あらすじ
「雪は天から送られた手紙である」の言葉で有名な中谷宇吉郎。世界で初めて人工雪の製作に成功した物理学の権威は、恩師・寺田寅彦の影響を受け、一般読者向けの随筆を数多く残している。科学的なものの見方とは、人間の愛情や道徳観から離れ、物質や法則をそのままの形で知ろうとすることとする「科学と人生」をはじめ、「科学と政治」「科学のいらない話」「寺田研究室の思い出」など、著者自選11編を収録。解説・永田和宏
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Posted by ブクログ
著者は、人工雪を初めて作った科学者。
恩師の寺田寅彦博士の影響か、科学を身近に感じられる読みやすいエッセイで、戦後すぐに書かれたとは思えないくらい、今読んでも、なるほどと思える内容が多い。
中学生が思いついた霜柱の実験、天皇行幸の際に人工雪を作るところをご覧いただくための準備の様子や当時の宮内庁の厳しいけれどよくわからないルール(実験補助員も同席不可。行幸の3時間前には部屋から出なければならないなんて、一般人にはウイルスでもついてると考えられていたのか?)など。
「科学を学ぶと、得るところが二つある。一つは科学上のいろいろな知識を得られることであり、もう一つは科学的なものの考え方ができるようになる点である。この後者の方が非常に大切なのであって、このほうはどんな職業についている人、どんな階級の人にも、大いに役立つ
ものである。」
Posted by ブクログ
角川ソフィア文庫では、『雪と人生』に続く、中谷宇吉郎2冊目の著作。
標題作の「科学と人生」。敗戦後、科学による国家の再建ということが良く言われたが、それが皮相的なものとならないよう、大事なことは科学的なものの見方、考え方であるとして、具体的な例に拠りながらその大切さを説いていく。
そのほか、戦前、天皇の行幸時に、人口雪の結晶を天覧に供したことや、戦後御進講をしたことなどの思い出「雪今昔物語」、師である寺田寅彦への敬愛の念がまざまざと感じられる「寺田研究室の思い出」、幸田露伴が科学に大変な興味関心を持っていたことを記した「露伴先生と科学」など、エピソードとしても興味深い。
終戦の年、厳しい北海道羊蹄山麓の疎開先で冬を過ごした時に、子供たちのためにお話をするために利用したコナン・ドイルの『失われた世界』。特に人気のあったイグアナドン、そのイグアナドンの唄を作って歌っていた下の男の子が、病気で急に亡くなってしまったことを、作者はサラッと書いている。戦争前後の厳しい時代、同じような死を経験した者は少なくなかったであろうが、子どもたちが楽しんでいたこととの落差に、衝撃を受けた一文であった。