あらすじ
このパンデミックが人類の歴史にどのような転換をもたらすのか。
日本を代表する26名の英知を結集し、未曾有の困難をいかに乗り越えるべきかを模索する。
医学だけでなく、社会科学、生物学、ロボット工学、日本思想史、文化史、メディア史、環境史、また医療現場や学校現場など多様な分野の専門家による示唆と提言をまとめる。
主な執筆陣
磯田道史
寺島実郎
中村桂子
石弘之
安部龍太郎
駒崎弘樹
開沼博
など、26名の各分野の専門家。
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Posted by ブクログ
聖教新聞紙面の連載記事を書籍化したもの。
数年前のコロナ渦において、感染死や重症化、そして感染拡大、医療ひっ迫、緊急事態宣言の発出、ワクチン開発課題、中小零細企業をはじめとする経営不振、外出自粛によるコミュニケーション不全、デマ情報拡散等、様々なリスクが次々と身の回りに勃発し、まさに「危機の時代を生きる」中、それぞれの分野の専門家に、諸問題に対する危機のとらえ方、そのような場面でどのように問題を受け止めて、乗り越えていくのかということについてインタビューにした記事が掲載されている。
読んで感じたことは、すべての一流の方々は、目の前の危機を恐怖として慌てふためいたり、状況を煽ってみたり、嘆きの言葉を羅列するようなことはせず、どっしりと落ち着いて現実を受け止め、歴史から学び、このような時こそどのような考え方(哲学)が大事なのかを思索し、そして社会に対して希望や安心をもたらす方向への見解を述べられているということである。
メディアでも著名な方々も多数登場し、その内容には、さすがと頷けることばかりであり、さらにはコロナ渦という状況にとらわれることなく、遭遇する様々なリスクへの応用ができる内容も多く学べる書籍である。
以下、個人的にピックアップした部分をメモ代わりに残しておきたい。
◆中村桂子(理学博士、生命誌研究館名誉館長)
・社会が「人間は生き物であり、自然の一部である」という感覚を失ってしまっているのでは?
・生き物とは何か? その一番の特徴は「予測不可能であること」(フランソワ・ジャコブ博士)
・何でも手がかからないようにするのではなく、”大変だけど楽しいな”と感じられること自体が「生きている」ということ。
・「機械論的世界観」ではなく「生命論的世界観」の確立(均一か多様か)
・生き物の世界には本来、区別はあっても差別はない。アリとライオンを比較して、どちらが優れているかを決めることに、何の意味もない。
・人間には理性と感情がある。感情はつながり合うことで生まれ、引き出される。思いやりこそが人間である特性の一つ。
・「想像力」(目に見えないものを思い描く力)は、他の動物にはない、人間特有の能力。
◆佐藤健人(東海大学医学部准教授)
・2020.4.7 新型コロナウィルスの緊急事態宣言
・抗体:感染によって得られる抵抗性(獲得免疫)=未だ地球上に現れていない病原体にも備えている=非自己に対しても臨機応変に戦えるよう備えている。
・自然免疫:非自己の侵入に直ちに攻撃する(発熱、炎症など)。時間を要する「獲得免疫」をフォロー。
・免疫系の暴走=サイトカインストーム=非自己に対してだけでなく自己をも攻撃してしまう(→臓器破壊など)。
・腸内細菌なくして免疫系の調和は成立しない。賢明な食生活で腸内細菌のバランスを整え、食事、運動や睡眠など生活の基本を大切にすることが、結果として免疫系の「調和」をもたらす鍵となる。
・人間と人間、人間と環境を調和へと導く共生の哲学が今後求められる。
◆高田礼人(北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター教授 エボラウィルス研究の第一人者)
・ウィルスは無生物(自ら分裂して増殖することができない)だが、生物的な物質で、自然界で生き物と静かに共生する。
・環境破壊、食糧問題、地球温暖化による動物や昆虫の生息域の変化等により、ウィルスと共生していた動物との接点が増え、人類がこれまで接触のなかったウイルスとの接点が生まれる。
・ワンヘルス(人の健康、動物の健康、環境の健康は互いにつながっている)
◆岡田美智男(豊橋技術科大学教授)
・個体能力主義:個の力で物事を解決しようとする考え方
・弱いロボット=自分だけでは問題を解決できない「弱い」存在だが、周りとの関係性を豊かに構築することで最後は目的を達成してしまうようなロボット。
・弱さを見せると共感を引き出せることがある。
・プリコラージュ:あり合わせのものをかき集めながら、周りの環境や制約を上手に生かして、問題解決をしていく方法。
・依存先の分散としての自立(熊谷晋一郎さん)
・オーセンティック・リーダーシップ:自分はここが弱いけど、頑張っているよといった等身大のリーダーに、周囲の人は共感し、付いていきたいと考えるのかもしれない。
◆佐藤弘夫(東北大学大学院教授)
・近代は、合理化や世俗化の中で人間以外の存在をこの世界から追い出してしまった。
・人知を超えるような事象に直面し、その意味を深く問う中で、困難を突き抜ける思想が見いだされる。
◆磯田道史(歴史学者・国際日本文化研究センター教授)
・自然災害が昔から周期的に発生してきた日本においては「災後というものはなく、私たちは常に「災間」を生きているという認識が適切。感染症についても同様。
・戦争は、二度と起こさない=(戦間ではなく)戦後にしてみせるという希望を持ち続ける社会に転換することが課題。
・「感染=悪」とする異様な雰囲気が強まれば、感染の隠ぺいを促し、さらなる感染を助長する恐れもある。
・歴史は細部に宿る。当時の一庶民が何を考え、どのような生活を送っていたかを研究する中で、その時代の普遍的な本質を見出せる場合がある。
・人間は価値観が揺らぐと、極端な考えに傾く。集団の運用や指導も荒くなり、丁寧な説明や対話を省いて、物事を強引に勧めようとする。そこに陥らず、バランスを保って進むためには、平和と人権に対する「尊敬心」と、他者を思いやる「共感性」が社会の根底にあることが求められる。
◆寺島実郎(一般財団法人日本総合研究所会長)
・世界におけるGDPの日本のシェアは落ち続けている。
1988年-16%
2000年-14%
2010年ー7%
2020年-6%
GDP=付加価値の総和。日本は世界の中で埋没している。
・二極化の時代(米中新冷戦時代)
→日本には第三の道を模索する役割が求められる
・宗教なき時代
・戦後日本の成功体験を引きずり、”何となくうまくいっている”と錯覚し続けてきた結果、日本人には、目先の価値や損得を求めるのが当たり前になってしまった。自分だけの”小さな幸福”に沈潜していいるのではないか。
◆安部龍太郎(作家・歴史小説家)
・人間の最大の弱点は、「エゴ」や「敵意」といった感情を制御できなことにある。こうした感情を克服できなければ、人間自体が滅亡の危機を迎える。
・よって立つ思想・哲学・信仰の脆弱性。
・「危機の時代」は決して悲観的な側面ばかりではない。既存の価値観を脱し、社会の変化に応じた、より幸福な生き方を築いていく変革のチャンスでもある。
・「歴史的教養」を身に付けるための重要ポイント
①歴史についての情報量
②対峙した経験
③そこから生まれる発想力
◆酒井吉廣(中部大学教授)
・14Cのヨーロッパで黒死病による多数の死者が出た中で、蔓延を回避した都市があったが、その代表例がイタリアのミラノとドイツのニュルンベルクであった。ミラノはロックダウン政策をとった。ニュルンベルクは公衆衛生強化政策を取った。経済利益より市民の命を第一とした(庶民ファースト)。
・シンクグローバリー、アクトローカリーの精神が求められる。真の「シンクグローバリー」の精神を体得するためには、自分さえよければよいという考えから脱却し、利他の精神に裏打ちされた「他者への想像力」が必要。
・「分断」から「協調」への流れをつくるためには、自分とは異なる他者との「共生の哲学」が求められる。
◆佐藤卓己(京都大学大学院教授)
・SNS時代では、情報をチェックする「ゲートキーパー(門番)」がいない。
・SNSは人と人がつながることに価値を置く「接続依存型コミュニケーション」(情報が真実であるかどうかは重視されない)
・曖昧な情報の中で「拙速に判断しない」ことが大事。
・私たちは、耐えることや待つことで、得るものがあることを知っている(即時的な快楽」に対する「遅延化する利益」)
・「即時的な快楽」に流されてはいけない。
・好きな情報だけを集めてくるのは簡単だが、他者と会話し、合意を取り付けようと考え、説得できるだけの情報を集めることは大変。時間をかけて情報と向きあうことで、遅延化された効果」を得られる。
・世論と輿論:「世論」は世間の雰囲気や大衆感情(SNSで醸成されやすいもの)、「輿論」は公的意見、つまり公に対して責任を担う意見(反対意見も突き合わせて討論を重ねて形成された合意)
・自分は善で、相手は敵といった味方にならないことが重要
・共感を得るために設定するこの「敵」は、誰か別の人ではなく、自分の暗い闇の部分を投影していることが多くある。自分では否定したいと思っている感情や欲求を、覆いかぶせる適当な存在を見つけると、それを敵として設定する。
◆帚木蓬生(作家、精神科医)
・ネガティブ・ケイパビリティ(負の能力):どうにも対処しようのない事態に耐える能力、性急に証明や理由を求めずに、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいることができる能力
・単純明快で手軽な解答というのは、何か薄っぺらで、ともすると物事の理解が「分かったつもり」の浅いところにととまってしまう。
・目薬(=他者の見守りの目)、日薬(=時間をかける)、口薬(称賛やねぎらいの言葉)
◆碓井真史(新潟青陵大学大学院教授)
・心理学において、「不安」は目に見えないものや未知のものに対して懐く感情、「恐れ」は、対象のはっきりしたものに対して抱く感情。
・過剰な行動は、不安の裏返し
・危機的な状況下では、ある程度の不安は、自分の身を守るために必要。むしろ其不安を自分でコントロールできるかどうかが求められる。そのために、リスクを完全になくす「ゼロリスク:のような在り方を求めすぎないことが大切。
・情報発信では、単に「正しい言葉」というより、「伝わる言葉」を使う心がけが大事。
・情報受信では、「恐怖デマ」「希望デマ」に注意。
・ウィルス感染に対し、「体の免疫力」と「心の免疫力」を高めることが大事。
③駒崎弘樹(認定NPO法人フローレンス代表理事)
・ヘルプシーキング(援助希求)の能力は、気持ちが追いつめられると低下する。
・一般的に、子どもに「「ああしなさい。こうしなさい」と命令するよりも、「どうしたらいいと思う?」と問いを投げかけていく方が主体性を育む教育にはよい。
◆渡辺武達(同志社大学名誉教授)
・メディアリテラシーやメディア倫理・法制の教育を一層充実させるべき。
◆開沼博(東京大学大学院准教授)
・かつての日本社会は「貧・病・争」が人々にとtっての主要なリスクだったが、現代は人々の生活様式が多様になり、立ち現れるリスクも多様化・細分化された。そのため、「見えづらいリスク」が増えていった。
・クリミア戦争の際、ナイチンゲールは、戦死者の死因が、戦闘で受けた傷自体よりも、治療現場の不衛生によるものの方が多かったことを、統計を用いて解明した。(多元的なリスク)
・個人化の進展した現代社会にあっては、「サードプレイス」の存在が減少している。
・個人化された社会では、人と人のつながりは希薄になり、「共助」の流れが作られづらい。個人と社会を結ぶ「中間集団」の果す役割は大きい。
◆木村泰子(大阪市大空小学校初代校長)
・「見えない学力」:想定外を生き抜く力
①人を大切にする力
②自分の考えを持つ力
③自分を表現する力
④チャレンジする力
・親が気を付けなければならないのは、「親の正解を押し付けないこと」。親が正解を持ってしまうと、子どもが語る言葉を最後まで聞けず、途中で自分の正解を言ってしまう。今の社会を見ていても、正解なんて簡単には出せない事ばかり。10年後の社会はなおさらである。