【感想・ネタバレ】タイムスリップしたら、また就職氷河期でしたのレビュー

あらすじ

2019年、アラフォー非正規雇用の凛子は人生に絶望していた。一縷の望みをかけて、再就職セミナーに向かうと、かつての就活仲間だった鶴丸と再会。しかし、雷が落ち二人は1999年にタイムスリップしてしまう。二度目の人生なら「勝ち組」になれるかもしれないと二人は目論むが、就職氷河期世代の敗北の経験はなぜか社会改革に役立っていく……。新感覚お仕事×タイムスリップ小説!

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Posted by ブクログ

あなたは、『就職氷河期』を知っているでしょうか?

2023年度の総務省・労働力調査によると、この国の非正規雇用者の割合は約37%になるようです。この20年ほどの間におよそ1.3倍にも増加した非正規雇用という働き方。もちろん、人によって考え方はマチマチであり、望んで非正規雇用を選んでいる方もいらっしゃるでしょう。しかし、その一方で正社員という働き方を望んでも叶えられなかった先の今を生きている方も間違いなくいらっしゃると思います。

その原因のひとつが『就職氷河期』と呼ばれた時代の存在です。『「本年度新卒採用見送り」の連続』という中に、『まるではじめから存在しないもののような扱い』を受けた当時の学生たち。『指がとれそうなほどエントリーシートを書』いても『何の成果も出せなかった』と無情にも過ぎ去っていった日々。そんな時代の先に続く今をたくさんの方が生きていらっしゃると思います。そんな中にはこんな思いに苛まれることもあったかもしれません。

 『もしやり直せるとしたら、どこまで戻れば今度はうまくいくんだろう』。

さてここに、そんな言葉の先にまさかの『やり直しの人生』を送る一人の女性を描く物語があります。『あの頃に戻ってやり直せるとしたら、どうする?』という先にまさかの展開を見るこの作品。その先にこの国のリアルを赤裸々に描くこの作品。そしてそれは、”あの頃は気づけなかった社会の歪さが襲いかかる!”という日々の中に、それでも毎日を一生懸命生きていく主人公の『やり直しの』20年を見る物語です。

『新宿駅構内のドリンクスタンドに、若者たちの長い行列がてきている』のを見て『タピオカドリンクって、昔もちょっと流行ってたな、とうすぼんやりと』思うのは主人公の桜井凛子(さくらい りんこ)。『自分があのぐらいの頃は』と過去を振り返る凛子は『待っていたのは、氷河期だった』と『ドブネズミ色のリクルートスーツを身に着け、職を求めて街をさまよい歩』いた過去を思います。『そして、あれから二十年近くを経て、たどり着いたのが、この場所』と『再就職支援セミナー説明会参加の方はこちら』という張り紙を見る凛子は『もしやり直せるとしたら、どこまで戻れば今度はうまくいくんだろう』と思います。『中学生の時に亡くなった父親の影響で、小さな頃から読書に親しんでいた』凛子でしたが、『物語を生み出す才能は、ほぼゼロだと』気づき、『本作りの仕事に携わるなら、出版社に入って編集者になるしかない』と考えます。『都内有名私大文学部』へと入学できた凛子は、『有名私大というブランドが自分を助けてくれるだろう、と楽観視』していましたが、『何の成果も』ないままに時間が過ぎていきます。『大手マスコミの採用期間が終わ』り『中小の出版社』などにも手を広げるも芳しくない状況。そんな時、『名古屋市内にある出版社の入社説明会』に参加した凛子ですが、『ぎゅうぎゅうに押し込まれ』た会場で、高圧的な態度で学生を弄る様子に『こんなクソジジイの下で働くぐらいなら、無職のほうがマシ』と思います。やむなく『マスコミ以外の業種をやっと視野にいれはじめ』た凛子は、『とある大手消費者金融会社』の試験を受けた後、近くの公園のベンチに腰を下ろします。そんなところに『さっき一緒に集団面接を受けた男の子』がやってきて隣に腰を下ろします。『都内の私大生で、第一志望は銀行だったという』男の子は、鶴丸俊彦(つるまる としひこ)と名乗ります。『あの会社、内定出たら入る?』と訊く凛子に『どうかなあ。あそこで働くって、なんか想像できない。君は?』と返す鶴丸。凛子はそんな彼に『就職をせず今のアルバイト先にフリーターとして残る』という考えを打ち明けます。『全国展開しているチェーン系のインテリアショップでアルバイトをしている』凛子。
場面は変わり、『夏に説明会のあった名古屋の出版社から、書類選考通過の知らせ』を受けた凛子は、面接を受け、幸いにも『内定通知』を受け取ります。『三年。とにかく三年がんばろうと思』った凛子は名古屋での仕事をスタートします。そして『都内短大卒、二歳年下の佐藤千恵』と『一緒に配属された』凛子ですが、『小柄で肉感的な体型に愛らしい顔立ちをした』千恵が『男性社員たちの注目の的』となり『女性の先輩編集者たちに』も上手く取り行っていくのに対して、『わずかに顎がしゃくれている』ことで『「イノキ」とあだ名をつけられ』『いじられキャラ』となった凛子。やがて、『チンコ』とあだ名が変わっていった凛子は二年目の八月に会社を去ります。その後、『大手電機メーカーで労務管理業務に就いたのをきっかけに、労務や庶務の派遣仕事を渡り歩くようになった』凛子は、恋人にも不条理に去られ、気づくと『三十五歳で独身非正規』になっていました。『もう人生はいつの間に、取り返しのつかないところまできてしまっていた』と焦る凛子は『四十万近くか』けて『結婚相談所に入会』します。しかし、何もかも上手くいかず『人生が全く先に進まない』という中に、『今年、四十一歳になった』という今を思います。そして、『セミナー説明会』に『最後のチャンスだと思って』参加した凛子は、終了後、公園のベンチに腰をかけます。そんなところに『あの、すみません』と声をかけられた凛子が視線を向けると、そこには『十九年前の就活中、消費者金融会社の集団面接で一緒だった男の子』の姿がありました。お互いの近況を話す中、『あの頃に戻ってやり直せるとしたら、どうする?』と訊く彼。そんな時、『どこかで、雷鳴がとどろき』はじめます。『大学三年のさ、就活のはじめの頃に戻れたらどうする?二度目の就活だったら、たとえ氷河期でもうまくやれると思…』と彼が話した『次の瞬間、目の前のすべてが白い光に満ち』ます。『「あ、雷!」と間抜けな叫び』が自分の声か彼か分からなかった凛子。
再度場面は変わり、『ぴぴぴぴという電子音で目を覚ま』した凛子は『ああ、今日も元に戻ってない』と安堵し『ほっと息をつ』きます。『1999年9月17日AM9:00』と表示された『ストレートタイプの携帯電話の画面を見る』凛子。2019年からまさかの20年前、『就職氷河期』真っ只中の自身の身体へと『タイムスリップ』した凛子の『やり直しの人生』が描かれていきます。

“タイムスリップしたら、また就職氷河期だったけど、なぜか世直しに関わることに!?2019年、アラフォー非正規の凛子は人生に絶望していた。就職氷河期世代のための再就職セミナーに向かうと雷が落ち、1999年にタイムスリップしてしまう。就活中に出会い仲が良かった鶴丸とも再会。二度目なら人生をうまくやり直せるかもしれない、と二人は目論む”と内容紹介にうたわれるこの作品。Webマガジン「COLORFUL」に2020年8月から2021年4月に渡って連載された「氷河期つるりんこ世代 リターンズ」という作品を改題、加筆修正して刊行された南綾子さんの長編小説です。

私は南綾子さんという作家さんのことを全く存じ上げず、この作品に対する知識も全くありませんでした。そんな私がこの作品を手にしたのは一にも二にも書名につけられた『タイムスリップ』という7文字をたまたま目にしたからです。私は今までに900冊以上の小説ばかりを読んできましたがその理由は『タイムスリップ』ものの作品に出会うためです。『タイムスリップ』を扱った作品はそれなりにあると思いますが本の紹介がされるのはハインラインさん「夏への扉」や国内では筒井康隆さん「時をかける少女」、重松清さん「流星ワゴン」といった男性作家さんの作品が圧倒的に多いと思います。一方で私はプロフィールに書いている通り女性作家さんの小説しか読めない制約があり、なんとか女性作家さんの小説の中に『タイムスリップ』ものがないか探し求める日々を送ってきました。そんな中にあっては書名に『タイムスリップ』と書いてあれば躊躇なくポチッ!と指が動いてしまうのは火を見るより明らかでしょう(笑)。

さて、期待に胸膨らませて手に取ったこの作品の『タイムスリップ』ですが、実際のところは『タイムスリップ』そのもの自体には深く拘らないのが特徴です。

 ・『どこかで雷鳴がとどろいた』。

 ・『次の瞬間、目の前のすべてが白い光に満ちた』。

『タイムスリップ』そのものについてはこの程度しか描かれることはありません。例えば『タイムスリップ』もので世界的に有名な作品である「バック・トゥ・ザ・フューチャー」であれば”デロリアン”という『タイムスリップ』するためのマシンが登場します。世界的にも有名になった「ドラえもん」では、のび太の机の引き出しに”タイムマシン”が隠されていることをこの地球上に暮らす何億人という人が知っています(笑)。それに比べるとあまりに呆気ない記述です。これは、同じように『タイムスリップ』を描く汐見夏衛さん「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」や藤岡陽子さん「晴れたらいいね。」と似たような感覚です。これら両作の『タイムスリップ』の表現も本作同様に極めて呆気ないものです。しかし、その『タイムスリップ』の結果の先に『タイムスリップ』した先の世界で極めて意味のある物語が描かれていきます。この作品は両作のように戦争が描かれるわけではありませんが、ある意味で現代を生きる日本人の切実な現実が描かれていくということ、そして、そこに極めて重い意味を持つ物語が描かれていくということが何よりもの魅力です。このレビューでも後半にそのことを記したいと思いますが、まずは、もう少し軽い話題、『タイムスリップ』した先の時代感を現す表現を見ておきたいと思います。

凛子が『タイムスリップ』するのは1999年9月です。それは、凛子にとって全く知らない過去ではなく、自身が20年前に毎日を暮らした世界です。かつ、凛子は自身の身体の中に『タイムスリップ』していますから周囲から違和感を持たれることもありません。しかし、そんな凛子には懐かしい風景となって20年前の日常が浮かび上がります。まずは、『最初見つけたとき、あまりの懐かしさに「なっつ!」と声をあげてしまった』『携帯電話』です。

 『確か、この年の夏に買い替えたばかりの新品で、通話とメール以外、ほとんど何もできない(iモードとは一体何だったのか)。もちろん、カメラ機能もない。わたしの記憶が正しければ、写メールの誕生は、ここからまだ一年以上先のこと』。

『携帯電話』はここ四半世紀の中で、最も変化したもののひとつと言えると思います。今の時代にあっては『通話とメール以外、ほとんど何もできない』という製品では存在価値がないとも言えそうです。そして、『iモード』、覚えていますか?(笑)。当時、そこには輝ける日本の未来が確かにあったのだと思います。次は自分がしそうな行動を考えるとこれは外せないと思われるテレビです。おそらく凛子の部屋にあるのは”ブラウン管テレビ”だと思いますが、

 『まずテレビをつけてみた。すると嵐がハワイでデビュー記者会見をやっていて…』

1999年は『嵐』がデビューした年なんですね。活動を休止して久しい『嵐』ですが、そのデビューの光景をリアルで見るというのはこれまた衝撃的だろうと思います。そもそも芸能界自体に当時も今も活躍されている方ってどの程度いらっしゃるのでしょうか?最後に取り上げるのは、街に出た先に見る景色です。そこにはどんな光景が広がっているのでしょうか?

 ・『歩いている人のファッションや髪型は、文字通り隔世の感があった。男の子は長い髪とアメカジの組み合わせが多く、木村拓哉の強い影響下にあるのを感じずにはいられない。女の子はとにかくみんな眉毛が細いのが気になり、どんな服を着ているのかあまり目に入らなかった』。

 ・『1999年の東京の夜。厚底ブーツをはいた”ガングロ”の女の子の集団とすれ違う。歩きながらパラパラをやっていた』。

こちらはいかがでしょう?1999年当時の私、どこに住み何をしていたかはもちろん覚えていますが、現代のように気軽に写真を撮る時代ではなかったこともあって、街の風景を振り返ることは容易ではありません。凛子もそれは同じでしょうからこの街の光景は衝撃的だったと思います。いずれにしてもそこにある『タイムスリップ』という現象の先に展開する過去の景色は自分が目にしていたものであることに違いはありません。この面白さは『タイムスリップ』ものならではです。

しかし、しかしです。この作品の本当の面白さはここではないのです。上記した通りこの作品は『タイムスリップ』そのものに重きを置いてはいません。この作品が見せていくのは、昨今改めて問題視もされている『就職氷河期』というあの時代の厳しい現実です。

 『凜子が大学四年生だったのは、2000年。その年、大学の求人倍率がついに「1」を割った』。

今や日本全国どこにいっても”人手不足”が叫ばれている現状から思うと、『求人倍率がついに「1」を割った』という事実は隔世の感があります。しかし、凛子が就職活動に励んでいた時代はそれがリアルであり、このレビューを読んでくださっている方の中にも自分ごととして捉える方は多々いらっしゃると思います。物語では、凛子が直面した『就職活動』の厳しい現実が描かれていきます。

 『可能な限り資料請求し、指がとれそうなほどエントリーシートを書き、一次試験に進めたのは三社。面接までいったのは二社。手応えを感じられた瞬間は皆無』。

『有名私大というブランドが自分を助けてくれるだろう、と楽観視してい』た凛子が歩む厳しい現実。物語は、そんな過酷な現実を赤裸々に描いていきます。現代と異なり、面接でのセクハラは当たり前、仕事の現場にもパワハラという言葉は存在しないという時代です。そこに凛子の心の叫びが響きます。

 『就職氷河期という現象は、要するに雇用の調整弁だった、と何かの本に書いてあった。バカみたいだ。わたしたちは弁にされるために、生まれてきたということなの?』

そんな凛子はなんとか就職先を見つけるも『チンコ』というあだ名で呼ばれる日々の中、1年5ヶ月で会社を後にします。そして、『一人暮らしをしながら派遣社員として食い扶持をつな』いでいく凛子。しかし、その先にはさらに厳しい現実が待っていました。

 ・『三十五歳で独身非正規。こうならないために、学生時代、勉強に励んだのではなかったか。もう人生はいつの間に、取り返しのつかないところまできてしまっていた』。

 ・『人生が全く先に進まない。独身非正規、というぬかるみの上で、延々と足踏みしている』。

そんな現実の中に、かつて就職活動で出会った男性、鶴丸と再会した凛子は、鶴丸にこんな問いを投げかけられます。

 ・『あの頃に戻ってやり直せるとしたら、どうする?』

 ・『大学三年のさ、就活のはじめの頃に戻れたらどうする?二度目の就活だったら、たとえ氷河期でもうまくやれると思…』

そんな言葉の途中で、1999年9月へと『タイムスリップ』した凛子。まさしく、これから『就職活動』を開始するというタイミングである大学三年の九月という過去の自分の身体へと『タイムスリップ』した凛子。こんな前提の上に描かれていく物語が、面白くないはずがありません。これから自分の身に、この世の中に何が起こるかを全て知った上で20年前から人生をやり直すことになった凛子。このパターンで似たような作品としては、47歳の女性三人が高校生の自分に戻って人生をやり直す様を描く垣谷美雨さん「リセット」が思い浮かびます。しかし、この南さんの作品はあくまで仕事というものにとことんこだわっていくのが特徴です。

物語では、凛子が主人公となりますが、実はもう一人主人公が登場します。上記でも触れていますが、それが『目の前のすべてが白い光に満ち…』という瞬間を共にした鶴丸俊彦です。『凜子の大学より偏差値は下だが、中途半端というほどではない。学力も知名度も十分、上位クラスだ』という鶴丸も大学生として同じく『就職氷河期』を経験しました。そして、凛子と同じく不本意な人生を送る中に再会、過去の自分の身体へと『タイムスリップ』します。この作品では、かつて『就職氷河期』で辛酸を舐めた大学生の男性一人、女性一人がそれからの20年に起こることのすべてをわかった上で『二度目の就活』に臨む姿が描かれていくのです。そんな中で『やり直しの人生』にかける二人の思いが全く違っていることはとても興味深く映ります。『前の人生で得た知恵を使えば、今度こそ就活で勝てるんじゃないかと考えたこともあった』という鶴丸ですが、『日本の大企業に入れたとしても、ろくなことにはならない』と考えます。

 『まだパワハラセクハラ当たり前の時代だし、サビ残上等、仕事終わりは付き合いの飲み会が毎晩。その上、成果主義だの即戦力だのいわれて、教育もしてもらえずいきなり実戦投入。で、将来は給料もあがらないまま、リストラの恐怖におびえることになる。俺らはそういう世代だよ、使い倒されるだけの世代なんだ』。

そんな風に思う鶴丸は『未来を知っているというアドバンテージ』を活用しない手はないと考えます。

 『成長確実の企業の株を買っておけば、働かなくても食っていけるかも。例えばさ、ユニクロとか、ソフトバンクとか』

一方の凛子は『わたしたちの知っている通りの未来になるかはわからない』と考えます。『お金があるだけで、仕事もない、パートナーもいない人生はイヤ』という凛子は、

 『できれば編集者に、そうでなくてもやりがいのある仕事に就いて、ちゃんとキャリアを積んでいきたい。そして安定した仕事を持つ男の人と結婚して、中流以上の家庭を築く。それがこのやり直しの人生で、わたしが望むもの』

そんな風に考えます。物語はそんな二人がそれぞれの考える『やり直しの人生』を送っていく姿が描かれていきます。これこそがこの作品の真骨頂です。そこに描かれていくのは『タイムスリップ』という奇想天外な”飛び道具”を使う外見から想像される世界とは全く異なる極めてリアル、極めてシリアスな物語が描かれていきます。これには驚きました。もうトイレで読書を中断する時間さえ惜しいと感じられるくらいに濃密、濃厚な物語がそこには描かれていきます。

 『結局さ、二度目とはいえ、やれることは限られてるんだよな。誰よりもはやくスマホを開発するとか、ヒット曲をパクってスターになるとか、ベストセラーを盗作して文豪になるとか、そんな、映画みたいに劇的なことは起こらないし、できない』

そんな現実を前にもがき苦しむ凛子と鶴丸。対称的とさえ言える二人の『やり直しの人生』ですが、そのいずれもが決して甘いものでないことが分かります。そして、そこに浮かび上がってくるのがこの国の現実です。

 『しかし、非正規。どこまでやっても非正規。利益は誰かが中抜きし続ける…人を人とも思わない職場で自殺する日を待つのか?』

そして、

 ・『俺たちは、捨てられた世代なんだよ』

 ・『この社会、落とし穴だらけだよ、全く。勝った奴はなんでもやりたい放題で、負けて落とし穴に落ちた奴には何も言う資格はなし』。

そんな言葉が物語を重苦しく包んでいくこの作品。『タイムスリップ』という”飛び道具”が使われることから、この作品を軽い読み物と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、そうではないのです。そこにはこの国に潜在する『就職氷河期』に始まった極めて重い社会の現実が赤裸々に描かれていくのです。この国に暮らすすべての人が決して目を背けてはいけない『就職氷河期』の先に連なるこの国の負の側面を鮮やかなまでに描き出す物語。そんな物語の結末に記される言葉には、自分の人生もまた薄氷を踏むものであることに気付かされもします。このレビューを読んでくださった一人でも多くの方に読んでいただきたいこの作品、生きていくことの大変さを改めて噛み締めることになる極めて深く、重い物語がここには描かれていました。

 『晩婚化や少子化の原因は、女性の社会進出や高望みばかりがやり玉に挙げられる…そもそも、働く女性の半分以上が非正規なのに、何が社会進出よ?ちゃんちゃらおかしいわ』

『タイムスリップ』を使った『やり直しの人生』の中に『就職氷河期』の現実をリアルに描いていくこの作品。そこには、決して目を背けてはいけない四半世紀前の出来事とその先に待っていたこの国の有りようが描かれていました。『タイムスリップ』自体に重きを置くわけではないこの作品。そこに描かれるあまりにリアルな社会の現実に目を背けたくもなるこの作品。

社会の裏側に横たわる負の側面にハッとさせられる読書。昨今指摘される”失われた20年、30年”という言葉の意味深さを改めて感じもする、これぞ傑作だと思いました。

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2025年02月15日

ネタバレ 購入済み

星6つ付けたい

良かった。最後のところ泣けました。

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2021年12月05日

Posted by ブクログ

ネタバレ

自身が氷河期世代、ロスジェネなので、このテーマの小説はつい手に取ってしまう。

41歳から大学生にタイムスリップして就活やりなおし。うまく行くことも、ままならないこともあるけど、前の人生の記憶を活かしたり活かさなかったりしながら、少しずつ誰かの役に立つ、そんな人生へと進んでいく。救いのあるお話でした

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2024年06月21日

Posted by ブクログ

転生もの。

タイムスリップだから非現実要素多めかと思いきや
リアルな就職〜仕事〜恋愛〜結婚の話が含まれており
自分の身にも置き換えてしまうほど深く読んでしまった。

単なるエンタメ小説ではなく
自分がこれからどうしたいかも考えさせられる。

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2023年09月14日

Posted by ブクログ

2023.07 モーニングストーリー

流行りの転生系みたいな題名
文体は重くなくかなりラフな感じだが、随所でハラスメントや雇用の問題等の話題が散りばめられタイムスリッパーたちの発言からも筆者の思想を感じた

こういうの見てると令和元年度採用で働いてる自分は昔より恵まれた(自身を大切にすることが許され、推奨されるような)環境だなと感じた

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2023年03月30日

Posted by ブクログ

就職氷河期世代の人は、やり直しができるのならしたいのかなと思いました。
登場人物の名前がタイムスリップにあった名前で笑えた。
こんな事あったよなと思いながら読みました。

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2022年01月29日

Posted by ブクログ

自分より少し上の世代だけど、あーうんうん、と思いながら読んだ。女性活躍推進とかあったわー!と懐かしく。同時に、職場の非正規の人達みんなこんなかな?とも思ったり。いろいろ考えさせられる本だった。
キャラは良いけど話の進め方があまり自分には合わずだった。

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2025年09月27日

Posted by ブクログ

そうだったよなあと昔を思い出しながら、心が苦しくなりました。

でも確かに就職氷河期に生まれて、時代に翻弄されてる凛子だけど、周りの友達とかバーのマスターなど、環境は恵まれてるんじゃないかと思うところも。まあ、それも凛子が行動を起こしたからだろうな

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2025年09月11日

Posted by ブクログ

2019年から1999年にタイムリープした男女が、人生をやり直して順風満帆…とはいかない。
氷河期世代の苦悩、本当に半端じゃないなと改めて思いました。
就職のことはもちろん、2000年代〜は社会構造が大きく変化していく過渡期で。男女の格差や結婚や…様々なことに対応していく必要があった世代です。
本作のW主人公たちは、人生をやり直してもなお(やり直したからこそ?)紆余曲折があり、共に家庭を得ました。
そして迫るコロナ禍…。
怒涛の現代史を読んだ心地がする小説でした。

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2025年03月30日

Posted by ブクログ

私も氷河期世代の未婚で一応、正規雇用、一緒に住んでるパートナーも同世代の非正規で、もちろん子供いません。氷河期世代の自分を呪ったことあったけど、どの世代にもいいところ悪いところ、あると思うけど。どの時代がいいとか、そんなことキリが無いと思う。
たとえば、古くなるけど、戦時中とか、戦後とか、将来の超高齢化社会とか。そういう時代に比べると、今の私は、幸せと思える自分を褒めてやりたい。

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2024年07月03日

Posted by ブクログ

1999年の様相描写の参考にしたくて読んでみたが、主題は「時代の差」ではなく「就職氷河期世代の20代」であるため、2000年代の話がメインだった。そのため期待した内容ではなかったが、それでも参考になるところはあった。



■就職氷河期世代について/女性の社会進出について

制度や論点についてかなり厚く描かれていた。主題なだけに。

就職状況や婚活話について、決して一面的ではなく、主人公が経営者になったり、婚活を支援する側として男女それぞれの様相を書いたり、公平な記載だったのは好感が持てた。

氷河期世代とはいったい何だったのか、というも、主人公たちが迷いながら様々な視点を加えている。本人が悪いのか、社会が悪いのか、どうすればいいのか、どうしようものないのに。色々な考え方が混とんとしたまま描かれていて、決して答えがあるわけではなく、そこにリアリティがあった。

「若さを武器にする女」についても、立場の交換による平等な描写がされていた。


■文章について/構成について

文章は下手。説明的だったり視点がブレていたり。
というか文章に全体に加齢臭を感じた。
地の文でネットスラングが使われてるのは滑ってたと思う。

行き当たりばったり的に物語が展開するため、構成の面白さやカタルシスは感じない。タイムスリップも一回だけで本当にただのマクガフィン。

もとは連載だったようで、そもそも本当に行き当たりばったりに書いていた可能性は高い。
ただし、行き当たりばったり感は、人生の紆余曲折を描くにあたってはリアリティの演出に寄与していたとは思う。文芸に関わりたいといいながら、アパレル、食品メーカー、婚活相談で起業、等々全く違う人生に転がっていく。とはいえテーマのブレも感じた。結局何が言いたいのかわかりにくい作品だった。


■登場人物について

パワハラ男なり、仲間なり、マルチにハマる女なり、様々な人物がめまぐるしく登場するのは(節操なくも感じたが)よく描かれていた。

主人公二人にはあまり共感できなかったが、本作の主人公としてはよい造形だったと思った。


■時代描写について

時代感の描写が薄めなので、読んでいてノスタルジーを楽しめる感じはなかった。

一応、iPhoneやガラケー等のガジェットや、ファッションや、それぞれ描写はあるので、小ネタとして最低限楽しめはするが、決して主題ではない感じ。

2019年の言葉を使って理解されない(パワハラ、塩対応、ワンオペ)ところはおもしろかった。

時代感の演出に当たっては、政策の変化や政治スキャンダルに触れられたほか、芸能人や音楽グループなどの、いわゆるゴシップ話がそれなりに多かった。著者の趣味によるものか、それとも読者層に合わせたのかはわからない。が、イベント描写としてはこのあたりが大事かもしれない。

近過去タイムスリップで思いつく「株で儲ければいい」は、「詳しく覚えていない」と棚上げされつつ、ラストではちゃっかり買っていたことが示されていて、ここは仕掛けとしてうまいと思った。

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2023年02月09日

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