あらすじ
行政書士の斉木にかかってきた不穏な電話。男は娘を誘拐したと告げ、返してほしければ指定の場所に来るよう命じる。現地を訪ねた斉木は、男がビルの屋上から飛び降りようとしているのを目撃した。その場で男が斉木に突きつけた、恐るべき要求とは――? 日常にひそむ人間の闇を描いた、第35回小説推理新人賞作家のデビュー短編集。
※本作品は2017年5月に小社より刊行された『三つの悪夢と階段室の女王』を文庫化に際し改題し、加筆修正をしたものです。
感情タグBEST3
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Posted by ブクログ
表紙が好みなのと、帯の煽りに惹かれて購入。
短編4作、読みやすかったのでざっくり全編感想。
全体としては、ストーリーは面白かったけど個人的には物足りない点が諸々、という感じかな。
あんまり残酷すぎるのは苦手だけどイヤミスが読んでみたい、という方にオススメだと思います。
以下完全ネタバレ。
『マグノリア通り、曇り』
人は、野次馬としての無責任な悪意は抵抗なく人にぶつけるが、責任が伴う状況で悪意を実際の行動に移すとなると、躊躇う。
そんな人間の弱さや狡さを考えさせるお話。
ストーリーは面白かったのだけど、不満なのは、まず犯人の動機。言い分はわかるけど、それでそこまでする?と思ったら家族を先に殺してて、その動機は借金と、口論きっかけ…。
そして、娘まで手にかけたにしてはカラッとしてるのが異常者感あるけど、なぜ犯人がこうなったのか?は特に無くホワイダニット大好き人としては物足りない。でもまあ、そこ掘り下げる目的のお話じゃないもんね。
あとは、オチが!娘の無事を祈って終わり。
実はすぐ近くに隠されてて、主人公が見ると既に娘は死んでいて、主人公はただ殺人犯にされただけだった…とか。
主人公が行動を起こすのが遅れて犯人は情報を渡さないまま死に、娘の居場所は永遠にわからず、野次馬が犯人の死に大盛り上がりする中で主人公だけが絶望…とか。
とにかく、もっともっと絶望感を味わいたかったのでした。
『夜にめざめて』
4作中最もあっさりしたお話に感じた。
犯人はわかりやすいので予想は裏切られず、まあそうだよねという感じ。
自警団への対処はスカッとする。
弟の思いも割と納得できるし、うんうん、そうだよね!と読める。
薄味だったので感想も薄味で笑
『復讐の花は枯れない』
これも、お話の流れ自体は面白かったと思う。
けどやっぱり犯人の動機がなぁ〜…。そもそも、なぜ甥を我が子のように思っていたのだろう?そこもっと深く知りたかった。
あとやっぱり、我が子のように感じていた甥を奪われた哀しみや辛さを味わわせたいはずなのに、対象の家族に決定的な危害は加えないのが違和感あって、気になってしまった。
そこが動機なら、やっぱり家族を殺さないと!もしくは、死ぬより辛い目に遭わせないと!と。
速水に西田の娘を、西田に速水の息子を殺させて、互いはその様子をただ見ているしかできない、とか。
結局、過去悪いことしてた速水と西田が死ぬだけなので、悪いやつがまあ死んだなって感じで。
何の罪もない存在が不条理に殺されてこそだよな〜〜〜と。
『階段室の女王』
この本でこれが1番好きです。
この感想を書きながら、やっぱり私は犯人の動機や心境、行動が詳細に描かれるのが好きなんだなぁと改めて実感した。
主人公は、自分に無いものを持つ者を妬むし恨む。自分に嫌な思いをさせるやつは死ね、と思う。
自分の悪事は決して誰にも見つからないようにと願うし、我が身可愛さに嘘も吐くし隠蔽もする。
その場しのぎの計画性のない犯行や嘘はすぐに破綻するし、どんどん悪い方へと転がり落ちていく。それでも、目を逸らし逃げ続ける。
そんな主人公の身勝手さや醜さにはイライラさせられる(褒め言葉)のだが、同時につい共感してしまいそうになる暗い魅力がある。
弱くて醜い。人間ってこういうところあるよね、と思う。自分にも似たところがきっとある。そんなふうに思うとまた後味が悪くなる。
こういう作品好きです。
4作目が好みだったので★3にしました。
Posted by ブクログ
「方舟」読んで、ミステリー、サスペンスがもっと読みたいと思っていた時に駅前の書店で手に取りました。
帯は、
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最近、おかしなことは
ありませんでしたか?
底知れぬ闇と狂気が日常を崩壊させる。
この恐怖からは、もう逃れられない――
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短編4編が収録されてます。
・マグノリア通り、曇り
知らないうちに加害者になったり、誰かを傷つけたり。
娘を誘拐された斉木。
犯人はとある場所に来るように指示する。
そこは少し前に飛び降り自殺があった場所だった。
地上から見上げる野次馬。心無いヤジ。
犯人の斉木への次の指示は。
娘を無事に取り戻すことができるのか。
・夜にめざめて
近所で発生している通り魔事件。
犯人に疑われる元ニート、フリーターのタカハシ。
警察から、自警団から疑われるタカハシ。
そして本当の犯人は。
・復讐の花は枯れない
因果応報。悪意は巡り巡って帰ってくる。
学生時代のいじめ。自殺。
主犯ではない。
自分のせいではないと思うが、
周囲でおかしなことが起こり始める。。。
・階段室の女王
踊り場で倒れている女。
私はそいつのことが嫌いだった。
だから助けない。見てるだけ。
そう思っていたら、別の足音が。
どれもこれも結末はイヤミスという感じで、
印象的に似ている結末。
何が起こっても変じゃないからこそ、
加害者にも被害者にもなりうる。
「悪意」というタイトルにぴったりでした。