あらすじ
終戦から十八年後に届いた、塁(るい)の散り際の言葉──。再び回り始めた運命に導かれ、三上(みかみ)にもたらされたのは、生前に塁が書いていた手紙の束だった!! 塁の保護者代わりの衛藤(えとう)との邂逅で、初めて塁の心情が明かされる「ローレライの手紙」。懐中時計を修理する三上に初めて抱いた恋の前兆、二人が迎えた初めての夜──。『蒼穹のローレライ』塁&三上ペアのエピソードを網羅した番外編集第3弾!! ※口絵・イラスト収録あり
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Posted by ブクログ
どうか帰って来て、帰って来て下さいよ、海鷲の皆さん…
特に塁…。
最後のifの世界の2人のイラストが嬉しいやら悲しいやらでもう…
番外編だから大丈夫だと油断していましたが、やはり外で読むのは危険です。本編をバーガーキングの隅でハンバーガーをもっしゃもっしゃする合間に嗚咽しつつ読んでいた私(ある意味で器用)、今回はバスを待ちながら静かに涙腺ダムを壊す私。
これはもう、もうですよ、語彙力なんてラバウルの海に零戦と共に沈みました。
刊行された1945シリーズの中では本作の本編『蒼穹のローレライ』が1番好きなので、また2人の姿を読めるだけで有難い事です。
己の命に変えても家名の名誉を取り戻したい、その為には誰に何を言われようとも構わない。
そんな塁にとって三上がどれほど救いになったかが良く分かる番外編でした。
こっそり三上にも知られずにそんな手紙を出してたのか…もう、そりゃバス停で泣くよ私は。
また最後に残した言葉を思い出してしまって余計に辛いよ。
おびのりさんが仰っていた、同性愛者であった折口信夫先生も最も愛していた男性を戦地で亡くされたそうですが、その男性、藤井さんから先生に宛てた手紙を拝読したのですが、ほぼ全部に先生の身体を心から気遣う文言が書かれてありました。本当に愛し合っていたんだなと、あれを読んでいても涙腺が決壊しそうになったものです。
塁の手紙はそんなに長いものではなく、三上に宛てたものでも無いですが、どれだけ三上の事を想っていたかが伝わる…それはもうバシバシ伝わる!
マフラーの話もじゃんけんの話も幽霊が怖い話も全部、塁が可愛くて良かったのですが、1番良かったのは直接的な2人の話ではないのですが表題にもなっていた『海鷲に告げよ』
とある理由で敗戦色濃厚になってきたラバウルに左遷された整備士、梅原のお話。
そこで零戦の搭乗員である榊と友人になるのですが、整備士は搭乗員が無事に帰って来られるように完璧な整備をして送り出す事しか出来ない。
敗戦間近のラバウルは物資が圧倒的に不足しており、多少の不具合が気になってもなんとか整備可として飛ばさないとならない。
それは親友の榊の命に関わる。
整備士もこんなに辛い思いをしていたんだなと再確認しました。本編で三上が相当苦しんでいたので分かってはいたのですが、愛する人を乗せていなくても、そうだよな、大事な友人だって同じだよな…と切なくなる。
苦しむ梅原を見て三上も涙ぐんでいましたが、それがもう…もう!!
語彙力が零戦と共に(以下同文)
三上と塁に関しては他のペアのようにその後の暮らしは読めないわけですが、その代わり戦地でのほっこりエピソードや切ない塁の思いなどがたっぷり読めてかなりのご褒美でした。
特に塁の懐中時計を三上が直すエピソードは1番好きな所だったので、そこを深掘りして下さってるのが嬉しい限り。
本編では猫のようにふらっと修理中の三上の所にやって来ていた塁ですが、こんな事を考えていたんですね。これを踏まえてまた本編が読みたくなる。
そして最後にifの世界、二人で夏祭りですよ…
やめてよ、いや嬉しいけどやめてよ…。また食堂の隅で一人涙を垂れ流す事になったじゃないか…。
行かせてあげたかったよ!二人でりんご飴食べさせてあげたかったよ!!花火だって見せたかったよ!!
なんでだよ、尾上さん!!(鬱陶しい読者)
本作はこの嬉しいやら悲しいやらがないまぜになって、読むのにかなり時間がかかってしまいました。読み終えてしまったらいよいよ三上が1人になってしまう気がして、途中で他の本を挟んで延命していたのですが、遂に読み終えてしまいました。ごめんね三上。
ようやく次の番外編に進む事が出来ますが、シリーズ総じていよいよ最後。
他のペアには思い切り幸せな所を私に見せつけて欲しい所です。(特に坊ちゃん)
塁、帰ってきてえー!!!!(本当に鬱陶しい読者)
Posted by ブクログ
尾上与一1945シリーズ復刻第2期第三弾
みんみんの後を追い、レビュー2番目。
本当に素晴らしいシリーズで、今回は“ローレライ”の塁と三上のスピンオフの短編掌編ですが、充分堪能させていただきました。
本編で、塁の戦後はないことはわかっているにもかかわらず、それでも内地に帰り三上との生活を築けることはないのかと儚く願いながら読んでしまう。
そして、自分の家の名誉回復の為に戦い続けてきた塁の拠り所となる三上への愛情は、想像以上に重く深く。
折口信夫先生も伴侶であった男性を南方で1945年に硫黄島で亡くされて、文学忌まで作られている。きっと、このシリーズを知ったら気に入ってくれたはず。
海鷲は、俊敏で扱いやすく、パイロットに愛されたけれど、時代の進歩の中で早く役目を終えた戦闘機らしい。尾上与一さんの掌編に出てくるとなると、この「軽快だが時代に取り残されていく」感覚が、この小説の時代背景とうまく響き合っているんじゃないでしょうか。
これは番外編なので、まずはぜひ本編『蒼穹のローレライ』から読んでいただきたいところです。入手が少し難しくなってきていたところでの復刻です。今なら、労せず手に入るかなと思います。