【感想・ネタバレ】入らずの森のレビュー

あらすじ

陰惨な歴史が残る四国山中の集落・尾峨に赴任した中学教師・金沢には、競技中の事故で陸上を諦めた疵があった。彼の教え子になった金髪の転校生・杏奈には、田舎を嫌う根深い鬱屈が。一方、疎外感に苛まれるIターン就農者・松岡は、そんな杏奈を苦々しく見ていた。一見、無関係な三人。だが、彼らが平家の落人伝説も残る不入森で交錯した時、地の底で何かが蠢き始める…。ホラーの俊英が、ミステリ要素満載で贈るダーク・ファンタジー。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

「愚者の毒」と同じ作者だったので。

怖かった。
どこにも書いていなかったが、
人ならずものが好むのは人の心の闇だと思い、
それぞれ闇を抱える登場人物の誰が餌食になってしまうのだろうかと、
怖かった。

ホラーは好きではない。
カバーによるとダークファンタジーというらしいが、
昔の人殺しの話とつながる気味の悪い粘菌の話だとわかっていたら読まなかったと思う。

しかし、面白かった。
次々とピースがはまっていくジグソーパズルのように、
様々な話がつながっていく。
ただし、そのピースは普通のジグソーパズルとは違って、
大きさも形も一定ではない。
大きくて何が描かれているのかが判るピースは当然真ん中に置くとして、
描かれていることはわかるけど、
全体の絵の中のどこに入るのかさっぱりわからないピースもある。
脇にまとめて置いておく。

そして、ピースとは思わず見過ごしてしまう小さいピースもある。
しかも、小さいピースが後で重大なかけらとなる。
最後のピースをはめたときに見えるのは、
ただの謎解きではなく、人の心の美しさであり、醜さであり、強さであり、弱さ。

この作品はミステリー、美しいミステリーだと思う。

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2018年06月24日

Posted by ブクログ

ネタバレ

タイトル・表紙・あらすじに惹かれて購入したものの、本棚で「積読」になっていたのを思い出し読み始める。
舞台は自然に囲まれた集落の寄り集まった村。
そんな環境に馴染めずにいる思春期の少女・自分に自身の持てない青年・理想を追い求めて移住してきた壮年の3人が主軸になって話が進んでいく。
他の登場人物にもちゃんと役割が振られており、それぞれが過不足無く動いていく。
一見どのような役割を持っているのか分からない登場人物も、以外な関わりを持っている(いささかご都合主義のような気もするが)。
事件の「犯人」は早い段階で見当がつくが、それがどのような形で関わっていくのかが面白い。
ラストシーンは「きっと、こうなるんだろう」と予想していた通りだったが、それも含めて満足の1冊だった。
少女が語る「これは私の目印だから」の言葉が印象深い。

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2018年04月02日

Posted by ブクログ

ネタバレ

まず、民俗的・伝奇的な要素が前面に押し出された舞台設定が私の好みで、最初から嬉しくなる。
これは「パラサイト・イヴ」(瀬名秀明 著)や「天使の囀り」(貴志祐介 著)などのように、創作された科学的根拠に裏打ちされたSFミステリー、あるいはホラーなのかな…と思いながらページを繰っていったが、どうやらそこまで厳然と定めているわけではないようで、さらには過疎地の農村移住につきまとう諸問題、愛に飢えたティーンエイジャーの苦悩、老親の看取りを巡る家族の軋轢、挫折を味わったスポーツエリートの再生に至る道筋…等々、現代の日本社会が抱える様々な歪みや課題までがてんこ盛りに詰め込まれているではないか。
それが確かな技術と筆力のおかげで、特にとっ散らかっている感もなく、スムーズに読み進められた。
人が触れられたくない恥部というか、記憶の底に封印してしまいたい瑕疵のようなものにこうもズバズバ斬り込まれると、もう拒否ではなく感心するしかない。

肝心要の粘菌にまつわるくだりは、やや説明が硬く回りくどいきらいがあるので少しもったいなく感じ、付け足しのようなエピローグもいかにも凡庸な印象で、そこは残念だった。

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2020年01月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

いや~よくできてる作品だ。
訳あって四国の山あいの中学校で教師をしている金沢圭介、会社勤めが嫌になり脱サラして夫婦で農家を営む松岡隆夫、認知症と心臓を患い埼玉の病院で最期の時を迎えようとしている菅田ルリ子。それぞれの話が並行して語られる。
圭介の中学校の校歌にまつわる過去が明らかになり、何の繋がりもなかった三つのエピソードが一つに繋がったとき、思わず鳥肌が立った。
平家の落人伝説、粘菌、南方熊楠、意図的に消された校歌の3番の歌詞、天井裏からしか見えない部屋にいる少女・・・
ぬり、にゅるり、とぷん、ぴゅちょ、ぎゅるあらゆる気持ち悪い擬音語を駆使して表現される「それ」の不気味さ。
自分が「それ」に取り込まれていくような心もとなさを感じながら、読む手が止まらない。
人間の強い負のエネルギーを養分にして巨大に育つ「それ」は深い森の中で今もじっと機会を狙って待っているのか・・・あ~怖かったよ~。でも最高に面白かった。

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2017年09月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

まず、表現に小さな違和感。
例えば、天井裏からそこに実在していない少女を見下ろす描写。

「睫毛が頬に影を落とす様も、まるでそこにいるかのように」

天井裏から見ているのに、下にいる少女の睫毛が頬に影をおとす様を視認することができるだろうか?

次に、粘菌の進化について。

環境に適応できた種だけが生き残る。それが種の保存。進化である。

そして粘菌は、平家の怨念が美味しかったので、その餌を求めて人に取り憑く。

これは、進化としてはちょっと無理がある。そもそも人のいない場所で生息しているのだから、人を餌にすること自体、環境に適応できているとは言えない。

平家物語は1221年頃、大沢正の事件は1928年、この間707年。さらに、山に住んでいた者たちは己を律する不文律があったというから、こうなってくると別の嗜好品を求めるように進化するのではないか?

そして、最後の絶壁の場面。餌になる人間を崖下に追いやって無事に餌にありつける、という思考に至るのだろうか?人間を操り、憎悪を判断できる粘菌が。

んー。全体的にちょっと残念。


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2021年09月09日

Posted by ブクログ

ネタバレ

怖がりの癖して、なんでこんな本を次々に買ってしまうのか。帯には「注意!夜一人で読まないでください」とあるし、こんな表紙の本が家の中にあるというだけでも怖いのに。カバーをしっかりかけて、しかも酔っぱらっていたら怖さも感じないかもしれんと思い、お酒を飲みながら読みはじめました(笑)。結果、しらふでも大丈夫です。終盤は怖いどころか、いい話で泣きそうにすらなりました。

愛媛と高知の県境近くの山間の村。まもなく廃校になる中学校に赴任した圭介。廃校にあたり、みんなの思い出になるものをつくろうと、各学年テーマを決めて取り組むことに。圭介が受け持つ生徒たちは、歌い継がれてきた校歌の由来について調査を開始するうち、村人たちから「不入森」と呼ばれる森に平家の魂が閉じ込められているという噂があることを知る。さらにはこの一見のどかな村で、数十年の間に二度も殺人事件が起きていると聞かされる。いずれも村で疎外感を抱いていた人物が犯人で、突然気が狂ったようになり、猟奇殺人に及んだという。

何かが潜む森の話なら、三津田信三の『ついてくるもの』に収載されている「八幡藪知らず」のほうがよほど怖い。ホラーの苦手な者にとって、怖い以上に物語として面白いかどうかが読みたい気持ち持続の決め手となるわけですが、怖さの点ではたいしたことがありません。都会で心が折れて田舎暮らしをはじめた隆夫という男が次第に狂っていく過程がいちばん怖い。表紙となっているのは、両親が離婚して祖母が暮らすこの村へとやってきた、金髪の不良少女・杏奈。それがわかればこの表紙も怖くない。彼女と同級生たち、それに祖母に終盤泣かされます。こんなホラーなら大歓迎!と思ったのですけれど。

このエピローグは個人的には要らないと思う。せっかくいい話だったのに、エピローグで一気に世俗的に。ホラーとしてはこんな〆のほうがいいのでしょうけれども、私はその前で終わっておいてほしかったなぁ。

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2017年08月18日

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