【感想・ネタバレ】刺青・少年・秘密のレビュー

あらすじ

舞台は江戸時代の下町。腕ききの刺青師・清吉の心には、人知らぬ快楽と宿願が潜んでいた。ある日ふとした折に見かけた娘の足。その娘こそ、彼が憧れる肌の持ち主だった。
1年後、偶然にもその娘が訪ねてきた。娘を麻酔薬で眠らせ、一心に女郎蜘蛛を娘の背中に刺し込む清吉。そして娘は――。谷崎潤一郎24歳の処女作「刺青」。

ガキ大将の仙吉と、良家の子息の信一、信一の姉、そして私。踏みつけたり、姉を縛り上げるなど、4人の少年少女の「遊び」は次第に過激なものとなってゆく。子供の倒錯した世界を描く「少年」。

普通の刺激に慣れ切った私は、女装をして浅草の街中を歩くことに悦楽を覚え始める。だが、映画館の貴賓席で、かつて暫く関係を結んでいたT女と出会い――。秘されたものに魅了された男を描く「秘密」。

耽美、サディズム、マゾヒズムが交錯し、それでいて格調高い物語の数々。著者初期の代表作8編を収録した短編集。
永井荷風による「同時代人の批評」を収録。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

◾︎刺青
耽美派と言われてイメージする作風そのもので,知識人のいう「純文学の味わい」とはかくなるかという印象を受けた.
あるファッションモデルが服を着ることで魂をインストールするといった旨のことをどこかで書いていた気がするが,そういった描写をこんなにも艶かしく描けるものかと.

◾︎少年
個人的に最も谷崎らしいといった感想.
各々の描写は汚く,眉を顰めざるを得ないところが多々あるものの,流麗な文体ゆえに何故か美しさも感じる.生々しいのに,一枚薄布が張ってあるような感覚.
秀逸だと思うのは,最後に少年の姉が関係内に置いて覇権をとり,宛ら女王の振る舞いになり,少年らを蹂躙するシーンがあるのだが,直接的な性描写は用いられていないにも関わらず,艶かしく極めて性的.
「フェティシズム」とは耽美派を語る上で外せないキーワードだが,この独特な趣向こそフェティシズムそのものだと実感する.

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2024年01月26日

Posted by ブクログ

ネタバレ

刺青…
妖艶とか蠱惑的という言葉がぴったりなお話。
直接的な表現は全くないのにドキドキ。

少年…
幼い少年少女の無意識の退廃的欲求が凝縮されたお話。私的には地雷というか、最後まで読めなかった。

秘密…
刺激を求めて女装して自ら秘密を持ったり、昔の女の秘密を暴いたあげくに勝手に冷めて捨てたりするお話。こいつ…!!!

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2025年06月02日

Posted by ブクログ


谷崎さん、すいません!あなたは変態かと思って敬遠してましたが、天才でした!

・刺青
清吉という腕の良い刺青師がいた。彼の願いは、輝くように美しい肌を持つ女性を見つけ、その肌に自らの魂を刻み込むことだった。
そしてついに、彼は16、17歳の理想の女と出会う。彼女を睡眠薬で眠らせた清吉は、背中に女郎蜘蛛の刺青を彫った。
目を覚ました彼女は、自分の背中に刻まれた刺青に感激する。清吉もまた、願いが叶ったことで満足した。

嘘でしょ!え?って思いますが、一件落着である。

・秘密
秘密めいたこと、そこにはスリルに近い感覚があるのかもしれない。女装して街を歩く。気付かれているのか、いないのか。その緊張感がたまらなく、また気付かれないようにするための技も魅力の一部なのだろう。しかし、決して秘密を知られてはならない。明かしてはならない。
台無しになってしまったじゃないか!

・少年
「泥棒ごっこをしよう。」そんな他愛もない遊びから、サディズムやマゾヒズムといった性癖が開花し芽生えることがあるのだろう。あくまでも内に秘めていたのかもしれない。
また両者はどちらの気質も持ち合わせているが、大抵の場合、どちらかが主となるようだ。そして、その延長線上にはスカトロジーの世界が広がっているのかもしれない。
自分にはそうした嗜好はなく、理解しがたいし、気持ち悪さも抱くのだが、同時にどこか変態的なものへの興味や魅力に惹かれてしまうところがある。
変態たるや!自分の変態指数が低くて一安心!

・悪魔、続悪魔
強迫観念に囚われ、死を恐れ、神経症に悩む男、佐伯。
ある日、彼は下宿先の娘が鼻をかんだハンカチに、人間の歓楽世界の裏側に潜む秘密の楽園のようなものを見出し、次第に神経症を克服しかける。
しかし、それは一時的なものであり、根本的な解決には至らなかった。
死の恐怖を乗り越えるには、むしろ死に接近するしかないのではないか?と考えた佐伯は…
“殺される”という極限の境地に踏み込むことこそ、行き過ぎた先にある究極の解放だとしても!死んだら何もかもゲームオーバーなんだって!

・神童
瀬川春之助は誰もが認める神童だった。
将来は聖人となり、多くの人の魂を救いたい。そんな思いを抱き、春之助は学問に励んでいた。しかし、父は木綿問屋に30年間勤める一番番頭ではあったものの、大学まで進学させる財力はなかった。
それを不憫に思った校長が店主に口利きし、春之助は書生として下宿できることになった。
神童、天才、そうもてはやされ、自分でもそう信じていたが、それは同時にストレスでありプレッシャーでもあった。時には食欲が暴走し、時には店主の息子を叱責したり、いじめたりもした。勉強に集中できず、成績を心配することもあったが、それでも首席の座を譲ることはなかった。
そんなある日、自分の青白い肌を見たとき、あまりにも不健康に見え、運動を始めてみることにした。しかし、まったくできなかった。体育の授業では教師に馬鹿にされ、同級生たちに笑われる始末。さらに追い打ちをかけるように、顔にはニキビが次々とでき始めた。
ちょうどそのまえに、自分の顔の醜さに打ちひしがれたばかりだったのに、ニキビはそれを一層際立たせた。神童であり、天才であり、誰もが将来を有望視していた。自分でもそう信じていた。
しかし、ニキビはその誇りを打ち砕き、鋭敏で聡明な頭脳の輝きをも曇らせた。次第に倦怠感が募り、疲労が重なり、堕落という影が忍び寄る。
しかしある日、使いに出た先で芸者や半玉のあまりの美しさを目にし、彼は戦慄した。

*ここから抜粋
己は子供の時分に己惚れていたような純潔無垢な人間ではない。己は決して自分の中に宗教家的、もしくは哲学者的の素質を持っている人間ではない。己がそのような性格に見えたのは、とにかく一種の天才があって外の子供よりも凡べての方面に理解が著しく発達していた結果に過ぎない。己は禅僧のような枯淡な禁欲生活を送るにはあんまり意地が弱過ぎる。あんまり感性が鋭過ぎる。恐らく己は霊魂の不滅を説くよりも、人間の美を歌うために生まれて来た男に違いない。己はいまだに自分を凡人だと思うことは出来ぬ。己はどうしても天才を持っているような気がする。己が自分の本当の使命を自覚して、人間界の美を讃え、宴楽を歌えば、己の天才は真実の光を発揮するのだ」
そう思った時、春之助の前途には再び光明が輝き出したようであった。彼は明くる日から哲学の書類を我慢して通読するような愚かな真似をやめにした。彼は十一歳の小児の頃の趣味に返って、詩と芸術とに没頭すべく決心した。

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2025年02月21日

Posted by ブクログ

8編の短編集が収録されてます。 全編通して似たような話はなく、どれも全然毛色が違う話で、さすがと納得しました。 人によってだいぶ好みが別れそう作品ばかりでしたが、個人的には刺青が一番綺麗で好き。 神童と異端者の悲しみ、はなんと捉えて良いのやら悩みます。たぶん、思春期に読むと良かったんだろうなと思えました。

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2022年12月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

新潮文庫には未収録の「悪魔」「続悪魔」「神童」を読む。

「悪魔」は陰鬱とした作品。
神経衰弱の佐伯は汽車や地震を極度に恐れ、そのために死ぬのではないかと怯えている。上京して叔母の家で下宿を始めるが、そこには鈴木という陰気な書生がいて、佐伯の従姉妹の照子と婚約をしていると主張する。しかし照子と佐伯は次第に親しくなっていき、鈴木に恨まれるようになる。最後は照子の鼻水がついたハンカチを佐伯がこっそり舐めるシーンで終わる。

「続悪魔」は、佐伯と照子の関係がさらに進み、最後は鈴木に刺されてしまう。
谷崎は「続悪魔」を執筆するにあたって、「悪魔」の結末部分(ハンカチの場面)をないものと思って読んでもらいたいとしている。

「神童」は、驚異的に勉強のできる瀬川春之助が純粋さを失って驕り高ぶり、自分の堕落を悔い芸術を志すまでを描く。最後に芸術に目覚めるというのは「異端者の悲しみ」と同じ。

「人間の歓楽世界の裏側に、こんな秘密な、奇妙な楽園が潜んでいるんだ。 (中略) 一種掻き挘(むし)られるような快楽が、煙草の酔の如く脳味噌の浸潤して、ハッと気狂いの谷底へ、突き落とされるような恐怖に追い立てられつつ、夢中になって、ただ一生懸命ぺろぺろと舐める。」
(「悪魔」p.148)

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2022年09月11日

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