あらすじ
関東各地の自動販売機から、血のついた五千円札が相次いで発見された。同じ頃、増水した川で原発取材をしてきたジャーナリストが死亡する。事故なのか、他殺なのか……フリーライターの木部美智子が取材を進めると、二つの事件に思わぬつながりが見えてくる。その先に待ち受けていたのは――忘れられた過去と幾層にも重なった謎を解きほぐし、百年に及ぶ人間の業を描いたシリーズ最高傑作。(解説・千街晶之)
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Posted by ブクログ
望月諒子『野火の夜 木部美智子シリーズ』新潮社文庫。
フリーライターの木部美智子が活躍するシリーズの第3弾。裏表紙の紹介文に『シリーズ最高傑作』という惹句があり、迷わず購入。気が付けばこのシリーズは前2作も読んでいた。
世の中の腐敗構造を背景にした社会派ミステリー。『シリーズ最高傑作』という惹句に違わず、非常に面白かった。
まさか現代で起きた事件が25年前に起きた事件につながり、さらには終戦間際の満州で起きた出来事とつながっていくとは思わなかった。
第一次産業に頼るしか無い地方で、産業の衰退と共に新たな事業を創設し、一時は隆盛を極めたが、再び衰退し、結局は原発マネーに頼るしか無いという負の連鎖。そんな盛衰と衰退の波に翻弄されながらも土地にしがみついて生きる人びと。借金漬けで首が回らなくなった者は死を選ぶか、一時の迷いで犯罪に手を染めるしか無いのだ。
プロローグには、1996年8月7日、愛媛の宇和島で神崎小太郎は一家を襲い、大量の五千円札を奪って逃走する場面が俯瞰的な視点で描かれる。
本編に入ると、2021年、関東近郊で血の付いた旧札の五千円札が大量に見付かるという不穏な事件が描かれる。その総額は二百万円にも上り、何者かが旧札に対応した自販機や両替機で五千円札を千円札に両替していたことが判明する。
しかし、両替した人物の正体は直ぐに明らかになる。弁護士の桐野真一のもとを訪れた中古車販売店経営者の森本賢次は36歳になる息子が血の付いた五千円札を両替したことについて相談する。その五千円札は25年前に四国から九州に向かう船の中で森本が盗んだもので、元々は五千三百万円余りあったと言う。
一方、フリーライターの木部美智子は興味を惹かれる事件も無く、燻っていた。そんな中、原発ムラを取材していた悪徳ジャーナリストの立石一馬の死亡したという知らせが入る。
さっそく、立石の死の真相を調べる美智子だったが、上司から血の付いた五千円札について取材するよう指示される。美智子が取材を進めるうちに血の付いた五千円札を両替していたのは、森本賢次の息子の加津也であることを知り、その五千円札は賢次が25年前に四国から九州に向かう船の中で薄汚れた風体の若者から盗んだことを突き止める。そんな中、賢次がビルから転落死したとの連絡が入る。
美智子が五千円札の出所を調べるうちに25年前に愛媛で起きた失火事件に行き当たり、さらにその事件とジャーナリストの立石の変死とがつながっていく。
本体価格850円
★★★★★