あらすじ
温暖化、新型コロナウイルスの流行、異常気象……世界が危機に瀕する今、私たちは誰も取り残すことなく、この問題を解決するための道筋を探さなくてはならない。資本主義の暴力性や破壊性を正確に認識し、その上で、資本主義とは異なる社会システムを構築すること――。『資本論』を記したカール・マルクスの、主に未刊行のノートから、エコロジーの思想を汲み取り分析する。ドイッチャー記念賞受賞作。
【目次】
第一部 経済学批判とエコロジー
第一章 労働の疎外から自然の疎外へ
第二章 物質代謝論の系譜学
第二部 『資本論』と物質代謝の亀裂
第三章 物質代謝論としての『資本論』
第四章 近代農業批判と抜粋ノート
第三部 晩期マルクスの物質代謝論へ
第五章 エコロジーノートと物質代謝論の新地平
第六章 利潤、弾力性、自然
第七章 マルクスとエンゲルスの知的関係とエコロジー
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Posted by ブクログ
マルクスが略奪的農業に代表される人間社会と自然との物質循環のあり方に疑問を持っていたこと、資本が自然を食い尽くす速度は自然の弾力性(自己回復力)を凌駕するため、生態系の動的平衡を破壊する必然性に気づいていたことなどを、彼が読み込んだ自然科学書の読書メモを手掛かりに解き明かしている。従来の定説を覆した点においてマルクス研究者にとっては画期的な業績なのだろう。知らんけど。
なるほど、資本主義はその内在する自己増殖的な欲望に忠実なればこそ、労働力を含む自然資源を徹底的に食い尽くす動機を持つ。まさに「大洪水よ、わが亡き後に来たれ」、今風に言えば「今だけ、カネだけ、自分だけ」。これはよく理解できる。
とは言え、それに対する解決策をマルクスは示していないし、ましてや共産社会でその課題解決が期待できる要素は何一つない。土地をコモンとして共有管理すれば自然からの略奪はなくなるのか? とてもそうは思えない。「マルクスは何でもお見通し」と言わんばかりの教条主義、あるいは神格化は危険にすら思える。
結局回復力を超える速度で自然を利用しようとするから環境破壊が生じるのであれば、その弾力性の範囲内で生活すべきとの結論が導かれる。このことは資本主義と共産主義のイデオロギー対立とは無縁である。要は江戸時代の人口(3000万人)と生活レベルに戻ることができれば、我が国でも「サステナブル」な社会を実現できるということだ。果たしてこのような世界は実現しうるのだろうか。考えれば考えるほど解の無い問題に思えてくる。
Posted by ブクログ
「人新世の資本論」に感銘を受けたので本書を読んだが残念ながら自分には難解過ぎた。ただ、資本主義が自己崩壊的に自然環境も破壊せざるを得ないという矛盾を抱えているとマルクスは考えていたというのはイメージとして掴めた。本書を読んだ後「人新世の資本論」を再読し更に理解が深まった。