あらすじ
文化への渇望、
そして“バンドをやってる友達”・南峻(ナンジュン)の
後押しを受けて、
初めての海外、日本・東京を訪れた少女・緑(リュ)。
レコードショップで手に入れた、
はっぴいえんど『風街ろまん』と
細野晴臣『HOSONO HOUSE』を握り締めて、
台湾に帰国した緑(リュ)は、
音楽と物語への想いを、
そして心に芽生えた南峻(ナンジュン)への恋心を、
一層募らせていく。
そんななか、敬愛する細野晴臣の台湾・台北での
コンサートツアーが決定して……。
細野晴臣デビュー50周年記念
ドキュメンタリー映画『NO SMOKING』台湾版で、
イラスト&デザインを担当した台湾在住の漫画家が贈る、
初連載作品、完結巻。
大切な音と大切な時間を隣で共有してくれた、
大切なあなたへ。
魔法の夜よ、どうか……。
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Posted by ブクログ
この本を読むにあたり、押さえておくべきポイントがある。作者は女性?それとも男性?
「高妍」という台湾の方の名前を見ただけでは、日本人の私には判別がつかない。まあ女偏がつく字の使用とか、主人公の緑の描き方からうすうす想像はつくが、下巻の末尾にある「あとがき」に答えがあった。作者の性別くらいならばネタバレにならないと思うので、以下に書く。
作者は女性だった。
それに気づいて改めて下巻を読み直してみると、私は本当に鈍感だった。だって、作者が女性だと示唆する材料は数多くあるから。
代表的なものは人物の髪の描き方だ。台湾の街並みやライブハウスの室内とかならば、写真をトレースすればある程度のリアルな画は描けるだろう。しかし人物の髪、特に緑やルナなどの女性の髪を2次元の画面に質感を伴って描きだすには、相当のテクニックが必要だ。私が記憶する限り、池上遼一さんが登場人物の髪の質感にこだわっていた漫画家だと思うが、別の意味で高妍さんの髪の描き方(細い線の使い方や、ホワイトによる髪の表面の光の表現)にも独特のこだわりを感じる。また緑の心の成長にあわせて髪型を少しずつ変化させているのも心憎い。
それと物語も、よく読むと深みというか文学性が感じられるものだ。
下巻はいよいよ緑と南峻とが細野晴臣の台湾コンサートでの時間と空間を共有するエピソードからはじまる。緑にとって細野は高校時代に偶然耳にしたはっぴいえんどの「風をあつめて」を歌っていた人。その歌声は一種のなつかしさを伴って緑に受け入れられている。一方で南峻は東日本大震災復興ライブとしてYMOが何度目かの結成がされたとき、日本に行き細野を見ている。もちろん南峻も細野たちのパフォーマンスをかっこいいと受け入れた。だが同じく音楽を追い求めようとする身から見て彼らがあまりにもすごすぎて、自分の音楽家としての限界を強く意識することになる。つまり細野に対する緑の「あこがれ」と南峻の「あこがれ」は、近づきたいという緑に対して、南峻はその正反対とも捉えられる複雑な感情だ。
これに象徴される2人の様々な“すれちがい”は、ある意味で古いテーマだ。しかし作者の文学好き由来の豊かな言語感覚からなる独特で清新な登場人物の話し言葉に、作者のアーティスティックな絵柄が加わって、表紙だけでなく本の中身も、作り込まれた美しさが新しさとなってあふれている。そう、「海邊的卡夫卡」で食べられるレモンタルトのように。
そしてエンディング。読者がその時に置かれた恋愛、人間関係、音楽の嗜好などによっては複数の異なる解釈が可能な、セリフが書かれていない最後のコマは、まさに今風なのかもしれない。
Posted by ブクログ
本書の「あとがき」に、筆者自身が、本書の来歴を記しているが、本書および筆者が、ほとんど偶然のように、松本隆や細野晴臣や村上春樹と繋がりを持つようになったことが、喜びとともに書かれている。ほとんど奇跡のようなものである。
でも、それよりも、私が心を打たれたのは、筆者の創作に寄せる強い想いであった。本書は上下巻で500ページを超える大作であるが、もともと、32ページの漫画作品に過ぎなかった。筆者は、それをいつの日にか長編の漫画にしたてあげたくて、努力を重ねてきたのである。そのあたりのことを、「あとがき」から引用したい。
【引用1】
私はただ負けず嫌いなだけで、才能のある人間ではない。
この作品がここまで来られたのも、単純に私がたくさんの時間と体力を注いで、ひたすら必死に描き続けたからだ。そして、そんな私のことを最高の編集者と出版社、友人と読者がそばで支えてくれたからだ。
【引用1終わり】
【引用2】
一生をかけて一つのことをやり続ける、なんて素敵なことだろうか。
私はもう絵が描けなくなるまで、ずっと絵を描き続けていたい。こんな風に必死に絵を描き続けていて、こんな自分って、とてもかっこいいのではないかと思うことがある。私は私が尊敬する人たちと同じように、一つのことだけをずっと続けてきて、70歳になってもまだ続けるつもりでいる-それは私にとってすごく眩しくて、かっこいいことなのである。
【引用2終わり】
自分の好きなことのために、全力を注ぐことが「かっこいい」と言う人がいることは、とても勇気・元気をもらえることではないだろうか。筆者は、それによって成功したが、成功するかどうかは別にして、いくつになっても、自分の好きなことに集中していたいと思った。
【追記】20250402
本書の感想を書いてすぐに台湾に家族旅行に出かけた。
台湾には、以前、仕事があったので、しばしば訪れていたので、今回の訪問は10回目を超えていると思う。
外国を訪れると緊張するというか、気を張る部分があるのだけれども、私にとって台湾は、そういう緊張を全く感じない外国だ。特に台北は、日本に光景が似ていたり、治安面で心配を感じなかったり、ということが理由だろう。
今回も、3泊4日の旅行を本当に楽しめた。
Posted by ブクログ
私は彼にすべでを捧げます
なとえ彼が永遠に私を愛することはなくても
寂しくなんかありません
たとえそれが細野晴臣や
あなた
もしくはこの先
私が好きになる誰かであっても
私は
そんな気持ちでずっといたいと思った
Posted by ブクログ
読んでて色が見えたのは初めてだった
自分を見てるみたいで苦しかったけど大好きで愛しい漫画
南峻みたいな人 惹かれずにはいられない
はっぴぃえんど聴く度にタイムトラベルしちゃうな〜〜
Posted by ブクログ
小説を読んでいるみたいだった。
感情の機微がこんなにガシガシ入ってくるなんて、びっくりした。
セリフのない曖昧な表情だけで伝わる感情が、絵のタッチの緻密さも相まって、繊細さMAX!
絵が上手すぎる。
台湾の「文青」、こんな感じなんだろか。空気を感じられたような気がする。
文学とか音楽のオシャレな雰囲気。
緑が履いているサンダルがtevaみたいな形で、最近のものなのだなと分かる。後で調べて若いイラストレーターさんが描いた漫画だと知って、納得した。
驚いたときの表現が、日本のものとは違っていて面白い。
緑の字、彼女っぽい可愛らしい字だった。
Posted by ブクログ
なんかもう、すごく良かった。青春讃歌ではないけれど、若いときのなんにでも感性が動いてちょっとしたことに感動できる瞬間っていうのはやっぱりあったなって思う ステキなマンガをありがとう
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すばらしかった。後半はなんだかウルウルしっぱなしだった。瑞々しい感性が迸る傑作だと思う。もう恋愛物語には心動かされないと思っていたけれど、カミさんと出会ったあの時を思い出した。週末にはデートに誘おうかな。
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They are boy and girl from nowhere,
We think they’re going somewhere.
But somewhere is nowhere too,
and nowhere could be somewhere.
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・よかった。
・題材は現代だが、所謂オッサンホイホイ。
・村上春樹もそりゃ好きになるわ。
・登場する本や映画や音楽や、サブカル者には刺さりまくり。
・に加えて、悪しき萌え豚としては、主人公の焦っている姿(絵的にも汗っている)に妙なエロスを感じてしまう。
・なんとなく岩明均「風子のいる店」を連想。
・抜群に絵が上手いと思う。
Posted by ブクログ
「このマンガがすごい!オトコ編」第9位。
日本・台湾同時発売(コミックビーム21-22年連載)、台湾を舞台に描かれた台北の繊細な女性のお話。元は32ページの自主無料出版のマンガが、500頁超の本格単行本になった。それだけを聞くと、なんか特別センセーショナルな内容のマンガに聞こえて仕舞うが、読むと、極めて真っ当な不器用なほどの、細野晴臣が大好きな少女と、同じ音楽が大好きな男性の、「若いからこそ見えている・見えていない世界」のお話だった。
音楽があるから、私たちの間に、言葉はいらない
1枚の真っ白な紙に
どうすればぎっしりと文字が書けるだろう?
言葉にすれば難しい感情をー
もし簡単に、この思いをあなたに、伝えることができたら
どんなにいいだろう(下巻193p)
マンガを描く前はイラストレーターだったらしい。
繊細で精密な風景と
常にアップ顔で、常に頬を赤らめている全登場人物と
ストレートな女性の心理描写と
何を考えているのかわからない男性と
女性を的確な言葉と行動で助ける女友だちと
そして「風をあつめて(収集群風)」(はっぴいえんど)から
始まる日本の音楽への憧れ
ひいては若者台湾文化に息づく日本文化と
少し前の日本の都会の様にしか見えない台北風景。
日本のマンガ編集者が彼を見出し
日本の読者が一定彼を評価して
「第9位」になったのは、
とっても良くわかる気がする。
Posted by ブクログ
【あらすじ】
文化への渇望、そして“バンドをやってる友達”・南峻の後押しを受けて、初めての海外、日本・東京を訪れた少女・緑(リュ)。レコードショップで手に入れた、はっぴいえんど『風街ろまん』と細野晴臣『HOSONO HOUSE』を握り締めて、台湾に帰国した緑(リュ)は、音楽と物語への想いを、そして心に芽生えた南峻(ナンジュン)への恋心を、一層募らせていく。そんななか、敬愛する細野晴臣の台湾・台北でのコンサートツアーが決定して……。
細野晴臣デビュー50周年記念ドキュメンタリー映画『NO SMOKING』台湾版で、イラスト&デザインを担当した台湾在住の漫画家が贈る、初連載作品、完結巻。大切な音と大切な時間を隣で共有してくれた、大切なあなたへ。魔法の夜よ、どうか……。
・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆
最も純粋でまだ綺麗な部分しか知らない、初恋の頃を思い出させる作品でした。全てが輝いていて、切なくて、30代後半のおじさんである私にとっては記憶の彼方になりつつある感覚で、ちょっと苦しかった。だって、絵の描写と語りの言葉が綺麗すぎるんですもん。涙が出そうです。この作品を敢えて「オトコ編」の9位に持ってくるマンガ大賞のセンスに脱帽です。
恋愛もそうですが、やっぱり一生の趣味や好きなものを見つける時間として、大学生の時期はとても重要だなと再認識しました。時には悩むことも、モラトリアムも大事です。
Posted by ブクログ
フリスタ・漫画特集から。絵の丁寧さが抜群。細野晴臣さんに全く詳しくないので、その点での感情移入が出来ない分、内容評価は辛くなってしまうから、物語としてはそれなり。