あらすじ
主人対奴隷,白人対混血,中央対地方,理性対非理性――.「権力構造の地図と,個人の抵抗と反抗,そしてその敗北を鮮烈なイメージで描いた」(スウェーデン・アカデミーによるノーベル賞授賞理由),ラテンアメリカ現代文学最後の巨人バルガス=リョサ畢生の超大作.凄絶悲惨な戦闘の果てに,信者たちは何を見たのか?(全二冊完結)
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Posted by ブクログ
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■上げて上げて上げて落とす
カヌードスの反乱を討つべく第三回遠征の指揮官となったモレイラ・セザル大佐。彼への期待はその華々しい登場で描写されている。多くの民衆が駅に駆け付け歓声を上げる、大佐は小柄だが他の有象無象とは違う雰囲気を醸し出し、ただ一人強者の風格を漂わせている。その隊は「常勝連隊」であり、大佐の愛馬である白馬がおろされる。極めつけは第一回遠征と第二回遠征の「敗者」カストロ大尉とフェヘイラ中尉との会話だ。大佐は補佐として連隊に加われという命令を受けた二人をどう扱ったか。ひと握りの盗賊にすら勝てなかった恥晒しなどに用はないと冷たく言い放つ。これらを今風に言うと「負けフラグを構築している」。数々の反乱を鉄拳で叩き潰し、陸軍を侮辱した新聞記者を容赦なく射殺した大佐は半ば神格化されていた。これでもかというくらいモレイラ・セザル大佐は持ち上げられている。まだ3章の始まりだというのに。ここから第三回遠征隊がカヌードスに到着し戦闘になるまでが長い。その間ずっと勝ったも同然の大佐の連隊の行軍となる。大佐が唯一恐れるのはアントニオ・コンセリェイロ及び復古派反徒が既にカヌードスから逃亡してる可能性だけだという。大佐はアントニオ・コンセリェイロの背後にこの狂信者達を操って、王政復古を企む黒幕がいると確信している。散々持ち上げられる大佐だが、彼もガリレオ・ガルと同じく不確定な情報に踊らされる哀れな道化役だと仄めかされているように思う(私にはガルに何か積極的なものを見出すことはできなかった)。気を張り詰めた代償か大佐は倒れてしまう。そこで大佐が敵視する男爵に命を救われるが、ここでも己の信念は曲げない。男爵からは狂人だと看破される。若干雲行きが怪しくなったが、カヌードスに着く。3章はずっと大佐のターンだったが、3-Ⅶでようやくカヌードスの反乱者との戦闘になる。さぞや一進一退の攻防をじっくり見せてくれると思いきや、あっさりと決着がついてしまう。大佐戦死!はやっ!今までの持ち上げと引っ張りは何だったのか。そう、すべてはこのための溜めだったのだ。上げて上げて上げて一気に落とす――