あらすじ
ほんとうのイノベーションは、ゆっくりと、予想外に始まる。
■内容
いつの時代も、研究者は未知に挑み、人類の発展に貢献してきた。誰も解明していない謎を追う人。社会課題の解決に努める人。いつ、何の役に立つかがわからなくても、未来へより多くのものを託そうとする人。彼らの人生をかけた挑戦の積み重ねの先に、今の私たちの生活がある。そして、その原点にはいつだって飽くなき知的好奇心があった。
しかし、日本では現在、運営費交付金の減少や科学技術関係予算の過度な「選択と集中」などが原因で、研究者が知的好奇心をもとにした基礎研究を行いづらい状況にある。それゆえ、イノベーションの芽を育てるための土壌が崩れつつある。
令和の時代において、研究者たちはどのように基礎研究を継続していくことができるのだろうか? 社会はどのようにその活動を支えられるだろうか? そもそも、私たちはなぜそれを支えなければならないのだろうか?
本書は、各分野の一線で活躍する3名の研究者が、『「役に立たない」科学が役に立つ』をテーマにした議論を中心に、書下ろしを加えたうえでまとめたものである。これからの「科学」と「学び」を考えるために、理系も文系も、子どもも大人も、必読の一冊!
■目次
はじめに 科学とお金と、私たちのこれから(柴藤)
第一部 「役に立つ」ってなんだ?――プレゼンテーション編
一 「役に立たない」科学が役に立つ(初田)
二 すべては好奇心から始まる――“ごみ溜め”から生まれたノーベル賞(大隅)
三 科学はいつから「役に立つ/立たない」を語り出したのか(隠岐)
第二部 これからの基礎研究の話をしよう――ディスカッション編
一 「選択と集中」は何をもたらしたのか
二 研究者にとって「アウトリーチ活動」とは何か
三 好奇心を殺さないための「これからの基礎研究」
第三部 科学と社会の幸福な未来のために――対話を終えて
一 科学と技術が、幸福な「共進化」をとげるための実践(初田)
二 個人を投資の対象にしない、人間的な科学のために(大隅)
三 人文社会科学は「役に立つ」ほど危うくなる(隠岐)
謝辞 「役に立たない」研究の未来(柴藤)
■装画
カシワイ
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Posted by ブクログ
「研究」に対して、役に立つ・立たない、といった場合、その話している人の頭の中がそれぞれ違うので、話自体が噛み合っていないことも多い。そんな中で、異なる分野の研究者、ここでは数理学、生物学(ノーベル賞の大隅先生!)、人文学の3名の研究者が講演後、座談会形式で課題と具体的な取り組みを話し合っている本。
ナビゲーターは、研究者を応援するクラウドファンディングを経営しているとのこと。基礎研究は、選択と集中と相性が悪く、説明責任を果たす上でも相性が悪い。一方で、説明責任自体は、果たすべきだが、何を説明すべきか、まったく関心がない人にどのように説明するかの工夫や方向性をしっかり議論すべきというのは、とても納得。
役に立つ/立たない、説明がつく/つかないの文脈でいくと、世の中には、説明がつかないけど成り立っているものがあり、例えば、地方のお祭りなんかがそう。その土地ならではのお祭りがあって、地元の人が大事にしていて、じゃあ、その価値はどこにあるかというと誰も「説明責任」は果たしていない。若い人も楽しんで参加しているという現状は、感情面としてアタッチしているということ。逆に言うと、感情面で納得がいっていないときに、「説明責任を果たしてほしい、他者に対して自分が納得できるようにしてほしい、それによってお金を出すことを納得したい」という問題が起きているのだ、という指摘はとても鋭いと思いました。役割として説明責任は果たすべきだが、○○の役に立つとウソに近いようなことは止め、一方で純粋に頑張っている人を応援したくなるような感情を醸成できると基礎研究の環境が良くなると感じました。
他に科学と技術を分けて考えるべきであるということ、国の果たす役割の重要性、一般市民が”推し研究者”を応援できる体制など、示唆に富む話が多数あるとともに読みやすさもあり、基礎研究、引いては好奇心が原動力になって研究に取り組める環境を構築できるような活動を継続して欲しいと思いました。
Posted by ブクログ
役に立たないとされがちな基礎研究について議論された座談会のまとめ。
そもそも役に立つとは何かということ(線引きは不明瞭・恣意的 と理解した)、基礎研究は多様性を認めてこそ将来応用につながるような研究が生まれること(選択と集中はそぐわない)、研究内容に加えて研究者の人となりや生活ぶりを紹介するようなサイエンスコミュニケーションもあるといいこと、市民のニーズにあった研究という視点(シチズンサイエンスや当事者研究)など、盛りだくさんだった。
子供への理科教育は等しく必要としても、大人に対しては、研究にそれほど興味のない層に無理に届けなくてもいいのでは、という提案もあった。そういう視点は大事なように思った。
Posted by ブクログ
この本から学んだこと
・日本の科学技術における方針は「選択と集中」であるが、これによって基礎研究がおろそかになっている。
・基礎研究は役に立つかが先行するのもではない。研究者が好奇心をもってやっていたことが、後で役立つものだった、という順番。
・研究者が自分から研究を発信していき、それを面白いと思った人がお金を出す仕組みが重要。
・基礎研究は「0から1」を作り出すこと。技術開発や応用研究など、目標地点のあるものでは効果を発揮するが、基礎研究においては目標を立てられないので効果を発揮しない。
Posted by ブクログ
研究は、全てが役に立つわけではないし、研究している時点で役に立つかはわからない。そのため、役に立たないと思われている研究でも支援をしなければ、将来有益になる研究も潰されてしまうかもしれないし、研究の種が撒かれなくなってしまい、研究が先細りしてしまう。目先の利益だけを追求するのではなく、中長期的な研究支援をするべきだと思う。
Posted by ブクログ
知識は使えば使うほど増えていく資源
違う分野の相互作用が大切
基礎研究=原理の追求:縦糸 × 普遍性(論理体系)の探求:横糸
科学の発展は循環的
波及効果が大きいため、長期的視点が必要 多様性から選択
有用性以前に精神の自由
ゼロを一にするには「選択と集中」は使えない。
古代ギリシャローマの 有用性=ユーティリティ=公共での役割
自分にどう関係するのかを主張する民主的な社会は 高尚な学問に冷たい
説明責任 =感情的アプローチ
公的財源のなかのパイの奪い合い →アカデミアと企業の協業のプラットフォーム
一回は失敗してみる心の余裕