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Posted by ブクログ
10年以上前に読んだ本書を久しぶりに読み返してみた。今回は「自己実現の否定」が印象に残った。
フランクルは「意味への意志」論において、「人間は結局、自分はこの世で意味ある人生を送っているという確信を求めていく存在」という。そして、「意味」や「なすべきこと」は、決して主観的な心理状態からのことではなく、「向こう」から呼びかけてくるものだという。「意味への意志」は、この呼びかけに呼応する心の働きなのである。したがって、「自己実現こそ人間が究極的に求めるもの」という自己実現論に反論する。
「自らの内部の可能性の実現」は、普通に考えれば悪いことではないだろう。しかし、それらを追い求めて行き着く先が「虚しさ」であることは十分に考えられる。その時々の状況や自分の健康状態の変化などによって「自らの内部の可能性の実現」が存分にできない事も誰にでも起こり得るであろう。そんな時、フランクルの「向こうから呼びかけられている」という思想は大きな助けになると思う。
フランクルの言葉に接していると、体の底から力がみなぎってくるような感覚になる。また、著者の諸富氏の解説はわかりやすく温かみがあり、研究に裏付けられた安心感と信頼感がある。折に触れて読み返したい一冊である。