あらすじ
橋上に浮かぶ母の面影、生き別れた親を探し求める少年僧に危機が! 平七郎の人情裁きや、いかに!?…… 「夢のなかでおっかさんに会ったんだ」幼い頃、母親に捨てられた小僧・珍念(ちんねん)が橋廻り同心・立花平七郎に嬉しそうに話した。夢で再現された母との最後の場所。そこは梅の香(か)が漂う橋の上だったと言う。二百数十ある橋を一つ一つ、その香りの記憶をたよりに巡り歩く珍念。だが、折しも殺しが発生、珍念が行方知れずに!(「まぼろし」)。人気沸騰の「橋廻り同心」シリーズ、待望の第8弾!
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江戸の町人世界を知る
天下太平の世が長く続く江戸。特権階級の武士はたいした役目や仕事もなく無為に日々を過ごすだけだ。
反面、町人の世界は盛んになり繁栄するのだが、特に大店と呼ばれる町人の中に取り入る武士が現れる。そこには、金が全てという価値観の変化が見られる。
第二話は、奉行所の内輪の話である。南町奉行所で威勢を謳歌する楠田宗之進が、市中のお店から金を強請り取るという、悪事の物語である。お店の落ち度や弱みを見つけては取り入り、刑罰の免除をちらつかせ、金を強請るのである。
南町の岡っ引の伊勢蔵は、父伊助を殺害されたのだが、その犯人は楠田だという証拠を見つけるために、楠田の関係するお店を根気強く廻り調べる。そして、和泉屋で20両の盗みの事件が起こり、伊助はその犯人が伊助の知人であることが判り、金を和泉屋に返還することで事件の解決を計った。だが、楠田は約束を裏切り、その知人と伊助共々を殺害して事件を終わらせたのである。
立花平四郎、平塚秀太と瓦版屋おこうと辰吉、いつもの仲間が伊勢蔵を助けて、楠田は切腹お家取り潰しで見事に敵を取るのである。
市中の人たちの一生懸命に生きる様子、誠実な人間関係、商売に精を出す町人の姿などが際立ち、反面悪人の悪度さが酷く哀れで、不気味にさえ感じられる。読んでいて興味が湧く物語だった。