あらすじ
屯田林憲三郎は妻子ある52歳のちょいオタな公務員。トラックにはねられ気づけば娘がしていた乙女ゲーム「マジカル学園ラブ&ビースト」に似た世界で悪役令嬢のオーヴェルヌ公爵令嬢・グレイスとして異世界転生していた!?「主人公」アンナの健気さに打たれ、アシストするが裏目に出てグレイスの好感度がどんどん上がっていき!?
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見た目は美少女、中身はおじさん。その名は悪役令嬢転生おじさん!
乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生した、善良なオタクおじさん(公務員・52歳)。
戸惑いつつも、とにかく役割を果たさねば!と決めたものの
攻略対象らしき男性の名前はカタカナばかりで覚えられず、つい出てしまう親目線の発言から正ヒロインに懐かれ——。
“正しい”悪役令嬢になれないおじさんは、この世界で一体なにを為すべきなのか!?
設定の時点で面白すぎて大優勝ですが、出オチ感は全くありません。作者はなんと『機獣新世紀ZOIDS』や『ツマヌダ格闘街』の上山道郎先生。
マンガ家人生30年の大ベテランが描く悪役令嬢は、一味も二味も違います!
誠実で優しくておちゃめな妻子持ちのおじさんが主人公なので、恋愛絡みのドロドロも、俺TUEEE展開もナシ。
ストレスを感じることなく安心して楽しめて、ネタで純粋に笑ってしまう作品です。
ステレオタイプはお腹いっぱい……そんなあなたにおススメします!
感情タグBEST3
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Posted by ブクログ
センター、コーナー、エッジ・・・如何にもショーわ~なネタ満載だったが・・・
池田理代子の「ベルばら」の様にシリアスな内容は持たず、かといって高橋留美子の「らんま1/2」の様にあからさまな性的少数者蔑視、女性蔑視のイジメで笑いを取る事もない。
手塚治虫には女性蔑視の考えは皆無だったが、ヒロイン、サファイヤは女性の求愛者に対して乳房をさらけ出し、自らが女性である証とした。
高橋の場合は明らかに女性蔑視の立場からやはり女性の求愛者に対して、女性の状態のらんまに女性である証として乳房を露出させた。
本作ヒロイン、グレイス=憲三郎はかなり豊満な体躯であるが、乳房間溝さえ一切見せない。
本作は異世界に15歳の少女として1ケ月以上生活するのだから当然ある筈の事を全く無視している。
佐藤はつきやあろひろしはこの問題を男性読者に媚びた形で興味本位に扱っている。
この問題を、「女性の抱える重要な困難」であるとして、「表現しない事が良い」と私は単純には考えないが、こうした点を考慮すると本作は子供向けの漫画作品としての節度を良く守っていると言え、人権上も割と正しい配慮と思う。
或いは「転校生」の様な人格の入れ替わりでは無く、少女とおじさんの意識と記憶の統合であるから、少女の記憶からこの問題を特に感じないとも言えるのか。
そうした事もあって女性からの支持も多いのだろう。
本作は全くの虚構世界だが、池田の現実のフランス史に準えた「ベルばら」と同様に貴族制度=身分社会を描いている。
池田の「ベルばら」では貴族が平民の幼い子供を後ろから射殺する表現があるが、本作では「貴族が平民の子供を助けてくれた」と市民が驚き喜ぶ表現がある。(p154)
本作ヒロイン、グレイス=憲三郎嬢がその深い優しさを貫き通す表現とするなら、池田の「ベルばら」の様な展開は避けて通れないと私は考えるが、作者は今後どの様につじつまを合わせるのだろうか。
補遺
パン屋の娘が洋菓子の食べ方を知らないのは不自然に思う。食パン、調理パンだけでなくそうした物も実家で商品として作り、売るの筈だからその知識は豊富に思える。
「リュカはこのまま出てこない方が良い」云々のようなイジメ的発想を心底優しいヒロイン、グレイス=憲三郎嬢にさせるのも不自然である。私に言わせるとリュカは凄く良い子だ。
p123~p124にかけてヒロイン、グレイス=憲三郎嬢は前世に残して来た娘の幼い頃を思い出して、短時間寂しそうな表情をする、此処は良い。
補遺2
p73~p74の「こちら側~そちら側」この辺が善良ではあるが作者の表現の現状での限界ではないだろうか。
「こちら側=貴族、そちら側=平民」という身分制度を廃絶した、現実社会の史実「フランス革命」に沿って描かれた池田理代子の「ベルばら」と比べると同じ漫画のカテゴリーに有っても差が大きい。ご自身がご苦労された事で「働く人々」へのリスペクトを獲得された作者が本当の意味で「働く人々」の側に立って作家活動をされるならば、或いは「強烈な現実の格差社会」に晒されている働く人々=殆どの人々を励まし慰める漫画作品を成そうとするなら、ヒロイン、グレイス=憲三郎嬢の女性として、或いは性別を超越しての人間としての進歩、即ち貴族令嬢としての殻を破るオスカルライクな表現がやはり必要になると思われる。
例えばメイドのジョーゼット嬢は僅か11歳で児童労働に晒されている。前世は市役所職員であったヒロイン、グレイス=憲三郎嬢なら、「児童相談所」と連携して救出/保護とか考え付かないのか?もっとも「この世界」には(不十分ではあるが)21世紀日本のような社会制度は無いと言う設定なのだろう。しかし、p154では「コンプライアンス」云々をヒロイン、グレイス=憲三郎嬢に言わせている。コンプライアンス=法令遵守、個人情報保護を定めた法令はそもそも児童労働が平然と行われる「この世界」には無いのだろう。
高々ギャグ漫画だが、少しだけ考えると腹の底からスッキリとは笑えない。手塚治虫はギャグ漫画でもこの点は抜かりが無かった。
此処をどう他作のパロディ(楽しいが)だけでは無く独自に表現出来るのかが、より私達庶民が腹の底から笑える漫画作品となるのかどうかの分岐だと思われ、今後の作者を期待しつつ見守りたい。