あらすじ
【谷口ジローコレクションについて】
谷口ジローの作品は海外での評価が非常に高く、主要作は軒並み20万部近い実売を記録、現在も毎月のように新刊が出版されています。この選集は、2021年以降の谷口作品の新たな盛り上がりを見越して、読者の要望に応えられるような質の高い作品集として準備しつつ、その国際的な評価を改めて日本国内で広め伝えていくものとして企画されました。本企画は、谷口ジロー作品を多数刊行している小学館と双葉社が合同で実施。2021年10月以降、小学館・双葉社から毎月1冊ずつ、全5巻(計10冊)を毎月同日刊行。装丁を揃えるなど、合同で取り組みを行って読者への訴求を図り、名作が将来にわたって読み継がれることを目指します。
【本書の内容】
<明治>という時間軸に交錯する群像を、関川夏央の気鋭の原作を得て、名手・谷口ジローが渾身の力で描いた話題作。歴史上の人物たちの同時代的邂逅が意表を突く!!
明治三十八年。現代人たる我々が想像するより明治は、はるかに多忙であった。漱石 夏目金之助、数え年三十九歳。見通せぬ未来を見ようと身もだえていた──近代日本の青年期を、散り散りに疾駆する群像をいきいきと描く、関川夏央・谷口ジローの黄金コンビが放つ一大傑作。第二回手塚治虫文化賞を受賞。
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Posted by ブクログ
毎月2冊ずつ刊行される谷口ジローコレクションは、小学館と双葉社から1冊ずつ刊行される仕組みになっている(異なる出版社同士が手を取って刊行する、というのも非常に珍しい)が、双葉社サイドからは谷口ジローの代表作の1つ、「『坊ちゃん』の時代」シリーズが選ばれており、本書はその第1巻にあたる。
最も谷口ジローの有名な作品である『孤独のグルメ』が、原作の久住昌之との共作であるように、彼は多くの原作者と仕事をしている。その中で最も長く関係性が深かったのが、本作の原作者であり小説家・ノンフィクション作家である関川夏央である。
この2人のタッグにより生まれた傑作の1つがこの「『坊ちゃん』の時代」シリーズであるわけだが、初めて読んであまりの素晴らしさと面白さに興奮がとまらなかった。
タイトルから察せられるように、名作『坊ちゃん』を執筆する夏目漱石を主人公に、明治時代の文豪・社会活動家などとのコミュニケーションの様子などから、明治時代の時代精神を浮き彫りにしようとする。当然、史実をベースにはしているものの、実際にはなかったであろう人物間を意図的に交差させる手法を取っている。例えば、一瞬の邂逅ではあるが、師走のごった返す東京駅で漱石とぶつかるのは、のちに伊藤博文を暗殺する安重根であり、ぶつかった拍子に落ちた漱石の書物を拾い上げる手助けをするのが、駅内を巡回していた若き東条英機であったりする。
そして、漱石との対話シーンも多い森鴎外など、『破戒』をちょうど執筆していた時期の島崎藤村など、文学者たちのそれぞれの人物造形もクリアに描きかき分けられている。シリーズということで、この傑作が毎月楽しめるというのは非常に楽しみな一方で、豪華装丁版のため価格も高いのは悩みどころ、ではある・・・。