったときに,何かこの新しいルールの下での数学に利点があるとか,そういう点を探して,根本ルールの異なるメタ宇宙みたいな感じのものとしてプレゼンテーションした方が,興味をもってくれる人が増えそうな気がした.
Posted by ブクログ
●iut理論
NHKで放送された内容が興味深かったため読んで見たくなった。望月先生の監修があるというのもよんてみたくなったポイントである。
数学の本とは思えないくらいスラスラ読める内容で、加藤先生がとても丁寧に説明されており、こういう本がわかりやすい本っていうんだなあと実感。
まずは設定から説明。そして背景、数学界について触れ、前提条件をしっかり説明した上でIUT理論の説明に入る。一つの数学の式の証明が書かれたような一冊。読んでいてワクワクだらけであった。「数学とは論理的で、直感的な学問である」衝撃であったが、とてもふに落ちた。B****
Posted by ブクログ
たしかに難しいんだけど、すごく丁寧に説明してくれています。
本の内容はIUT理論に関する話。
これが現在進行形っていうのがまた面白い。
数学に興味が出たし、著者の他の本も読んでみようと思いました。
あとがきに書いてあった、「庵野監督によるIUT理論のCG化」がとても気になります。
Posted by ブクログ
IUT理論の導入についてわかりやすく説明されていたと思います。理論だけではなく、数学における仕事の位置付けや論文の発表など、数学者の仕事についても触れられているところは興味深く読みました。
IUT理論の概略は理解できましたが、そこから深い世界があるということも同時に感じ取れました。実用されている楕円曲線暗号の話にも触れられていましたが、IUT理論もいつか応用されることや何か身近に来るような時代が来るかもしれず、それが今から楽しみにもなりました。
Posted by ブクログ
IUT(宇宙際タイヒミュラー)理論の確立に至るまでの流れ、その要素となる考え方、対称性通信やIUT理論のキモが紹介されている。
普段数学に触れていない読者にもわかりやすいよう、かなりかみ砕いたり例を多用して説明されておりわかりやすい。
IUT理論の概要やそのすばらしさを中心に触れているため、これによりどのようにABC予想が証明されたのかはあまり触れられていないが、ABC予想の難しさ(たし算とかけ算が密接に絡み合っている点)とその難しさをどう解決するのか、その考え方については触れられている。
Posted by ブクログ
望月新一教授がABC予想の証明に用いたIUT理論(宇宙際タイヒミュラー理論)について、一般向けに解説した本。初めに論文発表の経緯や数学界の一般的な話、次にabc理論についての解説、最後にIUT理論についての解説、という構成で書かれている。数学者でも難しいとされる理論であるがゆえに、数学的に高度な話にはあまり立ち入っていないが、望月教授がいかに斬新な理論を構築したかについては十分に伝わる内容となっている。本書の評価すべき点は、筆者が一般のレベルをよく心得ていることである。一般の人にとって何が聞き慣れない言葉で、どこまで理解が追いつけるか、ということに注意しながら書かれているため、読者が置いてけぼりになることなく最後まで読むことができる。
本書で印象に残ったこと
- 望月教授の論文は、自身が編集長を務めるジャーナルに受理された。これを問題視する意見もあるが、論文の価値をよく理解してくれるジャーナルに投稿するのは当然で、ましてや普及していない新たな理論の場合は現実的な選択として必然的なことである。
- ABC予想が証明されれば、他の様々な予想も証明可能である。1985年にデイヴィット・マッサーとジョセフ・オェステルレによって提案され、注目を集めてきた。
- IUT理論は、現代数学になかった異なる舞台を用意して足し算と掛け算の関係を分離し、舞台間で対称性の群を用いた通信および計算を行い、その通信によって生ずる不定性・ひずみを定量的に評価することで不等式を導く、というものである。