あらすじ
引きこもっていたのに働かされるアマテラスオオミカミ、妊娠したら男に「ホントに俺の子?」と疑われるコノハナノサクヤヒメ、恋人と引き離されて石化する松浦佐用(まつらさよ)姫。見知らぬ男にさらわれる絵姿女房。日本の昔話や神話に登場する、理不尽な目に遭う「女の子」たち。
──でも、みんな本当に平気だったのでしょうか。怒っていなかったのでしょうか。
著者は、怒りや悲しみをスルーされてきた昔話の女の子たちの素顔と本心に向き合い、彼女たちがどんなふうに「抵抗」してきたのかとことん語り合う。時に痛切で、時に痛快な、命を懸けた多種多様の異議申し立ては、現代の私たちにきっと力を与えてくれるはず。
優しくて、パワフルで、軽やかなイマジネーションが、千年前の女の子たちとあなたを自由にする新感覚エッセイ「日本のヤバい女の子」第2弾。女の子たちがわいわい語り合う4コマ漫画も収録。
【著者】
はらだ有彩 Harada Arisa
関西出身。テキスト、テキスタイル、イラストレーションを作るテキストレーター。デモニッシュな女の子のためのファッションブランド《mon.you.moyo》代表。2018年5月、『日本のヤバい女の子』(柏書房)を刊行。新聞・雑誌・ウェブメディアで、小説、エッセイ、漫画を発表している。本書のイラストも担当。
公式サイト:https://arisaharada.com/
Twitter:@hurry1116
Instagram:@arisa_harada
[はじめに全文]
降ろされた幕をこじ開けて、物語の続きを
昔話の中には、理不尽な目に遭う女性がいます。彼女たちは奪われたり、捨てられたり、無理やり結婚させられたり、重責を背負わされたり、ナメられたり、敬遠されたり、ときには殺されたりします。
たとえば、「古事記」「日本書紀」に登場するコノハナノサクヤヒメは、妊娠したお腹を指して「ホントに俺の子?」と疑われます。同じくアマテラスオオミカミは引きこもるほど心に傷を負っても働かなくてはなりません。「絵姿女房」は会ったこともない男に攫われます。「松浦佐用姫」は社会に愛する人を奪われました。身体を揶揄されたり、一度ならず二度も命を奪われた女性たちもいます。
物語はなぜか、彼女たちの悲しみや苦悩をなんとなくスルーしたまま進んでいきます。
――そういう話だから。そういう風に決まっているから。
でも、みんな、本当に平気だったのでしょうか。怒っていなかったのでしょうか。
怒っていいんだよ、と言われる、言える時代になってしばらく経ちました。いやだと思ったら声を出せる。運命だと受け入れず、拒否したり、怒りをあらわにできる。
それでも、怒るのは難しいことです。始めるのも持続させるのも体力を消耗します。「また?」と面倒な顔をされたり、その瞬間の表情を切り取って感情的だと言われたり、すぐに十分な手ごたえを感じられない場合もあります。怒りが薄れていくことに罪悪感を抱くこともあります。
昔話の中には、取り返しのつかない罪を犯してしまった女性もいます。裁かれる彼女たちの横顔を「うつくしい悪女萌え」と持て囃す視線はあれど、「どうしてそんなことをしたの」と聞く人は多くありません。生まれながらにして悪逆非道だったのか、それとも救済の欠如によって、悩み、後悔しながら人ならざるものに変わっていったのか。限界を迎えてしまう、もっともっと前に怒ることができていれば、破滅に向かわずに住んだのか。いずれにせよ彼女たちの罪の理由もまた、なんとなくスルーされたままです。
――女というのはそういう生き物だから。そういう風に決まっているから。
昔話を見渡して、ふと気づいたことがあります。
もしかしたら、怒りを表現する方法は一つだけではないのかもしれない。泣いたり、暴れたり、叫んだりしていないからといって、怒っていないとは限らないのかもしれない。
たとえば――
楽しく暮らすこと。サボること。
全然話を聞かないこと。真実を教えないこと。
ずっと忘れないこと。二秒で忘れること。
ここに立っていること。消えてやらないこと。
生きていること。生きていたこと。
静かだけど、これらも確かな抵抗の表明なのかもしれない。人々を尻目にニヤリとしている女の子を、あるいは気づかれずにがっかりしている女の子を、自分でも知らないうちに奮い立っている女の子たちを追いかけて、呼びとめて、「あの時」考えていたことを聞いてみたい。
これは昔話の女の子たちと「ああでもない、こうでもない」と文句を言いあったり、悲しみを打ち明けあったり、ひそかに励ましあったりして、一緒に生きていくための本です。
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この本は、二〇一八年に刊行した『日本のヤバい女の子』を読んでいても読めるし、読んでいなくても読めるようになっています。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
ずっと気になっていてやっと読めた。
フィクションでも昔のお話でも、「女らしさ」とか「普通」の規範から外れた女性たちが強く逞しく生きていたんだって思うだけで元気付けられるものがある。
八百屋お七とか、恋に恋して情熱的でガチで強いし、とりかえばや物語の双子とか、生きてるだけで抵抗、感あった。
古典自力で探すのは怠いけど面白い話いっぱい詰まってるなあ……というかこの作者の語り上手いなあとか思った。
Posted by ブクログ
昔話の女性たちに思い入れて書いたエッセイ。
昔話は当然男目線で書かれているものが多いので、今の女性の感覚からするとおかしな、不条理な話が多い。
筆者は「はじめに」で語る
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物語はなぜか、彼女たちの悲しみや苦悩をなんとなくスルーしたまま進んでいきます。
ーーそういう話だから。そういう風に決まっているから。
でも、みんな、本当に平気だったのでしょうか。怒っていなかったのでしょうか。
怒っていいんだよ、と言われる、言える時代になってしばらく経ちました。いやだと思ったら声を出せる。運命だと受け入れず、拒否したり、怒りをあらわにできる。
それでも、怒るのは難しいことです。始めるのも持続させるのも体力を消耗します。「また?」と面倒な顔をされたり、その瞬間の表情を切り取って感情的だと言われたり、すぐに十分な手ごたえをかんじられない場合もあります。怒りが薄れていく毎日に罪悪感を抱くこともあります。
(中略)
これは昔話の女の子たちと「ああでもない、こうでもない」と文句を言いあったり、悲しみを打ち明けあったり、ひそかに励ましあったりして、一緒に生きていくための本です。
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筆者の昔話の発掘力、昔話の女性と周囲のおかしな登場人物たちの動きにたするツッコミがかなり面白い。
そのツッコミと、女性たちの共感と、なぜそういう風になっているのかの想像力はそのまま、文学の深い鑑賞につながるものだと思います。
Posted by ブクログ
昔話や伝承のなかで異端として扱わられる女性達に友人のように寄り添う文章で紹介してくれる。
皆「自分」でいただけなのだ。
やまとなでしこなんてくそくらえ。
鬼を拝んだお婆さんとちょうふくやまの山姥が特に好き。
Posted by ブクログ
第一弾と比べるといくぶんマイナーなラインナップだったせいかやや、パワーダウンの印象。でも、前著と同様、様々な昔話の女子たちの気持ちをすくい取る姿勢がとにかく好印象。何百年も後の現代にこうやって気持ちを理解しようとする試みをする人がいることに本人たちも喜んでいることだろう(創作だんだろうけど)。一番グッと来たのは「アマテラスオオミカミ」。あとがきに書かれた「題材にする昔話を探す方法」が興味深い。
Posted by ブクログ
かつて存在していたかもしれない、昔々の女の子たちを深い敬意で「生き直す」。通り過ぎていった彼女たちの痛みや悲しみ、怒りに足を止める。怒り続けることは疲れること、それすら肯定してくれる。はらださんの解釈に、私も生きてていいんだと少し体が軽くなる。
Posted by ブクログ
前作に引き続き「静かなる抵抗」編もとてもよかった。言語化できないもやもやを晴らしてくれてありがとうございます。心に残る言葉がいくつもあり、書き写した。読んだそばから忘れてしまうタイプなので、折に触れて見返してまた勇気をもらいたいと思う。
Posted by ブクログ
前作の続編になるようだが、今回はちょっとマイナーな女の子が多い、もちろんアマテラスやとりかへばやのように超メジャーなのも混ざってはいるだがまるで知らない物語も多かった、その上著者の妄想の連発でちょっとついていけなかったかな、このシリーズもこれで打ち止めって事でいいんじゃない。
Posted by ブクログ
●なぜ読んだか
→タイトルと帯のコピーに惹かれた。
“今ですら生きづらいのに昔やばくない?”
の言葉に、確かに…!と思い手に取ってみた本。
●感想
→なんだか時代を超えて昔の女性たちから励まされているような、そんな元気が湧いてくる本。
日本書紀や古事記、今昔物語、平家物語など
歴史書に登場する女性にスポットライトをあて、
“これって今だとどうなんだろう“と現代に置き換えてあれこれ考えるきっかけになる。
歴史書もライトに今風にあらすじを紹介してくれているので非常に読みやすくポップで面白い!
“女性”として生きていく上で元気をもらえる本でした
Posted by ブクログ
優しくて、パワフルで、軽やかなイマジネーションが、千年前の女の子たちとあなたを自由にする新感覚エッセイ「日本のヤバい女の子」第2弾。女の子たちがわいわい語り合う4コマ漫画も収録。
前作が面白かったので迷わず購入。これこれ、求めていたのはこれですよ。私、古典とか苦手なんですけど、思いつきもしない発想で物語の彼女たちを自由に解き放ってくれるような感覚にしびれます。読んでいるとなぜか元気になれる。今も昔も逆境に立ち向かう女子たちの「抵抗」が決して卑屈なものではなく、生きるために当たり前の権利を使っていただけなんだなと思う。印象に残ったのは怪力の女子。普段は見せびらかしもしないで、普通に暮らしてたのに。意味不明なちょっかいかけてくる奴っているよなー。失ったものもあるけどスカッとする話。また続編読みたいな。
Posted by ブクログ
初っ端の「鬼を拝んだおばあさん」で泣いてしまった…。推しがいる人はわかる、わかりみ、わかりすぎる…ってなると思うの…。
あいも変わらず出てくる男のろくでなし度、ぼんくら度が高い。「結婚相手の連れ子の器量が悪いから殺した」「駆け落ち相手が病に伏せって足手まといになったから殺した」スサノオノミコトはお姉さんのアマテラスのところで好き放題してほんとクソだし、コノハナサクヤヒメの夫も…。その中で、女たちがどんな抵抗をしたか怒りを表したか。あーー!今作も面白かったです。
特に好きだったのが先述した「鬼を拝んだおばあさん」
「磯良(雨月物語)」
「尾張の国の女(今昔物語)」
「北山の狗の妻」
「アマテラスオオミカミ」
「松浦佐用姫」
「ちょうふく山の山姥」
「山姥と百万山姥」
北山の狗の妻の話は異類婚姻譚が好きなので、ロマンチックな解釈をしたい。ちょうふく山の山姥や、百万山姥は表題の怒りや抵抗とはちょっと違うかもだけれど、お話に出てくる二人の関係がとても興味深くて心に残る。
たまにこじつけというか、話の繋がりが飛んでいるように感じて「ん?」ってなるところもあったけれど、楽しく読めました。
筆者の文体がほんと好き。
Posted by ブクログ
伝説、伝承に登場する女の子たち。
「鬼女、紅葉」は本当に悪女だったのかと思う。
好きでもない男と無理やり結婚させられそうになった、嫌だから身代わりを送り込んだ、好いた男の子供を孕み、正妻に邪魔されて田舎へ移り住み、村人を手助けして崇められる……。
人には二面性がある。
則天武后も、西太后も悪女と言われたが、一方で繁栄や、それまで虐げられてきた人々の地位向上なども行った。
一方では確かに悪い面もあるが、一方では素晴らしい功績も残す。
なんだってそうだ。
ものの見方で人は変わる。
ただ、女性だと、悪い方に描かれがちだ。
それは為政者が多くは男だったせいか、それとも、本当に女の方が悪いのか。
「尾張国の女」などはまさにそれ。
単に力が強いというだけで、夫には離縁され、商人には絡まれ、現代と変わらないなあという気がする。
女性アスリートは、やれ可愛いとか可愛くないとか言われ、化粧すれば調子乗ってる、競技に集中しろよ、なんて言われる。
「お前らにカンケーねーだろ!」「私は私のやりたいようにやってるだけだ!」と、思っているかもしれない。
かくいう私も本人ではないので、本人たちは大して気にしていないかもしれない。
罵倒も同情も、所詮外野の声だ。
「とりかへばや物語」も学校の古典で登場するが、これもまた現代と変わらないところに、もやつく。
180ページ「『一見フェアなトレードっぽい理不尽な交換条件』は今も私たちを取り囲んでいる」は全くそうだ。
「女/男の単純な二分化は、生殖のシステムという巨大な後ろ盾に守られた、最も思考停止しやすい分類」に首がちぎれそうになるくらい肯く。
この国は変わる気がないのか。
5年後、10年後には変われると良いな。
生まれ育った国が、バカな国だなんて思いたくない。
Posted by ブクログ
「あの日、小林書店で。」をきっかけに、気になって読んだ1冊。
日本に昔からあるというだけで、そういうものだと納得して受け入れた気になっていたお話達。
でも本書にて、著者がそれらを掘り下げていく内容を読んでいると、自分が疑問を持たなかったことが不思議で堪らなくなるほどの、ツッコミどころの多さに驚かされる。
特に登場人物目線で物語を見た時、そんな感情になるだろうか、その着地点は納得できない、と違う目線での楽しみ方が生まれてくる。
日本古来からある物語に興味が生まれ、またフランクな感じでの楽しみ方を知れる内容だった。
Posted by ブクログ
伝説、物語などに登場する女性のはらだ氏による新解釈。友達に語りかけるようなざっくばらんな口調で、昔々の出来事を要するに今で言えばこういうことじゃんって調子でめったぎり。ほんと女って苦労してるのかも。
雨月物語の磯良が良かった。
Posted by ブクログ
過去作が好きだったので続編も読んだ。
神話や民話を学問的に解説するのではなく、あくまでも物語の女たちを題材として、現代の女たちを元気づける本。なので、ちょっと強引に感じるところもあった。
各話に出てくるイラストがモダンで素敵。個人的には、山姥とおばあさんが並んでるイラストが一番好き。
Posted by ブクログ
日本の古典に登場する女性たちの行動における意思を現在の視点から推測してみるという内容。
ポップなタイトルや表紙とは裏腹に、一つ一つの物語について、それに関連する話についてとてもよく調べられていて面白く説得力のある内容だった。
昔話では女性の行い、怒りや恨み、それに至る心の流れがスルーされているという指摘が印象的だった。女性が怨霊になって人を殺す前に止められたのではないか、誰かが慰めてあげればそれで救われたのではないかという考えがとても優しく、彼女たちに心から寄り添っていると感じた。
この本で紹介されている女性たちは物語に登場する前から様々なレッテルを貼られ、そのレッテル通りの行動を強制されているように感じた。しかし実際の世界では私たちの人生は役割ベースで物語の最後まで決まっているものではないと思う。途中で思いもよらない出来事があり、それによって感情が動き、自分自身の考えや生き方が大きく変化したりもする。だからこそ一つの視点から人を判断するのではなく、一行ではまとめられない物語がそれぞれに詰まっているということを忘れないようにしたい。
Posted by ブクログ
以前出されたものから読もうと思っていたのに、間違えて新しい方から読んでしまった
各話の最初の3行ほどと、最後のアスタリスクから先が唐突すぎて、いる?って感じだった
他は読みやすくてよかったかな
一気に読むより各話少しずつ読めばよかったかも
食傷気味
Posted by ブクログ
昔のお話を知れるのは勉強になった。
4コマ漫画が可愛い!
鬼を拝んだおばあさん
尾張の国の女 怪力
アマテラスオオミカミ
絵姿女房が印象に残ってます。