あらすじ
日本帝国海軍の夢と野望を賭けた不沈の戦艦「武蔵」――厖大な人命と物資をただ浪費するために、人間が狂気的なエネルギーを注いだ戦争の本質とは何か? 非論理的“愚行”に驀進した“人間”の内部にひそむ奇怪さとはどういうものか? 本書は戦争の神話的象徴である「武蔵」の極秘の建造から壮絶な終焉までを克明に綴り、壮大な劇の全貌を明らかにした記録文学の大作である。
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Posted by ブクログ
長崎から棕櫚が消えた。何かが起こっている。冒頭の不気味さ。その棕櫚のすだれに隠された港で造られていたものは。。。
いやあ、もう悔しいというか怒りというか、時代遅れの巨大戦艦を造るまでの異常なまでの秘密主義に翻弄された人々と、ほとんど成果を上げることなくあえなく海中に沈んだ戦艦の乗組員たちが哀れでなりません。
それにしても淡々と事実を積み上げてその狂気を描く吉村氏にはますます敬意を払いたい。素晴らしい作家です。現代でこのようなことができるのは。。。。小川哲さんぐらいでしょうか。まだ吉村氏の読んでない作品がたくさんあるので、これからも読んでいきたいです。
Posted by ブクログ
ノンフィクションを読みたいと言ってた
Fの常連さんに、吉村昭をお勧めしたら
どハマりしてるようだったので
私も久々に、ご相伴にあずかろうかと 笑
速筆の吉村氏、とにかく著作が多い
もう既に、他界されてるので
これ以上、増えることは無いにしても
制覇するには、気が遠くなるなぁー (^-^;
しかし、好きな作家のデビュー作は
しっかりと押さえて置かないとね
学生時代からの短編や
同人誌などを含めたら、ちょっと違ってきますが…
「記録小説」というジャンルを確立させたという意味では
本書は、デビュー作と言っても過言ではないようです
日本帝国海軍からの極秘依頼で
三菱重工長崎造船所で造られた戦艦武蔵
過去に建造した戦艦と比べても
飛躍的に大型だった為
船台拡張を含めた、技術の向上が求められた
軍の最高機密である、戦艦建造は
三菱重工社内でも、極秘扱いとなり
機密に対する警戒は厳重を極めた
設計者から艤装員に至るまで
厳重な身元調査を経て、誓約書にサインをさせられた
長崎は、地形上
三方を山で囲まれているため
外部から武蔵を隠す必要があった
巨大な戦艦を覆い隠す為に
漁具に使われる棕櫚を簾状に編んで
前面に張り巡らせた
また、長崎住民に対する監視も
厳しく行われた
造船所を見下ろす山の中に
警備の警察を配置し
造船所方面を見つめたりしただけで
逮捕された
高台にある、イギリスやアメリカの領事館から
建造中の様子が窺い知れないよう
目隠しの為に、倉庫を建造したり
グラバー邸や、上海銀行を
三菱重工が買い取ったりした
厳重を極めた中
図面が紛失する事件が起こる
設計部軍艦課に、特別に作られていた
設計場兼図庫から
一枚の設計図が消えてしまった
その部屋は、完全に独立していて
ただ一つの出入口も、鉄製のドアで締められ
その外には、守衛が控えている
入退出時には、守衛の管理している
出入者名簿に都度、署名捺印させられるほど
徹底されていた
設計図がの管理も、念入りに行われていたにも関わらず
一枚の図面が紛失した
6名の技師と2名の製図工は
憲兵に連れ去られ独房に留置
個別に、特高の刑事から厳しく尋問された
二週間に及び
家宅捜査や、身辺調査も行われ
調査結果と、答弁に齟齬があると
数人がかりで暴行、拷問を加えた
製図工の少年が、職場から逃れたい為に
図面を一枚持ち出して
焼却してたと白状する
少年は、その後裁判にかけられ
刑を受けると、密かに満州に送られ
家族も長崎から姿を消した
その他、技術的にも困難を極めた
戦艦武蔵の建造は
1940年11月1日進水の日を迎えたが
船体が、外部に露呈してしまう為
住民の外出を禁止した
あまりにも巨大な戦艦だった為
進水時、周辺の海岸に高波が発生し
逆流した河川では、水位が上昇して
民家に流れ込んで床上浸水になった
厳重な機密保持を経て建造された
戦艦武蔵だったが
戦闘機中心となっていた
太平洋戦争では、思いの外戦力にならなかった
巨大な船体を活かした
物資輸送と、実践訓練
山本五十六連合艦隊司令長官の遺骨を
本土に運んだ事
その後、「捷」作戦に参加
アメリカ軍による被弾、被雷を受け沈没した
本書では
戦艦武蔵の発注から沈没までを描いているが
建造中の出来事が中心となっているので
戦艦の知識が皆無な私でも
手に汗握りながら、読み進めることができる
まさにプロジェクトX
武蔵は、残されてる画像や映像が
ほぼ無いので
全体のイメージがしずらかったけど
このご時世、YouTubeで検索すると
いろいろ出てくる
戦艦武蔵の最期をCGで見る事もできる
大勢の人が、必死の思いで作り上げ
大勢の人が、犠牲になった
言うまでもなく、戦争は最悪な事である事は
間違いない
平時では、全く想像が及ばないことが
平然と行われる
人は歴史に学ばないといけない
と、しみじみ感じ入ってたところ
あとがきを読んで、愕然とした
「戦争は、一部の者が確かに扇動して引き起こしたものかもしれないが
戦争を根強く持続させたのは
無数の人間たちであったに違いない
あれほど、膨大な人名と物を消費した
巨大なエネルギーが
極一部の者だけで
到底維持できるものではない」
なるほど…
「戦争中に、人間たちが示したエネルギーが
大量の人命と物を浪費したことに
戦争というものの本質があるように思っていた」と
まあまあな数、いろんな角度から書かれた
戦記モノ読んできましたが
この一文を読んで、至極納得した
#戦艦武蔵
#吉村昭
#三菱重工長崎造船所
#太平洋戦争
#時代遅れの巨大戦艦
#心血注いで造った割に
#使われ方がお粗末過ぎる
#吉村作品にハズレなし
Posted by ブクログ
太平洋戦争の最中、当時の技術を結集して作られた最強の戦艦武蔵の建造とその最後を描く。
前半では、超機密裏のうち、多大なる資源、時間、労力が投入され、製造されていく武蔵が描かれている。
その裏には巧みな機密保持工作や造船技術者の苦悩があった。
武蔵は完成後、あまり実戦に出るチャンスが無く、最終的には米軍の航空隊と魚雷攻撃の集中砲火でコテンパンにやられて沈没する。
前半で描かれていた機密保持や技術者の苦労は一体何だったのか…というほどのあっけない最後であり、なんとも言えない虚しさが残る。
吉村氏特有の冷静で客観的な表現で描かれており、とても読みやすい。