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Posted by ブクログ
角川ソフィア文庫では、『雪と人生』に続く、中谷宇吉郎2冊目の著作。
標題作の「科学と人生」。敗戦後、科学による国家の再建ということが良く言われたが、それが皮相的なものとならないよう、大事なことは科学的なものの見方、考え方であるとして、具体的な例に拠りながらその大切さを説いていく。
そのほか、戦前、天皇の行幸時に、人口雪の結晶を天覧に供したことや、戦後御進講をしたことなどの思い出「雪今昔物語」、師である寺田寅彦への敬愛の念がまざまざと感じられる「寺田研究室の思い出」、幸田露伴が科学に大変な興味関心を持っていたことを記した「露伴先生と科学」など、エピソードとしても興味深い。
終戦の年、厳しい北海道羊蹄山麓の疎開先で冬を過ごした時に、子供たちのためにお話をするために利用したコナン・ドイルの『失われた世界』。特に人気のあったイグアナドン、そのイグアナドンの唄を作って歌っていた下の男の子が、病気で急に亡くなってしまったことを、作者はサラッと書いている。戦争前後の厳しい時代、同じような死を経験した者は少なくなかったであろうが、子どもたちが楽しんでいたこととの落差に、衝撃を受けた一文であった。