あらすじ
潮新書「危機の時代を生きる」のシリーズ第3弾。
第1弾の続編として、日本を代表する知性が、パンデミック、戦争、自然災害など、
危機が重なる時代を、いかに生きるべきかについて、それぞれの専門分野の知見を持ってこたえたインタビュー集。
第1章 歴史の教訓から何を学ぶか――コロナ後の世界
見田宗介 歴史の岐路に立つ人類 高原の見晴らしを切り開く
村上陽一郎 事実を冷静に見つめる姿勢と常識で科学の発展と向き合う
山極壽一 動いて集まり、語る中で 人類は共感を育んできた
マーガレット・マクミラン 歴史の教訓から学び 新たな社会の建設を
宮坂昌之 日本の新型コロナワクチン接種は想像以上に順調な進み方
小川さやか 多様な人との関係性が人生を強く豊かにする
第2章 持続可能な未来を開く
ジェフリー・サックス 持続可能な未来を築く21世紀の地球倫理を
広井良典 地球の有限性に向き合い 持続可能な発展を目指す
斎藤幸平 経済成長に依存しない本当に豊かな社会とは
蟹江憲史 SDGsは「未来のかたち」 コロナ後の社会の道しるべ
ジェシカ・ファンゾ 人が「何を食べるか」は 地球環境の未来に直結
ヨハネス・アーパライネン 気候変動で岐路に立つ世界 コロナ後こそ行動への好機
第3章 誰も置き去りにしない社会を築く
松井彰彦 少数者に優しい社会とは 誰もが暮らしやすい社会
小国善弘 インクルーシブな教育と社会へ真の共生の在り方を目指して
伊藤亜紗 人生は今の身体で生きる 偶然を必然に変える挑戦
ロジャー・グッドマン 脆弱な立場に置かれた若者たちへの支援が急務
井手英策 弱者を助ける社会から 弱者を生まない社会へ
第4章 複合危機――人類の針路
姜尚中 ぶれることなく大衆と共に 今求められる「中道」の姿勢
佐藤優 心のありようが問われる今こそ池田トインビー対談に学びたい
カレン・ファルカス 世界の避難民は8400万人ウクライナの人道支援を打開への糸口に
ロベルト・ベネス 全ての子どもの未来を守る
伊藤貴雄 人道的競争の時代を開く「貢献的人間」の育成を!
小美野剛 ウクライナから逃れた人々に速やかに支援を届ける
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Posted by ブクログ
危機の時代を生きるということで、現代的危機と考えられるテーマについて、大学教授や著名な作家等の知見を、庶民の生活に焦点をあてながら、端的にわかりやすく紹介されている。新聞記事を一冊の本に集約したものである。
本書では、コロナ禍、ロシアーウクライナ戦争、地球温暖化などから派生される人類的問題について、様々な角度から述べられている。
例えば、作家・佐藤優氏は次のようなことを述べていた。
・端的に言えば、現在の危機の本質として「心の危機」がある。そして現代の危機の時代を乗り越えるための処方箋が、池田・トインビー対談にある(佐藤優)。
・自らの基準を他者に押し付けるような「排外主義的ナショナリズム」を退けている。
・誤った道を行く人々を見放してしまうのではなく、歩みの向き、角度を5度でもいいから変えることができないか。その努力と変革を36回繰り返せば、合わせて180度になる。人々が時流に押し流されず、反対方向に踏み出す道が開かれるはずだ。
・私たち一人一人の中に潜むナショナリズムを克服し、生命を「尊厳ならしめる」努力が必要である。
・なぜ戦争は許されないのか、なぜ核兵器は許されないのか。「許されないから」としか言えない。生命の根源に関する事柄においては、理屈や科学では説明しきれないものがある。
・どんな状況であったとしても、心は変えられる。人間は変わる可能性がある。外目には悪人のように映る人にも仏性はある。だから対話を諦めてはならない。
・目の前に分厚い壁があるとき、社会革命家は「壁を壊そう」という発想になる。「人間革命」を目指す人は、「壁の向こうに友人がいる」と考える。壁の向こうにいるのも自分と同じ人間であり、人間は必ず変れると確信できる。
また、姜尚中氏は次のようなことを述べていた。
・一方ではアメリカが、世界を一極支配したかのように振る舞い、他方ではロシアが、国土は大きくても軍事的には二流、三流の国家だと、西側諸国からも下に見られるようになった、その屈辱を晴らし、国際社会での立ち位置を挽回したいと考えたのがプーチン大統領だと言える。そうした背景が、現下のウクライナ危機につながっていると見ることができる。
・現代は、中間集団がやせ細り、若者を中心に、社会関係の網の目から離脱する人が増えている。いわば砂粒化した個人が、極端な情報や言説に触れることで、バラバラだった状態から、一定の方向にマスとなって動き出してしまうことがある。それはナショナリズムや全体主義の温床となる危機をはらんでいる。偏った情報や妄想を信じている個人が、マスとなって固まれば、極端な方向に向かうことは十分にありえる。
・時代が変わっても変わらずにいて、同時に、変わらないために変わり続けるという中道の立ち位置-今まさに、社会で必要とされている姿である。
・人生には、良い時も悪い時もある。そのたびに一喜一憂する必要はない。「ゾウの時間ネズミの時間」ではないが、大きなサイズで時間を考えると、人生の出来事を違った視点から見ることができる。まずは、自分の生き方、考え方を「ゾウの時間」に変えてみる。
・自分の未来に希望を抱いている人は、たとえ今不幸であっても、耐えられる。他者の不幸の上に自分の幸福を築くようなことはしないはずである。
全体を通じて、仏法の「中道」の考えに、様々な解決の糸口があるのかなと感じられた。